ルールを順守しながら積極的に攻め、衝突を避ける
ソニーAIでは、グランツーリスモ・ソフィーを、「世界初の超人的なAI」と位置づけている。
ソニーAIのミカエル・シュプランガーCOOは、「グランツーリスモ・ソフィーは、AIの世界において、重大なブレイクスルーを果たした。それは、チェスや将棋におけるブレイクスルーとは異なるものである」と語る。
グランツーリスモSPORTでは、物理限界まで車体を制御し、ブレーキや加速を最適化し、最後の10分の1秒まで追い込めるように的確に判断。対戦相手の動きや複雑な空気抵抗も考慮したリアルドライビングシミュレータとして開発されている。
こうした実車のレースを完璧にシミュレーションした環境において、グランツーリスモ・ソフィーは、学習を繰り返すことで、車の挙動やドライビングライン、難易度の高いコースを攻略するための精密な操作に関する深い理解を行い、刻々と変化するレース状況を元にして瞬時に意思を決定。スリップストリームパスやクロスオーバーパスなど、攻守の駆け引きを含む戦術の組み立てを行うことができる。また、自己の過失による衝突の回避や、対戦相手のドライビングラインの尊重など、フェアプレイに欠かせないマナーを備えるだけでなく、明確には定義されにくいスポーツパーソンシップも順守しているという。
これまでのAIと異なるのは、10分の1秒という瞬間的な状況を判断して、最適な操作を行う点だ。そして、もうひとつが、レーシングエチケットを守り、フェアプレイで、ルールを順守しながら、積極的に攻めたり、守ったりしながら、衝突を避けることができる点にある。
「好戦的でありながら、フェアプレイを守るという絶妙なバランスが、モータースポーツの特徴であり、グランツーリスモ・ソフィーはそれを学習している」(ソニーAIのシュプランガーCOO)という。
PDIの山内プレジデントも、「レース状況が刻一刻と変わるなかで、常に妥当な振る舞いをみせること、人から見て、その振る舞いが自然に見えることが大切である。ルールベースのAIではこれが難しく、多様なシチュエーションに対応できないため、対戦相手が、ゲーム中にAIが操作していることに気づいてしまうことが多い。グランツーリスモ・ソフィーでは、その点でもブレイクスルーができている」とする。
当初は、コーナーで縁石を超えて、無理やり内側から抜き去るといった挙動、ルールを逸脱した挙動などが見られたというが、学習を繰り返すことで、状況変化を瞬時に捉えながら、フェアプレイでレースを行うAIに進化したという。
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