まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第73回
Unityジャパンの大前広樹氏、スタジオコロリド創業者の宇田英男氏が語る
ゲームエンジンを最初に使いこなしたアニメ会社が圧倒的に勝つ
2022年03月12日 18時00分更新
アニメをゲームのように作る!?
いまUnityを使ったアニメ制作が熱い
今回はNPO法人「ANiC」が開催したイベント「アニメ×イノベーションMeetup vol.4」(2021年11月放送)から、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン日本担当ディレクターの大前広樹氏と、株式会社ノーヴォ代表取締役の宇田英男氏を迎えてのディスカッションの模様をお送りする。
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濱中良 ファシリテーターを務めます、ANiC理事の濱中です。今日のテーマは「ゲームエンジンはアニメをどう変えるのか?」。さっそく登壇者紹介と、テーマに沿ったトピックを提示したうえで進めたいと思います。
まずは登壇者のご紹介から。1人目は、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン日本担当ディレクターの大前広樹さん。コンシューマーゲーム開発企業でのゲームエンジン開発経験を経て、2010年にユニティ・テクノロジーズの日本法人を立ち上げました。近年はリアルタイムエンジンのアニメ・映像利用に関する開発などに注力されています。
2人目は、株式会社ノーヴォ代表取締役の宇田英男さん。大学卒業後、大手電機メーカーに就職、その後アニメ制作会社2社で現場管理を経験し、2011年にアニメ制作会社の株式会社スタジオコロリドを、2020年には株式会社ノーヴォをそれそれ設立されています。
そしてANiCのまつもとあつしが、各トピックの深掘りを担当します。
まつもとあつし まつもとです。ANiCの理事長をさせていただいています。ANiCではアニメ業界を牽引するイノベーターを表彰するアワードを主催していますが、じつは第1回のグランプリを大前さんにお贈りしたという経緯がございます。
ではさっそくトピックをいくつか提示しましょう。まずこちらの記事をご覧ください。近年、ゲームエンジンの「Unity」を使ってアニメを作ろうという動きが非常に盛んになっていますが、下記はその代表例とも言える作品『WiNDUP』のトレーラームービーです。
現在はMax、Maya、あるいはBlenderといった3Dソフトを使って3DCGアニメを作っていますが、「モデリングしたものにテクスチャーを貼ってアニメーションを付け、レンダリングする」という手順のうち、最後のレンダリングに多くの時間を取られてしまうという課題があります。高精細なものを作ろうとすればするほど時間がかかる、しかもレンダリングが完了するまで仕上がりの確認が難しいのです。
そのため現場では、レンダリング→やり直し→レンダリング→やり直し……という状態が発生してしまいがちでした。
一方、3Dソフトの代わりにゲームエンジンを使った場合、最近のゲームをプレイしている方はわかると思うんですけれど、すでにアニメの完成映像に近いものがリアルタイムで動いています。結果、「最初からゲームエンジンを使ってアニメを作ろう」という動きが世界的に広がっています。
そして実際『WiNDUP』は、いわゆるフォトリアルと呼ばれる写実的な表現をUnityで実現しているわけです。
では、2つめのトピックにいきましょうか。こちらの記事です。
最初のトピックは「Unityを使ってフォトリアルな3DCGアニメ作品が作られている」というお話でしたが、日本ではセルルック――透明なフィルムの上に絵を描いて色を塗り、それをカメラで連続撮影することで作られる表現――に需要があるので、フォトリアルではなくセルルックを実現する必要がある、と。
これは日本が漫画を原作とするアニメが多いため、「漫画的な表現をアニメーションさせる」という独特の進化をしてきたことと関連があります。
では、セルルックをUnityで実現するにはどうすればよいのか、様々な会社、たとえば上記の記事ですと『HELLO WORLD』を制作したグラフィニカさんの挑戦がまとめられています。
具体的には、従来通り3DMaxで作られたアニメ『HELLO WORLD』の一場面を、Unityで作り直したらどうなるかを実践しているのですね。
結果、3DMaxで作ったキャラクターをUnityで動かした際には課題もあることなどが指摘されつつも、Unityによるセルルック表現はかなりクオリティー/レベルが上がってきていることが見て取れるわけです。
最後に、これはYahoo!個人に私が書いた記事で恐縮なのですが、「中国や韓国をはじめ世界各国で日本風のアニメがたくさん生まれている。日本はまだ強いって言われているけれど、海外に負けちゃうんじゃないか」という昨今の論調に対して、たとえば漫画原作のものがアメリカ市場では強いので、著作権の大元、つまり原作が日本にある限りはそんな簡単には負けない。ただし、セルルックのアニメは海外でも多数作られるようになってきているので、技術という意味では日本の優位性はだんだんと小さくなってきている。その2つは分けて考えたほうがいいのでは――みたいなことを書きました。
なかなか意図が伝わりにくくてネットでは叩かれたりしたのですが(笑)、今後ゲームエンジンがアニメをどう変えていくのかというテーマと重なる話かなと思ったので、紹介させていただきました。トピックは以上です。
濱中 ありがとうございます。ではさっそく本題を始めましょう。
NPO法人「ANiC」とは?
ANiCは2019年に設立した組織で、高い技術を持つ日本の「アニメ」とテクノロジーや異業種企業とのコラボレーションを通じて、さらなる進化可能な産業構造へ発展させていくことを目指して設立されたNPO法人。アニメ×イノベーションを軸に活動中。
現在、アニメのイノベーションを促進した功労者を審査・選考し表彰する「ANiCイノベーターアワード」を主催。また、YouTubeにて「アニメの未来を考えよう」シリーズを配信中。

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