いきなり個人的な話から始めたい。本当は、今年のCESは現地取材の予定だった。だが、オミクロン株の急速な蔓延や、それに伴う日本帰国時の水際対策の影響を鑑みて、直前に出張を取りやめた。
CESの主催者であるCTAは「今年のCESも成功」とアピールしているが、参加人数だけを見れば、やはり縮小傾向であることは否めない。前回リアル開催された2020年は参加者が17万人だったが、今回は4万人。しかも、4万人のうち、アメリカ国外からの参加者は3割しかいなかった、という。
そんな中で感じたのは、「リアルでの展示を切望しているジャンルがあったのだな」ということだ。それこそが「自動車」である。
ソニーは「EV」のためにリアル出展にこだわった
CES開催直前、いくつもの企業が出展や出張を見合わせる動きをしていた。実のところ、いろいろなリスクを勘案すれば、出展見合わせなどがあってもしょうがない状況だったと思う。
その中で、ソニーは予定通り出展した。もちろん、ブース規模や社員の出張は過去のCESに比べ小さくなっていたようだが、ソニーグループの吉田憲一郎・会長兼社長CEOのプレスカンファレンス参加を含め、予定が変更になる兆しがなかった。
「なぜここまで粘るのだろう?」という疑問もあったのだが、プレスカンファレンスを最後まで聞けばその理由もわかった。「自社でのEV市場参入検討表明」という大きな発表を控えており、技術検討試作車である「VISION-S 02」のお披露目もしたかったからなのだ。ソニーのEV参入は、まだ「検討表明」というちょっと持って回ったような言い方ではあるものの、CESにおけるもっとも大きなニュースになったのは間違いないだろう。
ソニーのEVはどんなものになるのか
ソニーのEVがどんなものになるのか、それはまだよくわからない。筆者はCES期間中、EV開発の責任者である、ソニーグループ常務・AIロボティクスビジネスグループ 部門長の川西泉氏にインタビューをした。その中でも、明確に新EVの姿は語られていない。
ただ、彼は次のように説明している。
「自動車にもパーソナライズできる領域を相当増やせると考えているんです。同じVISION-Sであっても、人によって乗り味が違う、車の特性を変えてしまう、といったこともできます」
VISION-Sの「走る・曲がる・止まる」といった部分を司るのは、ソニーの独自設計ではない。オーストリアのマグナ・シュタイアとのパートナーシップで作られており、ソニーが担当するのはナビや自動運転に車内エンターテインメントなどが中心。すなわち、センサーとAI、そしてネットサービスが関わる部分である。そうした部分を差別化していくことでも乗り味・走り味が変えられる、というのがソニー側の主張だろう。
世界的にEVへの注目は集まっているが、特に現在は、マス向け市場の立ち上がり期といえる重要な時期だ。だからこそ、過去以上に、CESではEVへの注目が集まっていたところがある。当然ソニーとしても、このタイミングは外せないところだったのだろう。
あまりに不明な点が多いため、ソニーがEV市場でどのくらいの地位を占められるか、気競合状況がどうなるかなどを推測するのは困難だ。とはいえ少なくとも、短期間で大手自動車メーカーの一角に入るのは無理だろう、と筆者は予測している。
だが、2022年がEV市場にとって転機といえる条件の1つが、ソニーの参入によって出来上がった、とだけは言えるのではないだろうか。
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