デジタルオーディオの中核となるDAC。しかし、高級オーディオで採用されるDAC ICの市場では、旭化成エレクトロニクス(AKM)とESS Technoogyの2社が採用例が非常に多い。これに最近の供給不足問題が加わり、やや不安定さを感じさせるのが現状だ。それゆえにオーディオメーカーでは、ディスクリートDACなど様々な試行がなされているが、ここに新しいDAC技術が登場した。それがHIFIMANが開発した「ヒマラヤDAC」(HYMALAYA DAC)である。
ヒマラヤDACとは端的に言えば、従来の抵抗を組み合わせたR2R DAC回路では巨大になってしまうDAC回路を、従来のICなみのコンパクトさで提供できるようにする技術だ。FPGAを核にパッケージ化したDACアーキテクチャと言える。
まず特徴的なのは、このDACがR2R形式であるということだ。これは現在のほとんどのDACがデルタシグマ形式であることとは対照的だ。デルタシグマ形式はハイレゾ設計に対応しやすいため現代では一般的になってきた。しかし、この形式はもともとDSDなどと同様に1ビット形式のデータを「ネイティブ形式」としているため、PCMがソースの場合には変換する必要がある。そしてそれが音質を阻害する原因ともなってきた。特に無機的に感じられる"デジタル臭さ"を感じる要因としてよく指摘されてきた。
R2R形式はその逆にPCMソースをネイティブ形式としているDACのことだ。PCMネイティブ形式と言っても良いかもしれない。そのためにPCM音源の再生時にデジタル臭さの少ないオーディオらしい豊かな表現ができるとされている。R2R形式のDACはマルチビット形式のDACとも言う。マルチビット形式はバーブラウンの「PCM1704」などのDAC ICが採用したほか、ディスクリート設計のDACでも用いられてきたが、いずれもポータブルにはいささか不向きだった。それがコンパクトな形で実現されたのがヒマラヤDACである。
次のポイントはヒマラヤDACがハイレゾ対応であるということだ。デルタシグマ形式ならば簡単に実現できていたハイレゾ対応がR2R形式では実現がなかなかむずかしい。これは回路の精度を出すことがむずかしいからだが、今回はそれが可能となり、ヒマラヤDACでは最大768kHz/24bitのデータの入力信号に対応している。
そしてヒマラヤDACの最大の特徴は電力消費がとても小さいということだ。ヒマラヤDACの性能はR2R形式のDAC ICのリファレンスとして使われてきたPCM1704に肉薄するほど良いが、電力消費ははるかに低い。DACは回路の中でも電力消費の大きい部分だったので、ここが超低消費電力化されればモバイル機器設計にとってとても大きなメリットとなる。
そのためヒマラヤDACの用途はモバイル機器に適している。
まず国内ではHIFIMANのBluetoothアダプター「Bluemini R2R」として登場することになる。またヒマラヤDACを搭載したスティック型DAC製品も近いうちに登場する予定だ。将来的には完全ワイヤレスイヤホンなどに収まるサイズになるかもしれない。
このようにヒマラヤDACはPCM音源を楽しむときにはとても優れたDACアーキテクチャだ。難点はDSD(1bit信号)の入力に対応していないことだ。このためPCやスマートフォンあるいはDAPといった再生機器側でDSD音源をPCMに変換するオプションを選択する必要がある。
ただし現在主流の音源はPCMベースのストリーミングソースであり、求められるのは小型で低消費電力のオーディオ機器だ。ヒマラヤDACのユーザーにとってのメリットは最近増えてきた小型オーディオ機器でも本格的な音が楽しめ、長い時間の再生が可能となることだろう。
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