1990年台後半~2000年台前半というのは、新しいアーキテクチャーのプロセッサーが雨後の竹の子のように現れ、消えていった時代である。そうした時代に出現したものの中には、超マルチコアやDataflow、Processor In Memoryなど、これまでAI向けプロセッサーとして紹介してきた諸々のアーキテクチャーを採用したものが少なくなかった。
今回ご紹介するSambaNovaのCardinal SN10も、そんな特異なアーキテクチャーを継承している。Cardinal SN10は、Reconfigurable Dataflow Unit(RDU)を搭載したプロセッサーである。
ほぼ1サイクルで回路構成を変更できる
Reconfigurable Processor
まず最初にReconfigurableの定義を説明しておく。Reconfigurable Processorはおおむね「ほぼ1サイクル(場合によっては数サイクル掛かる場合もある)で回路構成を変更できるプロセッサー」だ。と言ってもイメージできない方も多いだろう。
例えば処理A~Dの4つの処理を行なうことを考える。すると従来のプロセッサーの場合、「Aを処理するユニット」~「Dを処理するユニット」まで専用のユニットを用意し、間を受け渡し用バッファでつなぐ格好(下図上側)になる。
この場合、それぞれのユニットが時間軸方向でどう動くのか、というのが上図下側である。まずAが動き、終わると(バッファ経由でのデータ受け渡し時間を挟んで)Bが動き、……といってDまで動き終わると完了となる。
マルチコアプロセッサであればA~Dにそれぞれのコアを割り当てるとか、アクセラレーターならそれぞれの専用回路を搭載するといった格好だ。
これがReconfigure Processorだとどうなるか?というのが下図である。処理A~Dまでが、同一のユニットで処理可能になる。
この場合、まず処理Aに併せて処理ユニットを構成。ここで処理が終わったら数サイクルで処理B用の構造に作り替え、バッファからデータを読み込んで処理Bを行ない、終わったら処理C用に……とすることで、回路規模を大幅に小さくできることだ。
もっとも「パイプライン動作ができないじゃないか」という突っ込みは当然入るかと思う。実際上図の構造では、実態としての処理ユニットは1つなので、パイプライン動作はできないことになる。ただ逆に言えば従来のプロセッサー処理の図と同じように4つのユニットを使ってよければ、動作を4並列で実行できるので、実効スループットそのものは変わらないことになる。
こんな面倒な構成のなにがうれしいのか? というと、実はそのパイプライン動作にある。パイプライン動作をスムーズに行なうためには、パイプラインを構成する各ステージの処理時間をなるべく一緒にしないといけない。
各ステージが均一の処理時間だと、下図の上側のように綺麗にパイプラインが構成されることになる。
もし仮に処理Bの処理時間が短く、処理Cが長いとどうなるかというと、上図下側のようにパイプライン全体の速度は一番長い処理Cに併せることになり、かつ処理Bのユニットは遊びまくることになり、効率が悪い。
ところがReconfigurable Processorでは個々の処理時間が変化してもある意味シーケンシャルに実施できるため、効率は変わらないことになる。
もっと大きなメリットは、複雑な回路であっても小さく収められることだ。ASICにしろFPGAにしろ、構成できる回路には物理的な上限というものがあるから、例えばA~Dまで全部の処理を入れたら入らなくなった、なんてことが現実には起き得る(そういう場合、チップを分割してA・Bを処理するチップとC・Dを処理するチップに分けるなどになる)。
ところがReconfigurable Processorなら処理A~Dを一度に動かす必要がなく、チップ上にはある瞬間には処理A、次の瞬間には処理B、という具合に切り替えられるので、処理A~Dの中で一番大きな処理が収まればいいことになる(それでも入らなければ、さらにその処理を分割すればいい)。
また副次的なメリットとして、従来のプロセッサーでの処理の図では中間バッファが複数必要になるが、Reconfigure Processorでの処理の図なら1個の中間バッファで済むので、メモリーの利用効率がいいことも挙げられる。うまくいけば非常に優れた専用プロセッサーが構築できるわけだ。

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