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コロナ禍でも海外展開は減速せず。海外現法のIT強化に強い意欲がある一方で課題も浮き彫りに

海外進出企業のIT活用/DX推進における課題は? B-EN-Gが調査結果発表

2022年03月23日 11時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 ERPベンダーのビジネスエンジニアリング(B-EN-G)は2022年3月23日、海外拠点を持つ日本企業の日本本社と海外現地法人を対象とした「海外進出企業の情報システムデジタル技術活用に関する動向調査(2022年版)」の結果を発表した。コロナ禍においても海外進出は減速していないこと、海外拠点を含む経営データの把握/管理の重要度が高いこと、海外拠点におけるIT活用/デジタル化推進の強い意向があることが明らかになっている。

 記者説明会では、今回の調査を監修した矢野経済研究所も出席し、調査結果の詳細や見解を説明した。なおB-EN-Gでは、2014年にも海外進出企業に対して同様の調査を実施しており、一部の調査項目では2014年との結果比較も行っている。

「新型コロナウイルス感染症の海外事業への影響」。「海外事業を拡大する」が45.7%を占めた

ビジネスエンジニアリング(B-EN-G) 上席執行役員 グローバルビジネス推進本部長の喜多井健氏、同社 マーケティング企画本部 マーケティング部 部長の山下武志氏、矢野経済研究所 主席研究員の小林明子氏

企業の関心事は「コスト削減」よりも「環境変化にどう対応するか」

 今回の調査は2022年1月、ASEAN諸国を中心に海外拠点を持つ日本企業に対してWebアンケート方式で実施されたもの。有効回答件数は571件で、回答企業の約7割(69.7%)を製造業が、3割(30.3%)を非製造業が占める。日本本社と海外現地法人の比率は、およそ半分ずつ(日本本社:46.8%、海外現地法人:53.2%)となっている。なお、B-EN-Gは2014年にも同じ調査を実施しているが、このときは日本本社のみが回答している。

 記者説明会では、B-EN-G マーケティング企画本部 マーケティング部 部長の山下武志氏が調査結果の詳細を紹介し、矢野経済研究所 主席研究員の小林明子氏がそれに対するコメントを述べた。

 まず「現在の経営課題・業務課題」という設問(複数回答)では、「市場環境の変化に対応した計画の立案」(46.6%)、「新製品・新サービス・新規事業の開発」(37.7%)、「売上高の増加(売上・シェア拡大)」(37.7%)がトップ3の回答だった。

 2014年調査の結果と比較すると、「市場環境の変化に対応した計画の立案」と答える企業が大幅に増えた一方で、「コスト削減」「海外拠点展開(グローバル対応)」という回答は大きく減っている。

 「2014年から2022年の間に、企業では『環境変化にどう対応するか』が大きな関心事になり、一方で経営課題における『コスト削減』の優先度は大きく下がった」(山下氏)

 「8年前の調査と比較すると、市場環境やサプライチェーン、今年ならばヨーロッパの状況(ロシア/ウクライナ情勢)など『変化』が常態化する中で、そうした変化に対応していくことが重視されている、企業の意識が変わっていることが見て取れる」(小林氏)

 それでは「海外展開」という経営課題の優先度が大きく下がったことはどう見ればよいのか。これについて、山下氏は別の設問「新型コロナウイルス感染症の海外事業への影響」の結果(単一回答)を示した。

 それによると「コロナとは関係なく、海外事業を拡大する」(38.9%)と「コロナの影響があり、海外事業を拡大する」(6.8%)を合わせ、およそ半数の企業(45.7%)が「海外事業を拡大する」意向を示している。そのほかは「コロナ前と変化はなく現状維持」が約3割(27.7%)で、「事業戦略の変化は検討中」が2割弱(16.5%)。「海外事業を縮小する」は合計でもわずか3.2%にとどまる。

 「あくまでもわれわれのインサイト(分析、見方)ではあるが、もはや海外拠点の展開というのは経営課題や業務課題ではなく『当たり前のこと』という認識になったのではないか。そのために今回の(コロナ禍という)特異な状況下でも『海外事業を拡大していく』という意向を強く持っていると、そう認識している」(山下氏)

「新型コロナウイルス感染症の海外事業への影響」。半数近くの企業が「海外展開を拡大していく」方針を示している

 「経営・業務課題を解決するために必要なITシステムの重点項目」という設問(複数回答)では、「IoT・AIなど新しいデジタル技術の活用」(37.7%)、「経営情報のリアルタイムな把握」(37.3%)、「全社情報システムの統合と情報共有」(34.5%)がトップ3の回答だった。

 このうち「新しいデジタル技術の活用」は2014年調査になかった回答項目だが、「経営情報のリアルタイム把握」「全社情報システム統合」や、次に回答の多い「基幹システム再構築」は2014年調査でトップ3を占めていた回答であり、8年が経過した現在でも依然として重点項目と考えられていることがわかる。

「経営・業務課題を解決するために必要なITシステムの重点項目」。「IoT・AIなど新しいデジタル技術の活用」がトップ

海外現地法人におけるIT活用/DX推進に強い意欲、ただし課題も

 同調査では、IT/デジタル活用やDXの進展に対する日本本社と海外現地法人の間の意識差、ギャップも明らかになっている。

 まず「コロナ前と比較したERPを含む情報システム/デジタル技術の活用やDXの進展」という設問(複数回答)では、「大きく進展した」(6.7%)、「やや進展した」(48.5%)と過半数(合計55.2%)の企業が「進展した」と答えている。

 ただし、日本本社と海外現地法人の回答を比較すると大きな意識差も見られる。「大きく/やや進展した」の合計値は、日本法人では62.6%を占めるのに対し海外現地法人では48.7%と、14ポイント近い開きがある。また海外現地法人の4社に1社以上(25.7%)が「コロナ前と変わらず、情報システム/デジタル技術の活用やDXを行っていない」旨を回答している点も注目される。

「コロナ前と比較したERPを含む情報システム/デジタル技術の活用やDXの進展」。海外現地法人では、日本本社が考えているほどには「進展した」と感じていない

 それでは海外拠点のIT活用やDXはどのように進められているのか。「海外拠点のIT活用について重視している領域や分野」という設問(複数回答)では、全社的な経営課題として前述した「経営情報のリアルタイム把握」がトップ回答だった。ここでは日本本社と海外現地法人の意向が一致しているが、次に重視するものとして日本本社側は「グローバルSCMの強化」(29.2%)を挙げるが、海外現地法人では「内部統制システムの確立」(28.9%)が多い。

 「これは意外と言えば意外な結果。IoT・AIといった新しい技術が市場を牽引しているイメージがあるが、特に海外拠点においてはリアルタイム把握、内部統制、基幹システム再構築、グローバルSCMといった、ERPや基幹業務系の強化を重視していることが見えてきた」(山下氏)

 「海外拠点のIT活用を強化する必要があるか」という問い(単一回答)に対しては、全体で8割強(84.5%)の回答者が「強化する必要がある」としている。ただし、ここでも日本本社と海外現地法人の間に意識差が見られ、海外現地法人は9割(90.8%)が「強化する必要がある」と考えているのに対して、同じように考える日本本社は8割弱(77.1%)にとどまっている。

 「IT活用やDXの取り組みで海外拠点が後れを取っている、それを強化する必要があるという意識は、海外拠点自身でも強く感じている。日本企業でもグローバル化(事業の海外展開)が当たり前という状況では、IT活用/DXの取り組みも海外拠点を含めた全社で推進することが重要である」(小林氏)

「海外拠点のIT活用について重視している領域や分野」/「海外拠点のIT活用を強化する必要があるか」

 なお「IT活用やDXの取り組みに海外拠点を含むか」という設問(単一回答)では、「海外拠点を含む」という回答は54.1%にとどまっている。ただしその必要性は意識されており、「今後含める予定」(12.4%)と「予定はないが、必要性を感じている」(21.6%)を加えると9割弱(88.1%)に達する。

 現状では海外拠点は含まれていないとした企業に、その理由を聞いた設問(複数回答)では、「日本で海外拠点をコントロールする体制がない」(47.3%)、「海外拠点に人材がいない」(44.3%)、「日本に海外拠点を支援する人材がいない」(42.0%)と、体制や人材不足が大きな原因になっていることがわかった。

 「人材不足という課題は、ほかのさまざまなDX関連の調査でも同じ結果が出ている。日本ではIT人材がベンダー側に存在するという構造的な問題もあり、近年は企業が内製化を進めつつあるが、追いついていない。国内海外問わず、外部ベンダーの力も適宜借りながらやっていく必要がある」(小林氏)

 またB-EN-G 上席執行役員 グローバルビジネス推進本部長の喜多井健氏は、今回の調査対象企業の展開先はASEAN諸国が多く、そうした市場では特にIT人材の母数が少なく「人材の奪い合いという状況もある」と述べた。「そのため、日本企業が(海外展開先で)若い人を集めて、きちんと教育(人材育成)できるかどうかもポイントになる」(喜多井氏)。

「IT活用やDXの取り組みに海外拠点を含むか」/「IT活用やDXの取り組みに海外拠点が含まれていない理由」

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