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松村太郎の「"it"トレンド」 第314回

アップル「iPhone SE(第3世代)」隠れた最大のイノベーション

2022年03月28日 12時00分更新

文● 松村太郎 編集● ASCII

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隠されていた最も注目すべき最大のイノベーション

 さて、このiPhone SEで筆者が最も注目すべきと考えているのは、iPhoneの側面にあしらわれたアルミニウムです。実はiPhone SEのフレームには、これまでにない世界初の画期的な素材が使われていました。

 それはiPhone SEに、二酸化炭素の代わりに酸素を放出する方法で精錬されたアルミニウムが用いられたこと。さらに、2021年10月に発売されたMacBook Pro 16インチモデルでも、新しい精錬方法の、カーボンフットプリントに影響しないアルミニウムが用いられていたというのです。

 この取り組みはAppleの環境債(Green Bonds)を通じてELYSISから調達されており、この取り組みは2018年にAppleの担当者が、新しいアルミニウムの精錬方法に関する論文をみつけたところから始まっていました。

 30年ぐらい時間を巻き戻すと、筆者は小学校の高学年になるのですが、当時の理科と社会科の授業の双方でアルミニウムが登場したので、印象深い金属でした。理科では、近くにある金属として最も多い元素であるということ。そして社会科では「アルミニウムは電気の缶詰」というフレーズです。

 原料となるボーキサイトから、純度の高いアルミニウムを取り出す際に用いる電気分解を行ないます。アルミニウムは他の元素と結びつきやすくこれを分解する必要があるのです。1tのアルミニウムを取り出すために、一般家庭の2年以上分の電気となる約15000kwhが用いられており、これが電気の缶詰たる所以です。

 この電気分解の電極として用いられるのが、炭素であり、酸素と結合しているアルミニウムから取り出す過程で大量の二酸化炭素を排出することになります。結果として、アップルの製造に関わるカーボンフットプリントの24%がアルミニウムに起因するものでした。

 アップルは長年にわたり、幅広い製品でアルミニウムをボディに活用してきました。地球における埋蔵量が最も多いという観点では持続的かもしれません。また精錬に用いる電気の調達についても、再生可能エネルギーへの転換が可能です。しかし精錬方法を変えなければ、2030年を年限とするサプライヤーを含めた製品製造のカーボンニュートラルを実現できません。

 今回の新しいカーボンフリーアルミニウムの調達が開始されたことが、アップルの環境対策のゴールにとって大きな前進であることは間違いありません。

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