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「リゾテックおきなわ」レポ:

星野リゾートのすごいコロナ対策

2020年11月11日 11時30分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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 リゾートとITをテーマとした国際展示会「ResorTech Okinawa おきなわ国際IT見本市 2020」(リゾテックおきなわ)が、10月29日から沖縄コンベンションセンター展示棟で開催。事業のデジタル化や感染症対策など、観光周辺企業が抱える課題の解決策をIT企業が提案します。オンライン展示会も同時開催。オフラインの会期は11月1日までですが、オンラインは11月30日まで開催です。

 10月31日、イベントステージには星野リゾートの星野佳路代表が登場。基調講演として星野リゾートの新型コロナ対策について語りました。15分程度の短い時間でしたが、メモが追いつかないほど濃厚な話だったのでご紹介します。記事内では新型コロナウイルス(COVID-19)感染症を新型コロナと総称します。

●星野リゾートの新型コロナ対策

 星野リゾートは創業106年の老舗企業。4代目となる星野佳路代表が軽井沢の温泉旅館を引き継いだのはバブル経済崩壊寸前の1999年でした。不動産の所有と開発に展望が見えにくくなっていく中、星野代表は物件の所有と開発を切り離し、全国の温泉旅館の業績を改善する運営特化型のビジネスに舵を切ります。

 物件を持たないぶん案件の自由度は落ちますが、借金はなく、バランスシートは軽く、成長も速いという身軽なビジネスモデル。金融危機をきっかけに長期的に不動産を所有するオーナーと仕事をしようとREITにも着手しました。

 最近は顧客セグメントごとにブランドをサブブランドに切り分け展開しています。ラグジュアリーな星のや、温泉旅館の界、ファミリー層のリゾナーレ、都市観光のOMO、20代をターゲットにするBEBの5つにわかれています。

 新型コロナの影響が出始めたのは4月から。3月時点ではまだ影響があらわれておらず、星野代表は北海道で趣味のスキーを楽しんでいたそうです。

 「最高の3月でした。コロナの影響でインバウンド(外国人観光客)が自国に帰り、雪が降ったばかりのフレッシュな雪原が残っていた。そこで最高の1ヵ月を過ごしていた。そうしたら東京都の小池知事が記者会見をして、東京でオーバーシュートすると。その記者会見翌日からキャンセルの山がドサッときた。そこで初めて問題に気づいて、4月2日に東京に戻ってきたんです」(星野代表)

 平和な3月と打って変わって、4〜5月は90%のマイナスとなり、社内はパニックになりました。これは非常事態だということで最初にやったのは優先順位を変えること。顧客満足度やブランド戦略の優先順位を下げ、現金重視の方針に切り替えることで、現場レベルの判断をしやすく、動きやすくする体制を整えました。

 「つねに『中長期な経営戦略、長期視点の競争力が大事』と言ってきましたが、危機対応においては短期的な現金重視に切り替えていく。犠牲にするものを明確にして、動きやすくすることのが重要。即決するのが重要でした」(同)

 優先順位を変えた上で考えたのは、外国人観光客がゼロになってしまった中、どれだけ売上を戻せるか。国内旅行の市場は22兆円。そこに海外旅行に向かっていた国内の旅行者ニーズが3兆円くらいはあるだろうと目星をつけ、24〜25兆円の市場をとるための作戦を練りました。その上でやったのが旅行ニーズが復活する時期の予測。スペイン風邪を参考に、第1〜第3波を想定したシミュレーションを立てました。その波と波のあいだに売上を取り戻すための作戦を立てはじめます。

 社内を同じ方向に向けるため、こうした作戦や、新型コロナの困難をどうやって乗り切るかという考えは社内ブログで次々と発信していきました。中でも特に社内でウケた記事があったそうです。その名も「倒産確率発表」。

 「ブログを1週間ごとに更新していると、記事につく『いいね』の傾向が落ちていく傾向があったのでヒット作を出そうと思って出したのが『倒産確率発表』。売上の維持、コスト削減、外部調達でそれぞれ3シナリオの確率を出して、組み合わせて作ったもの。それが大ヒットしました。それを毎月更新して、楽しみながらコロナを乗り越えようということで頑張ってきています」(同)

 具体的に波と波のあいだにどんな企画を打っていったのか。新型コロナの感染拡大を防ぐ考えからも、市場から求められるのは1〜2時間圏内の小旅行「マイクロツーリズム市場」であると判断しました。そこに向けて魅力のある企画を作り、情報を発信するという方向に舵を切りました。マイクロツーリズム市場向け企画が伸びれば4〜5月のように90%減ということはなく、40〜50%減にとどまるはず。その上で、コストの削減などでサバイブしようという計画でした。

 マイクロツーリズム向け企画のひとつが、奥入瀬渓流ツアー。ポイントは2階建ての観光バスを使ったこと。秋田や青森の人たちなら一度は見たことのある奥入瀬渓流も、2階建てバスから見ると川を見る角度が変わり、紅葉の臨場感が違うという売り込みでヒットしたということ。こうした企画を次々に打ち出すことで落ちていた稼働率を戻していきました。

 結果、インバウンドがメインだった星のや京都も、8月には稼働率90%に回復。もともとインバウンドが少なかった出雲や阿蘇など地方の温泉地では、8月時点で昨年の稼働率を超えたそうです。

 ポイントは立てた作戦にとことんお金を使うことだったと言います。たとえば2階建てバスは、東京でインバウンド向け観光に使われていたものを借りてきたもの。経営上の攻守をはっきりさせるのがポイントのようです。

 結果、予約純増減は緊急事態宣言が出た4月2週目で底打ちとなりました。以降、予約件数は感染者数と比例して上下しながらも上がっていきます。予約件数と感染者数を比較した波線グラフは、4月1週目に「波と波のあいだにマイクロツーリズム市場を呼び込む」という作戦を打ち出したときに想定していた市場動向と似た動きを示していて、星野代表はこれを自慢話にしているということでした。

●基調講演はオンラインで配信中

 星野リゾートの新型コロナ対策戦略は、なぜか悔しくなるほど鮮やかです。

 7月から始まったGo Toトラベルキャンぺーン効果に支えられた背景も大きかっただろうと思いますが、優先順位を変えるという初期対応に始まり、過去の事例からシナリオを考え、ねらいとなる時期と対象をはっきりさせ、すばやく企画を立てて実行し、そして、すべての動きをしっかり数字で追いかけるところまでの一連が、よく緊急時にここまで考えられるなあと感心させられました。

 星野代表の基調講演は30分間で、残りの10分はインターネット時代にどうやってお客さんとつながりを持っていくかというデジタルマーケティングの話をしていたのですが、それもやはりとても面白い話でした。インターネット旅行市場は、リクルート、楽天、ヤフー、グーグル、トリップアドバイザー、トリバゴなど様々な業者が入ったカオス状態。そんな中、業者に飲まれず差別化するためのアイデアをズバッと出していて「くっそー、アッタマいいなあ」とうならされます。

 文字量の関係で記事では紹介できませんが、基調講演の映像はリゾテックおきなわ2020オンライン展示会で配信しています。公式サイトでアカウントを作成すれば無料で見られます。興味がある方はぜひご覧ください。

 

ResorTech Okinawa
https://www.resortech.okinawa

<開催概要>
名称:ResorTech Okinawa おきなわ国際IT見本市 2020
   (略称:リゾテックおきなわ2020、ResorTech Okinawa 2020)
主催:ResorTech Okinawa  おきなわ国際IT見本市実行委員会(実行委員長:稲垣純一)
後援:台北駐日経済文化代表処那覇分処
会期:2020年10月29日(木)~11月1日(日)
会場:沖縄コンベンションセンター 展示棟(ツーリズムEXPOジャパン2020 旅の祭典 in 沖縄 会場内)
展開内容:展示商談会、事前アポイントメント型商談会(バイヤーブース訪問型)、IT、観光等に関する講演等(予定)
対象分野:観光、飲食、小売、農業、水産業、製造、医療など産業全体に係るテクノロジー全般
主な来場者:ホテル、飲食、小売、サービス業、製造、交通事業者、農業、水産業、医療、福祉等・国内外の観光産業、観光関連産業事業者・国内外IT事業者、VC、DMO、自治体等・TEJ参加バイヤー及びTEJ出展者・一般参加者(※10月31日(土)、11月1日(日)は一般客の来場可能日)
主な出展者:ResorTechや関連テクノロジー・サービスを提供する事業者
同時開催 ツーリズムEXPOジャパン2020 旅の祭典 in 沖縄

 

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