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「大人の科学」の付録を作り続けた人と、「しっぽのロボット」を開発した企業のCEOに聞く アイデアを形にする秘訣

2021年07月26日 10時00分更新

文● 中田ボンベ@dcp 編集●ASCII

提供: 大塚製薬

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時代を切り開くアイデアマン2人に学ぶ
アイデアを形にするために必要なこと

 新型コロナウイルスの影響により、日本のみならず、世界中がこれまでとは違った生活様式への移行を余儀なくされ、テレワークが中心になるなど、仕事へのアプローチも大きく変わりました。

 こうした変化し続ける社会で生き残るには、自らがアイデアを出し、さらには実現させ、自分で道を切り開くための「思考し続ける力」が求められます。では、アイデアを形にするためにはどんな思考が必要なのでしょうか?

 学研の「学習」「大人の科学」で100以上のアイテムに携わった小美濃芳喜先生、エンジニアであり実業家としてロボットベンチャーの第一線にいるユカイ工学株式会社の青木俊介CEO。電子回路や基板などをもとにしたテクノロジーからアイデアを生み出し、モノづくりとして実現してきた人たちです。

 これまでに付録作りなどで協力するなど旧知の仲であるお二人に、「アイデアを形にする」「思考し続ける」ために必要なことを伺いました。

小美濃芳喜

1952年生まれ。1975年、日本大学・木村秀政研究室で人力飛行機の世界記録達成。1985年に学研に入社し、CCDカメラや家庭用学習PCなどの開発に携わる。また、「学習」「科学」などの教育教材の企画開発のほか、若田光一宇宙飛行士協力のもと、国際宇宙ステーションで慣性モーメント実験も実施。2016年に企画室「オミノデザイン」を設立し、技術顧問・コンサルタント・アドバイザーとして活動。

青木俊介

1978年生まれ。2001年、東京大学在学中にチームラボ株式会社を設立。2007年にロボティクスベンチャー「ユカイ工学」合同会社を創業。ピクシブ株式会社のCTOを務めたのち、ユカイ工学を株式会社に組織変更し、CEOに就任。コミュニケーションロボット「BOCCO」は2015年度グッドデザイン賞を、クッション型セラピーロボット「Petit Qoobo」は2020年度グッドデザイン賞を受賞。

■アイデアのルーツは「人を巻き込んで何かをする」

——今回の対談ですが、小美濃先生は学研に入社されて「科学」「学習」などの雑誌の付録をはじめとしたガジェットを、青木CEOはベンチャー企業を設立してIoT機器やロボットを手がけられ、電子回路を利用した「モノづくり」の第一線でアイデアを形にされてきた共通項があります。まずはお二人の若い頃の経験、いわば「アイデアを生み出すルーツ」から伺えますか。

小美濃先生(以下、小美濃) 私は小さいころから飛行機、飛ぶものが好きで、小学生のころはハンドランチグライダーで日本記録を作ろうとしていました。ただ、よい飛行機は作れても、うまく飛ばす体力がなかった。そこで、クラスの体格のよい友達に飛ばし方を説明して、代わりに飛ばしてもらったところ、日本記録にせまる記録が出ました。そのとき、ひとりで記録を作るのではなく、誰かと協力して何かを生み出すことの面白さを学びました。その経験が私のモノづくりの原点だと思います。

小美濃先生は多数の付録制作に携わり、今でもさまざまな会社で技術顧問を務めるベテランのエンジニア。対談にも、自身が制作に関わった付録や、現在開発中のガジェットを持参してくれた

青木CEO(以下、青木) 私も「他の人を巻き込んで何かをする」というのが根本にあります。子供のころ、お小遣いが少なかったので、お金持ちの子供を巻き込んでいつも何かとアクションを起こしていました。今につながる回路の話でいうと、例えば、古いバッテリーとモーターをつないで電気自動車を作ったこともありました。なんとか坂道を下るぐらいのものだったんですけど。自分が言い出しっぺになり、みんなで協力して何かを作るというのは昔からしていたし、好きでした。

ロボットベンチャーの旗手として、さまざまなIoT機器や家庭用ロボットを世に届けてきた青木俊介CEO。「自分が言い出しっぺになり、誰かを巻き込んで作るのが面白かった」という若い頃の経験は、今の仕事にもつながっているという

小美濃 組み合わせの妙というか、誰かと一緒に何かをすると、面白いことができるんだよね。

青木 そうですね。中学高校でも、文化祭などでみんなで何か準備をするのが好きでした。「文化祭の準備期間のようなことを一生続けたい」なんて考えていました。

■モノづくりの「転換期」を見てきた2人
今の時代も「先に生み出した」というのは大きい

——次に、お二人が、今のモノづくりに必要な電子回路や基板、PCやプログラミングに触れた時代を振り返っていただきたいと思います。

小美濃 20代の頃ですね。1976年にアメリカのRCAという、トーマス・エジソンが創業した会社が源流にある企業に入りまして、電子工学の勉強をしました。最先端の研究や流行に驚かされてばかりでしたね。1980年代に日本に帰国したのですが、アメリカの技術や流行が数年を経て日本に入ってきていた時代で、まるで未来から戻ってきたような感覚だったのを覚えています。その経験があり、当時は日本で何がヒットするのかを予測できました。ただ、当時は若かったこともあり、予測はできてもお金にすることはできませんでした(笑)。

小美濃先生はアメリカから帰国後、学研に入社。OEM供給でスペースシャトルにも搭載されたCCDカメラや、駐車場の利用状況監視システムなどの開発などにも携わった

——当時は電子回路も、真空管から半導体へと移り変わっていた時代ですから、まさにモノづくりの転換期に立ち会ったと言ってもよいかもしれません。青木CEOはいかがでしょう。

青木 私の場合はもう少し遅くて1990年代前半でした。当然ですが、PCなんて今のように気軽に買ってもらえる時代ではなく、とにかく親を説得するのが大変だったのを覚えています。プログラミングが目的でしたが、親はプログラミングなんて知らなかったし、「ゲームで遊ぶだけだろう」と思われていたようです。とにかくお願いして、ようやく手に入れたのは1992年ぐらい。ただし、インターネットもないですから、今のように検索すれば学習できる時代ではありません。学ぶのもひと苦労、PC系雑誌の付録をいじってなんとか知識を得る毎日でした。

——なるほど。青木CEOの場合は、実際の機械に触れながら、雑誌などで情報を得ていたわけですね。そして、インターネットの普及とともに、自ら企業を起ち上げられた。

小美濃 今はインターネットのおかげで世界が変わりました。本当に私が若い頃とは違う世界になったと思います。そのせいか、アイデアが簡単に広まる時代です。コピーされやすい時代だといえます。それでも、何かを生み出したというのは大きい。他人よりも先に何かを生み出していれば、一歩先んじてよいものが作れるはず。そんな考えを持つのがいいかもしれません。

——テクノロジーの面で見ると、真空管から半導体へ、雑誌からネットへ……お二人は時代が違えど、大きな転換期を経験し、そこから一歩先んじたアイデアを生み出されてきたわけですね。

■自分が欲しいものを、人にどう届けるかを考える

——お二人の経歴をざっと振り返りましたが、社会人になってからは、数々のアイデアを実現されてきたと思います。モノづくりにおいて心がけていることは何でしょうか?

小美濃 相手の顔、喜ぶ顔、驚く顔、楽しそうな顔、これが見たいという気持ち。これです。

青木 特に子供向けのワークショップだと、そうした反応がより得られて楽しいですよね。

小美濃 本当に子供はだませない。大人は最初にうまく説明を入れることで理解してくれますけど、子供は見た目が全て。それがないと見向きもしてくれません。特に小さい子は直感的によい悪いを見破ります。小学生入る前くらいの年齢を対象とした付録作りは至難の業でしたよ。

数多くの付録を作り続けてきた小美濃先生でさえも、「ほとんどが失敗。失敗ばかりです」と語るほど、子供の心を動かすのは難しいのだとか

青木 私は、自分や自分の家族、身の回りの人が喜ぶもの、というのが基本です。社員にも、自分が欲しいもの、自分が作りたいと思うものを作ろうといっています。例えば、アクションカメラのGoProも、社長のニック・ウッドマンが自分がサーフィンをしているのをうまく撮影したくて作ったものです。私自身、そうした「自分が欲しいと思って作った」というコンセプトの製品が好きですし、自分が欲しいものを作るのが一番です。

——では、ご自身の経験を振り返ってみて、モノづくりが「成功」するポイントはどこにあるとお考えですか。ただ部品を組み上げました、機械を作りました……。それだけ、というわけにはいかないですよね。

小美濃 仕事でお金をもらうようになってからは、商品を求める人がどんな人で、どこにいるのかを特に意識するようになりました。例えばハンバーガーを作るとします。最高の材料と調理人を用意して作ったとしても、おなかいっぱいの人は買ってくれませんよね。売るタイミングを考えないといけないのです。よいものを生み出したという満足で終わらせず、よいものであるとうまく伝えることも必要です。

青木 そこは私も同じです。開発するだけでなく、商品化させ、人に届けるまでを考えないといけません。

青木CEOは、ソニー創業者の一人である井深大氏の「発明の比重は1、開発は10、商品化は100」という発言を引用し、アイデアを世に出すまで考えることが大事だと話してくれた

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