このページの本文へ

柳谷智宣がAdobe Acrobatを使い倒してみた 第133回

紙からの脱却! 建設業界のDXはDocument CloudによるPDF活用が重要

2021年05月20日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水

sponsored

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 本連載は、Adobe Acrobat DCを使いこなすための使い方やTIPSを紹介する。第133回は、セミナーイベント「建設業界における紙業務のデジタルトランスフォーメーション いまこそ解決できるデジタル化の課題トップ5」で語られた建築業界のDXについて紹介する。

 近年の少子高齢化の流れは留まるところを知らず、労働人口は減少し続けている。建設業もその影響を受けている業界のひとつだ。人材の確保は喫緊の課題だが、すぐに解決するものでもない。そこでご多分に漏れず、労働生産性を上げることが急務となっている。さらには、2020年5月の緊急事態宣言を皮切りに、コロナ禍においてビジネスシーンも大きく変化した。

 そんな課題と解決策を共有すべく、2021年1月に「建設業界における紙業務のデジタルトランスフォーメーション いまこそ解決できるデジタル化の課題トップ5」と題するセミナーイベントが開催された。今回はその様子を紹介しよう。

「建設業界における紙業務のデジタルトランスフォーメーション」をお題にしたイベントが開催された

 まずはアドビ デジタルメディア エンタープライズセールス 第三営業部部長 宮下猛氏による「建設業界における最新の課題事項と取り組むべき対策」のオープニングセッション。

 アドビは2020年11月下旬から12月上旬にかけて、建設業界の企業に現場の課題アンケートを行なった。在宅勤務の課題としては、ダントツで「紙文書業務」が挙げられていた。その後、「セキュリティ」「ハードウェア」と続いている。

 「紙文書業務」を一般的な社内申請の日常書類と図面書類に分けて深掘りしたところ、「日常書類」では「印刷」と「押印・出社」「機密文書のセキュリティ」という課題があった。「図面書類」では圧倒的に「複数での確認・回覧」という課題があり、続けて「共同編集」「社外との共有や郵送」となっていた。

 建設業界のデジタル化が遅れているため、業者間のやり取りで電子文書を扱えないというケースが発生しているのだ。3Dやグラフィックを含むマルチデータを共有できないとか、押印のために出社しなければならないという課題が寄せられた。

 建設業界もこの課題は把握しており、ペーパーレス化の取り組み状況では、「具体的に検討開始」が48%、「採用に向けて情報収集中」が37%と、積極的な企業が85%にもなっていた。

紙文書業務で課題を抱えている企業が多いことが分かった

 この建築業の課題に対し、2つのセッションが行なわれた。2番目に登壇したのはイエイリ・ラボ代表取締役で建設ITジャーナリストでもある家入龍太氏で、「施工管理、遠隔臨場から重機運転まで!生産性向上に即効く建設現場のDX最前線」というテーマで基調講演を行なった。

 生産性を向上するために、国土交通省は2016年代から「iConstruction」という政策を掲げており、2025年までに建設現場の生産性を20%向上させることを目指している。

 しかし、2020年は新型コロナウイルスの発生により、3密防止他のためのテレワーク化が喫緊の課題になった。現場での接触機会を7割削減するなら、現場は3人、その他は現場以外の場所で働かなければいけなくなったのだ。

コロナ禍でロボット化と同時にテレワーク化も進めることになった

「逆に、これは移動の無駄をなくすというチャンスでもあるわけです」と家入氏は語る。

 施工管理をテレワーク化する際は、「デジタルツイン」が活躍する。デジタルツインとは現実の現場の構造物をデータで表示する技術のことで、工程管理や品質管理など現場で行なっていた作業をテレワーク分担できるようになる。

 数万円程度の360度カメラで現場を撮影し、3D CADに紐付ければ、現状を把握したり、ビフォーアフターを比較したりできる。ごみが映っていれば、テレワークしている人が「片付けてください」と指示することも可能だ。

iPhone 12 Proでもデジタルツインを作成できる

 テレワークを阻害する要因についてのアンケートでは、紙の文書が原因になっていることがわかった。そのため、近年では課題解決のサービスが徐々に登場しているという。FAXのための出社という「移動のムダ」はインターネットFAXを利用すればいい。押印のための出社に関しては河野行革相の「ハンコ廃止」革命でかなり改善されたという。

 残るは「紙書類」そのものをどうするかという問題。ファイリングされた紙資料が会社にしかなければ、やはり出社が必要になってくる。例えば、紙の図面を現場に渡さなければならない場合、以前はバイク便を飛ばしていたのだ。

「紙自体をなくせば「移動のムダ」は大幅に減る」(家入氏)

 紙の情報を電子化するなら、PDFが広く使われている。紙でできることはすべてできるうえ、電子データなので紙以上のこともできるようになる。そのため、PDFでなにができるのか、というPDFリテラシーを高める必要があるという。

 PDFリテラシーが高まれば、建設業のテレワークが加速し、「移動のムダ」が大幅に減り、建設業の生産性が大幅に向上するという。

建設業の生産性を向上させるには「PDFリテラシー」がカギ

 3つ目のセッションは「建設業界における紙業務のDX」というテーマでアドビ デジタルメディア事業統括本部 営業戦略本部の永田敦子氏が登壇した。

 2020年12月に実施した建設業界における現場の課題アンケートによると、一般書類では印刷・製本・押印の課題が過半数を超え、次いで共同作業・情報交換、文書セキュリティという課題が続いた。図面書類では、圧倒的に共同作業・情報交換に課題を持っている人が多かった。

 図面書類の課題としては、複数人での確認・回覧、共同編集、社外との共有や郵送、多岐にわたるファイル形式、という課題が挙げられた。

建設業界でも紙文書の扱いが課題になっている

 そもそも紙文書には、検索できない、コピー&ペーストができない、物理保管のスペースが必要、長期保管する場合は経年劣化するという課題がある。

 そこで使われているのがPDFファイル。電子ならではの活用ができ、業務のスピードアップや非効率な作業をなくし、コスト削減できる。セキュリティや見読性を担保し、情報交換や共同作業の円滑化を実現できる。

 スキャナーやスマホのカメラで取り込んだ画像データも、PDFファイルにすることでテキスト検索が可能になる。もちろん、画像やExcelやWordなどのオフィス文書だけでなく、CADファイルもレイヤーなどの情報を保持したままPDF化できる。

3次元上を保持したままCADファイルをPDFファイルに変換できる

 Document Cloudを利用すれば、ネットを介してPDFファイルを共有したり、承認や確認フローに回すこともできる。セッションでは、CAD図面を離れた拠点同士にいる複数のユーザーと同時にレビューしながら同意するデモが行なわれた。

 共有機能でメールを送ると、招待されたユーザーでPDFが共有され、誰かがコメントを付けると、リアルタイムで他の人も確認できる。招待された人はブラウザー上で操作できるので、Acrobat DCのない端末でも利用できるのが便利だ。

共有メニューから招待メールを送り、図面を共有できた

 建設業で扱う情報はセキュリティに気を遣う必要があるが、PDFには閲覧用パスワードを設定したり、マイクロソフトのAzure Information Protectionと連携して、細かなアクセス権を設定する機能が用意されているので安心だ。

 建設業に限らず、契約書も紙からの脱却が進んでいるが、AcrobatやDocument Cloudの「Adobe Sign」を利用することで、手軽に電子署名も利用できる。

「DXを推進する究極の意味を考えると、人々の生活を豊かにすることだと思います。コロナ禍において浮き彫りになった点として、前線に近い業務や基幹労働に近い業務ほどリモートワークや電子化しづらい側面があります。しかし、今回紹介したように、これらの基幹業務を支える文書業務は比較的電子化しやすい業務でもあります。まずはこの分野のDXを推進していくことで、組織全体ひいては社会全体の負荷分散にも貢献できるのではないでしょうか」と永田氏は締めた。

カテゴリートップへ

この連載の記事

目からウロコのPDF使いこなし術【アクロバット連載100回記念放送】