中堅企業が1年をかけて取り組むDX、AI活用のさまざまなアイデア
デルとNAISTの「中堅企業DX支援プログラム」、最後の中間報告会を開催
2021年08月23日 07時00分更新
デル・テクノロジーズは2021年8月19日、国内中堅企業(従業員数100~1000名)のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に向けた総合支援プログラム「中堅企業DXアクセラレーションプログラム」の第3回中間報告会を開催した。
同プログラムは、同社と奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)が共同で展開しているもの。2020年10月のビジネスコンテスト本戦で選出された上位9社が、NAISTやデル・テクノロジーズ、協賛企業による支援を受けながら自ら提案したDXの取り組みを進めており、これまで2021年2月に第1回、5月に第2回の中間報告会を開催している。
9社それぞれがプロジェクトの進捗状況を報告
今回(第3回)は、2021年10月に予定されている成果発表に向けた最後の中間報告会となった。開始に先立ち、デル・テクノロジーズ 広域営業統括本部 デジタルセールス&広域営業本部長の木村佳博氏は、「各社ともプロトタイプの開発や評価のフェーズに入り、今後は投資対効果の検証といった重要な局面に入ってくることになる。今回の各社の発表が楽しみだ」と語った。
ここからは9社それぞれが中間発表を行った。
複数の製薬会社やCRO(医薬品開発業務受託機関)の合同チームであるCDISC-SDTM Blockchain Teamでは、ブロックチェーン技術を用いた臨床データの共有プラットフォームの構築に取り組み、データベース化されている各種臨床データの共有、二次利用の活発化を目指している。システムのプロトタイプを開発し、運用案の妥当性を検証、得られた知見をもとに、論文投稿やカンファレンスでの発表を行い、データ共有の新たな選択肢のひとつとして業界へ提案したり、特許出願済の内容に対する請求項の追加を行ったりする。最終報告会に向けて、一連のワークフローのシステム動作確認や特許出願の準備などを進めることになるとしている。
樹脂製機械部品メーカーのイグスでは「AIによるデータ精度向上および災害対策サービス」開発に着手し、変換CSVとのマッチング後に、更新SQLを自動生成することに取り組んでいる。会社名データの更新では2時間30分かかっていたものが、10分程度で完了。実働75日間で172.5時間の工数削減効果があり、浮いた工数で全社システムの見直しに着手することができているという。また住所データ関連では、日本郵便データの再分析および正常データと問題データの切り分け、SQL Serverへの格納を進めている。さらに、データを活用することで、新型コロナウイルスや水害、地震など、経営に影響する予期せぬ出来事に対しても強い経営体制づくりも検討していくという。
組込みソフトウェアやITソリューションの開発会社であるヴィッツでは、次世代工場の効率化を実現するIoT/AIソリューション開発の「SF Twin WANDプロジェクト」を展開。製造現場において生産性が上がらない原因が多様化していることを指摘しながら、これらの課題を3Dデジタルツインで解決することを提案。低コストと超速納期などを特徴とし、デジタル技術でボトルネックを解消し、効率化を実現することを目指している。現在、仮想工場を構築し、ソリューションを稼働させているほか、今後、製造現場での実証実験を進め、それらの成果をフィードバックし、製品化を急ぐという。
下着通販会社のピーチ・ジョンは「社内AIポータル」を開発。誰でも容易につかえるように数ステップで利用できる環境を、ポータルサイトの形で社内に提供。組織全体にAIの恩恵を波及させることを目指す。購買情報や在庫情報、 ECサイトの検索履歴といったデータ活用のほか、トレーニングを行うことなく、受注予測、顧客行動分析、市場分析など、社員が意思決定に活用できる環境を実現する考えだ。現在、UIデザインのフェーズに入っており、過去の販売実績をもとに、販売予定の新製品の売れ行きを予測し、それを誰もが理解できるUIのデザインに取り組んでいる。
金属エッチング加工の平井精密工業では、「歩留まり向上のための製造工程AI 解析サービス」を開発。製造工程の情報を、IoTを使って収集、蓄積し、製造条件やパラメータなどの情報を組み合わせて不良率削減を目指している。現時点では、パラメータなどの情報から決め手となる要因はつかめていないが、あたりをつけることができる下データの作成が行われているという。今後、分析方法のアドバイスを得ながら、継続してパラメータ選出の調査をするほか、対象を新たなパラメータに広げるといった取り組みを行うという。
建築資材の総合商社である水上では、「社内データ整理及びデータ蓄積フローの検討について」というテーマを掲げ、新規顧客へのアプローチ強化に向けて、既存顧客を対象にした音声マイニングによる受注電話応対の自動化、情報システム部によるデータベースの整備、発注フローの見直しなどに取り組んでいる。今後、業務プロセスの抜本的な見直しや、基幹系システムの更新による業務標準化を行う考えだ。
医療機器などの総合商社であるアズワンでは、「適正在庫AIモデル」を開発。毎日1週間分の受注を予測する短期モデルと、毎月1カ月分の受注を予測する長期モデルを構築している。短期モデルでは、予測と実績の差異が金額ベースで9.3%となっており「精度は十分高い」と評価。長期モデルでも差異は11.5%と、十分実用に耐えうる精度と判断している。現時点では、商品カバー率が10%程度であるため、優先順位をつけながらモデル化する範囲を拡大していくという。
樹脂加工のレニアスは「需要予測、工程平準化」に取り組んでいる。工程並び替えプログラムが完成したほか、各工程のプログラムが一部完了。全体の平準化プログラムが8割完成したという。また、需要予測を自動的に行うプログラムも開発中だという。2021年10月までにこれらを完了させる予定だ。すでに、工程表の作成業務において年間500~700時間の削減効果が期待できることなどがわかっている。
貨物運送業のユーネットランスでは、「最適運行ダイヤ作成システム」を開発。サブツールの本導入に向けての準備と、最適化評価スキームを完成させ、これに関する特許出願を最優先に取り組むほか、機械学習などの導入検討を進めているという。サブツールでは、荷量データをもとに、最適なパレタイズイメージと車載イメージを出力。投入車両の減便ができることが確認できている。この成果は、CO2排出量の削減にもつながるとしている。
各社の中間報告を受けて、NAIST 博士研究員の平尾俊貴氏は、「短いようで長かった9カ月間の濃い成果を聞くことができた。今回の報告会では『どれぐらいビジネスインパクトが示せるのか』という定量的な視点を重視した。売上げ拡大、コスト削減、生産性向上といった成果のほか、特許出願により長期的な準備に取り組んだ企業もあった。最終報告会で期待しているのは、定量的なビジネスインパクトを社内で実感していくための準備と、組織横断的なDXの成果を認識することである。そして、このプロジェクトで進めたことをさらに発展させ、終わりなき道に進んでもらいたい。このプロジェクトの取り組みは、競合他社にはない圧倒的なアドバンテージになるだろう」と総括した。
今年度も募集開始、新たにAR/VRやエッジコンピューティングも対象に
なおデル・テクノロジーズとNAISTでは、今年度も中堅企業DXアクセラレーションプログラムの募集を開始したことを発表している。2021年10月8日まで特設サイトで募集を行い、11月11日に本選を実施。同プログラムによる支援企業を決定する。
対象は従業員1000名以下の中堅中小企業で、プロジェクト開始から1年程度で実装が可能なビジネスプランを前提とする。今回からは、AIに加えて新たに5Gを活用したVR/AR、エッジコンピューティングといった技術要素を活用するプランも対象とする。
「ARデバイスは、すでに製品修理の効率改善やECにおける商品の実寸大表示などで活用されている。またエッジコンピューティングは、設備異常検知ソリューションや、撮影画像をOCR解析し、在庫管理に活用されている。今年度も、日本の中堅中小企業のデジタル変革をしっかりと後押ししていきたい」(デル・テクノロジーズ 広域営業統括本部 デジタルセールス&広域営業本部長の木村佳博氏)
上位入賞した企業に対しては、1年間にわたってNAISTのメンターによるDXプロジェクトの実装および定着化の支援、ミライコミュニケーションネットワークからののクラウドサーバーの1年間の無償提供、デル・テクノロジーズによるサーバーシードプログラムが提供される。
さらにデル・テクノロジーズでは、中堅中小企業においてAIや5G、VR/AR、エッジコンピューティングといった新たなテクノロジーに対する理解を深めてもらうための技術勉強会「DX Tech Play」を、9月9日から順次開催する予定も発表している。「新たなテクノロジーをどんなユースケースで、どんな局面で社内に取り入れることができるのかといったことを知る機会にしてほしい」(木村氏)と述べた。
また、8月26日には、中堅企業のIT責任者やCIOなどの役割を担っている管理者などを対象にした「中堅企業異業種交流会2021夏オンライン」を開催。テレワークを活用したコミュニケーションやテレワークマネジメントなどのテーマで、セッションや情報交流会を行うという。