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山野美容芸術短期大新井卓二教授に聞く:JMA次世代ヘルスケアプロジェクト2021

ヘルスリテラシー下位の日本が持つ期待値 健康経営・ヘルステックのビジネスチャンス

2021年11月22日 11時00分更新

文● 松下典子 編集●北島幹雄/ASCII STARTUP

提供: 一般社団法人日本能率協会

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健康経営を日本発のマネジメントシステムとして世界へ

――新井先生の他の講演(大学生の就職動向と健康経営)では健康経営がテーマです。国内での健康経営への関心は今後も続くと予想されますか。

 健康経営は、日経225銘柄の8割以上の企業が実践しており、大企業を中心に取り組みが広がっています。助成金や補助金が付いていない制度としては異例の普及です。政府としても日本発のマネジメントシステムとして国際展開していきたいと力を入れているので、健康経営に付随するサービスをつくっている会社は世界進出が望めます。

 健康経営という言葉は、生命保険のテレビCMで知った人が多いようです。生命保険会社は地域の中小企業への営業網があるので、徐々に健康経営が浸透していくでしょう。

 健康管理はまだ始まったばかり。現在の健康経営の評価項目は定期健診とストレスチェックの実施ですが、これに血糖値や睡眠レベルの測定などが入るようになれば、ICTを使った健康管理、健康増進へと進んでいくと思います。

――普及の背景になった日本ならではの事情は?

 経済産業省の認定制度「ホワイト500」がヒットしたのがきっかけです。

 「ホワイト500」を命名したのは、今回セミナーでも登壇される元経済産業省ヘルスケア産業課長で現在は社会政策課題研究所所長の江崎 禎英氏。健康経営優良法人の認定制度なのですが、名称が「ホワイト」なので、事実上ホワイト企業と認められるようなものです。学生が就職先を選ぶときには、まず「ホワイト500」の企業かどうかをチェックしますから、採用への影響はすごく大きいです。

――ホワイト500は要件が厳しいですよね。

 ホワイト500は要件が厳しいのがいい。全体のレベルが上がってより健康になりますし、従来の労働基準法に守られている範囲を超えて、ICTなどを活用した健康管理、健康経営に進歩させるような仕組みになっています。

 政府の思惑以上に成果を上げている企業も現れています。例えば、SCSKはFitbitを全社員に配り、毎日の歩数や朝食のメニューを入力させて、健康管理意識を高める取り組みをしています。どのような機器を使い、活用していくかは企業側に任せられているのもこの制度の特徴です。

――「SDGs」や「脱酸素」などと同じく、以前から言われていたことが「健康経営」というキーワードが付くことでブームになるのですね。

 健康は資本の土台なので、しっかりやるのは当たり前ですよね。でも、これは日本企業ならではの考え方で、海外では健康経営の意識はあまりないんですよ。終身雇用ではないので、働き方に合わなければやめればいい、という考えが先にきてしまう。日本でも今の60代の人は24時間働くことを美学としていましたが、これから世代交代して企業文化が変われば、健康経営の製品やサービスはどんどん増えてくるでしょう。

――健康経営ビジネスで成功するためのポイントはありますか?

 今は健康経営の要件に、スマートウォッチや活動量計などデジタル機器を活用する項目はありませんが、将来的には、「リアルタイム測定」などが入ってくると予想されます。リアルタイム測定が項目に含まれれば、それを解決するソリューションのニーズが生まれます。まずは測定するデバイス、次に、健康を促進するための食事のデリバリーやフィットネスサービスなどがヒットしていくと思います。

――日本人は健康意識が高いのに、企業になると長時間労働やメンタルヘルスの問題を抱えてしまうのはなぜでしょう?

 日本は医療が発達し健康長寿の国ですが、ヘルスリテラシーに関しては先進国で下位グループです。

 ヘルスリテラシーには3つの概念があります。1つは自分の健康管理。2つ目は他者への働きかけ、3つ目は社会へのプロモーション。日本人は自分の健康意識は高いけれど、周囲や社会への意識が欠落しているのです。テレビやウェブの情報を真に受けすぎるのもリテラシーの低さの表れといえます。

 例えば、食品のパッケージにある栄養成分表示の数値をきちんと理解して食事を管理できている人は少ない。海外の成分表示はもっと細かいですし、その数値を読むための授業が義務教育に組み込まれています。個人の健康についてもまだ学ぶことが多いのです。

 この辺は、11月26日に「次世代ヘルスケアプロジェクト2021」で開催される「ウィズコロナ時代の生活習慣病予防と健康経営・ヘルスリテラシー」順天堂大学福田先生のセミナーで詳しく説明されることだと思います。ぜひこちらもご覧ください。

――長寿イメージの一方で、リテラシーが足りていないと。

 健康寿命と平均寿命の差が10年以上あると言われています。その間に最も医療費がかかるので、ぎりぎりまで現役で働かないと社会に負担をかけてしまう。このままでは年金の支給も後ろずれしていくし、国民皆保険が破綻してしまう可能性もあります。

 今、大学の学生たちには、「あなたたちが年金がもらえるのはたぶん90歳からですよ」と言っています。まずは、個人が健康であることが重要。健康寿命を延ばすためのヘルスケアサービスが求められてくるでしょう。これからは80、90歳になってもオフィスに通う時代が来るかもしれない。そのとき、どんな設備、食事、環境が必要になるのか。高齢者でも働きやすい職場を考えなければなりません。

――健康寿命を延ばすサービス、企業の健康経営のサービスはまだまだ可能性があるんですね。

 ビジネススクールで新規事業の勉強会をすると、事業プランの大半がヘルスケアビジネスになるほど、働く人の多くがヘルスケアに高い関心をもっています。大手企業が新規事業としてヘルスケアビジネスに取り組む場合、既存の資源で解決しようと考えがちです。

 これからは生活スタイル自体が変わっていくので、既存の資源で今ある課題を解決するアプローチは短期的には成立しても、中長期的には成立するとは限りません。車の自動運転やスマートホームが普及すれば、またニーズは変わってきます。事業者は、100歳になっても楽しく生きられるワクワクした未来のライフスタイルを描いて、新しいサービスをつくってほしいですね。

(提供:一般社団法人日本能率協会)

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