自社保有データの分析だけでは限界、多様な外部データを活用できる仕組みが必要と訴え
国内でもデータマーケットプレイスに注力していく理由、Snowflakeが説明
2022年10月26日 07時00分更新
Snowflakeは2022年10月24日、同社が展開するデータマーケットプレイス「Snowflakeマーケットプレイス」についての事業戦略と導入事例の記者説明会を開催した。同日には日本企業として新たに5社(インテージ、xMAP、MDV:メディカル・データ・ビジョン、エム・データ、Tangerine)がマーケットプレイスに参画することも発表している。
同社日本法人社長の東條英俊氏は、日本国内においても企業の枠を超えたデータ共有が徐々に進んできており、そうした外部データの活用につながるマーケットプレイス事業を「力強く推進していく」と語った。また同説明会では、すでにマーケットプレイスに参画しているQUICKがゲスト出席してその狙いを紹介したほか、デロイト トーマツがサステナブル経営/ESG経営におけるデータプラットフォームの重要性を説明した。
Snowflakeが考える「データクラウド」とマーケットプレイスの戦略
Snowflakeでは、マルチクラウド展開するデータウェアハウス(DWH)/データ分析基盤とデータマーケットプレイスを統合した“データクラウド”というコンセプトを掲げ、その提供を推進している。これはSnowflakeプラットフォーム上で、データシェアリング/データエクスチェンジ(データ共有と売買)の機能を提供することにより、ユーザー企業それぞれが持つデータが結びつき“データのネットワーク”を拡大させていくものだと、東條氏は説明する。
実際に、そうしたユーザーデータどうしの結びつきは加速しているという。Snowflake上のステーブルエッジ(6週間以上アクティブなユーザー企業間データ共有数)は、2020年度には373だったものが、2021年度には674に、そして2022年度には1550にまで増えている。「データクラウドが、この3年くらいで一気に拡大してきたなと実感している」(東條氏)。
こうした動きが進むのは、個々の企業が保有するデータ(「個社保有データ」)だけを分析するのでは限界があるからだ。東條氏は、企業はパートナーやサプライヤー、顧客と共有する「業界特化共創データ」や、気象や株価、都市の人流、人口動態といった「一般データ」を自社のデータと付き合わせることで、初めてビジネスの実態を把握し経営判断を行うことができると説明する。
こうしたSnowflake上でのデータ共有/売買のハブとなるのが、Snowflakeマーケットプレイスだ。現在、グローバルでは260社以上のデータプロバイダーが参画し、1500以上のデータセットが提供されている。
「こうした動きは、まずは業種、業界ごとに広がってくるものと考えている。広告/メディア/エンターテインメント、金融、ヘルスケア、製造、官公庁、小売/消費財、テクノロジーと、主にこうした業界において、われわれはデータクラウドとマーケットプレイスの戦略を進めていきたい」(東條氏)
なお今後、マーケットプレイスに展開する国内のデータプロバイダー数をどのくらいに伸ばす目標なのかという質問に対しては、具体的な数字は示さなかったものの、「たとえば経産省のWebサイトなどで公開されているオープンデータのプロバイダー数は数千ではとどまらない。そうしたプロバイダーすべてに利用していただきたい」(東條氏)と述べた。
また、データマーケットプレイス市場におけるSnowflakeの優位性については、Snowflakeのツールからワンクリックですぐにデータが活用できる点、アーキテクチャ的にコピーデータを発生させず(“ゼロコピー”で)分析処理できる点、AWS/Azure/Google Cloudの“クロスクラウド”で利用できるためデータの蓄積場所を問わずデータシェアリングができる点などを挙げている。
国内からも多彩なデータプロバイダーのマーケットプレイス参入が相次ぐ
日本企業によるSnowflakeマーケットプレイス参画の動きも相次いでいる。9月30日にはQUICK、10月17日には東芝テック、そして同日(10月24日)にはインテージ、xMAP、MDV、エム・データ、Tangerineのマーケットプレイス参画が発表された。それぞれ以下のようなデータセットを提供する。
●QUICK … 自社独自のオルタナティブデータ(従来の経済統計や財務情報とは異なるデータ)を始めとする多種多様な経済金融データを提供。金融機関をはじめ、公的機関、一般企業におけるデータ活用を支援することを目指す。
●東芝テック … POSパネルデータの提供(トライアル)。同社が小売業向けに展開するクーポンサービスを通じて得た販売データを統計処理し、店舗名が特定できないかたちで地域データ化。店頭での販売発生後1時間以内に提供する。
●インテージ … 独自収集した店舗情報マスターデータ「i-Store DB」、業界最大級の商品情報データベースを提供する。i-Store DBには運営企業だけでなく、売場面積や街区特性、周辺地域の居住者特性などの情報が含まれ、出展計画や需要予測分析などでの活用が期待できる。
●Tangerine … 同社の来店分析・顧客エンゲージメントプラットフォーム「Store360」が保有するデータセットを提供して、大型ショッピングモールなどにおける効果的なマーケティング、販促施策に活用可能にする。
●xMAP … 全国60万件以上の飲食店についてのロケーションデータを提供する。店舗の位置情報、飲食カテゴリ、席数、デリバリーサービスの有無をはじめ、周辺のスーパーやコンビニの店舗情報、駅や交通機関情報、広告看板設置データ、周辺住民の人口データ(性別、年齢)が含まれる。
●エム・データ … テレビ番組やCMの放送内容を独自にテキストデータベース化した「TVメタデータ」を提供する。このデータと視聴率、Web検索数、サイトアクセス数、SNSでの言及数、商品の購買数を組み合わせることで、商品需要予測や株価変動シグナル検知、メディアプランニングなどでの活用が考えられている。
●MDV … 4000万人を超える大規模診療データベース、病院診療データベース、レセプトデータベースなどのリアルワールドデータ(RWD)を提供。製薬/医療だけでなく保険、介護、ヘルスケア、食品ほか幅広い業界とのコラボレーションを期待しているという。
データドリブンなサステナビリティ経営が必要となる理由
記者説明会にはQUICK サービスプロダクト本部 副本部長の山内康弘氏が出席し、Snowflakeマーケットプレイスにおける取り組みを紹介した。同社では数年前から日本発のオルタナティブデータ提供に取り組んで来たが、それを従来の中心顧客である金融機関だけでなく、より広い業界に対して提供して「データの民主化」を実現することを目的に、マーケットプレイスに参画したという。
「これまでのデータ利活用では『自社のデータの重要性』といったところにフォーカスが当たっていた。もちろん個々のデータにも十分な価値はあると思うが、それだけではなく、これからは目的達成のために多様なデータにアクセスしてデータを読み書きし、将来の見通しを立てる、そういう流れになっていく。多種多様なデータをアグリゲートすることで、新たなデータの価値が生まれてくるだろうと考えている」(山内氏)
また、デロイト トーマツ リスクアドバイザリー シニアマネージャーの朝日基雄氏は、サステナビリティ経営におけるデータプラットフォームの必要性について説明した。
朝日氏は、サステナビリティ経営/ESG経営への関心が高まる中で、企業のデータプラットフォームにも変化が求められていくだろうと指摘する。これまでは業績など比較的固定化されたデータを切り出し、ドキュメントベースで外部に報告すればよかったものが、より細かく広範なデータの公開が求められ、しかもそのデータを算出したロジックの透明性、アカウンタビリティ(説明責任)も必要になるという。
「データと周辺のロジックに関してアカウンタビリティが求められること、企業固有のやり方ではなく定められた手続きに沿ってデータが処理されていると示すことが、ESGに関するデータ特有の要件だと考える」(朝日氏)
さらにESG経営においては、サプライチェーンを横断した自社以外のステークホルダーについてもデータを収集する必要があり、従来の個社に閉じたデータ保持の仕組みでは実現が不可能だと語る。「したがって、ESGに関して求められるデータプラットフォームというのは、こういうかたちで変わっていくだろうと考えている」(朝日氏)。
朝日氏は、こうした「データドリブンなサステナビリティ」の実現には、サステナビリティの本質を理解すること、組織的活動へ着実に実装していくことに加えて「テクノロジーによる実現力を獲得すること」が必要であり、デロイト トーマツとSnowflakeのコラボレーションによってこれらを実現していけたら、と締めくくった。