AMDが米国時間の11月8日に開催したオンラインイベント“AMD Accelerated Data Center Premiere”の概略は発表記事にまとまっているが、これをもう少しかみ砕いて説明していこう。まず今回はMilan-Xの話である。
AMDがMilan-Xこと第3世代EPYCを発表
2022年第1四半期に投入
今回の発表内容は「3D V-Cacheを搭載したMilanベースのEPYCを、2022年第1四半期に市場投入する」の一言に尽きる。この3D V-Cache搭載MilanはMilan-Xというコード名なので、以下記事内でもMilan-Xで通すが、このMilan-Xはすでに特定顧客への納入が始まっていることも明言されている。
さて、そのMilan-Xであるが、こちらは純粋にMilanの既存の8つのダイを、3D V-Cache付きに更新しただけである。
キャッシュは以下のとおり。
- L1:(命令32KB+データ32KB)×8=512KB
- L2:Unified 512KB×8=4MB
- L3:Unified 32MB→Unified 96MB
ダイあたりで言えば合計100.5MBとなり、EPYCは最大8ダイなので100.5MB×8=804MBとなる計算である。
下の画像の3Xは、L3が32MB→96MBになるから3Xという話で、その意味では下の画像にあまり新しい話はない。
3D V-Cacheそのものは連載618回で技術的な要素を説明しているので今回は特に触れない。3D V-Cacheには以下の特性があるので、Milan-Xの動作周波数やTDPなどは、おそらく現行のEPYC 7003シリーズとほぼ変わらないものになるだろう。
- レイテンシーは3D V-Cacheの有無でそれほど大きな差はない(微妙に大きくなる)
- 消費電力も3D V-Cacheの有無でそれほど大きな差はない
- コアの動作周波数そのものには影響がない(内蔵L3と同じ動作周波数で動くため)
ちなみにレイテンシーが微妙に大きくなるというのは、一般論としてキャッシュを増やすと「キャッシュのどこに、どのメモリーアドレスの内容が格納されているか」を記録しているTag RAMのサイズが当然増えることになる。
するとTag RAMの平均的な検索時間が延びることになる。Tag RAMの先頭で目的のアドレスを見つけられれば、Tag RAMのサイズに関係なく最小ですむが、Tag RAMを全部検索して最後で見つけた場合は、Tag RAMのサイズが増えると余分に時間がかかることになるからだ。
もちろんこの検索は最速で行なわれているから、これでレイテンシーが10サイクルも増えたりはしないし、Tag RAMの「どこで」見つけるかにもよるので、必ずレイテンシーが増えるとも限らない。ただ平均的には1~2サイクル程度のレイテンシーの増加が見込まれると思われる。
これによる性能劣化よりも、L3容量を3倍増にしたことによるメモリーアクセス性能改善効果の方が圧倒的に大きいので、おそらく通常のベンチマークではこれによる性能の劣化はまずないだろう。加えて消費電力や動作周波数にはほぼ影響がないため、Milan-Xは純粋に性能が改善したMilanとして扱えるわけだ。
では性能としてはどうか? ということでAMDから示された例が下の画像だ。
16コアのEPYC 73F3では1時間あたり24.4本の検証ジョブを実施できるのに対し、同じ16コアの3D V-Cache搭載EPYCでは40.6本のジョブを実施できたという話で、66%の向上が見られたとしている。
AMDから出された性能評価はこれで終わりだが、まだ公式には製品発表前ということもあるので、おそらく来年のCESあたりでもっと細かな性能評価が出てくるものと思われる。現時点では、いくつかのISVがすでにMilan-XベースのEPYCへの対応を進めていることのみが表明されている。

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