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大規模なオンライン診療とオンライン授業の実践を現場責任者が語る、「Cisco Live! 2020」レポート

シスコ「Webex」は医療や教育の現場をどう変えたか、2つの事例

2020年07月02日 07時00分更新

文● 谷崎朋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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キャンパス閉鎖後、4週間で7600強の講義をオンラインに ―ローンスターカレッジ

 CIOパネルディスカッションで紹介されたもうひとつの事例は、ローンスターカレッジだ。同校は米テキサス州のコミュニティカレッジ(公立二年制大学)であり、短期間で講義をオンラインに移行した。

ローンスターカレッジ(Lone Star Collage)のWebサイト(lonestar.edu)

 「当初は、このロックダウンは一時的なもので、リモート移行もいずれ終わると思い込んでいた」と話すのは、同大学の副総長、リンク・アランダー氏だ。しかし、感染拡大が収束するのはかなり先のことであり、事態は一進一退を繰り返すことが分かったとき、同氏は考え方を改めたという。

 「コロナ以前に戻ることはない。いま私たちは“ニューノーマル”への移行期にあり、新しい教育方法や業務方法をしっかり構築、実践していかなければならない」(アランダー氏)

ローンスターカレッジ、カレッジサービス、副総長のリンク・アランダー(Link Alander)氏

 同大学は3月にキャンパスを閉鎖し、4週間でオンライン講義の体制を整えた。すでに7600強の講義をオンラインで実施し、7万4000人の学生が無事前期を終えることができた。急なリモート移行にもかかわらず、ドロップアウトした学生の数はなんと「過去最低」だという。アランダー氏は「学生も共に困難を乗り切るため、変化を受け入れて新たな試練に立ち向かっているのだろう」と推測する。

 学務体制も、WebexやJabber(シスコのビジネスチャット)などを使ってリモートに移行した。職員には、モニターを自宅へ配送した。長期に及ぶことを考え、ラップトップPCだけで業務を続けるのは辛いと判断したからだ。

 学生にも、必要に応じてラップトップを提供しているほか、通信環境の整備も行った。「幸いなことに、学部長が事態に先んじてラップトップなどの準備をしてくれていたので、すぐに実行できた」と明かすアランダー氏は、「デジタルディバイドが教育格差につながらないことが重要」だと断言する。

 今回のリモート移行がスムーズに進んだのは、災害復旧計画があったからとアランダー氏は言う。2017年8月にテキサス州を襲った大型ハリケーン「Harvey(ハービー)」は、ローンスターカレッジのキャンパスを半壊させた。その経験を踏まえ、いつでもリモート移行できるよう準備は整えていたという。

 同大学では6月1日に一部施設の利用を開放した。職員については接触追跡(コンタクトトレーシング)を行い、学生は施設などに入る際に検温などのチェックを行っている。

 「実験が必要な講義もあるため、今後50%はオンライン、25%はオンサイト、残り25%はハイブリッド形式で講義を行う予定だ。夏場はある意味でトライアル期間。微調整を繰り返しながら、後期に向けてベストな体制を探っていきたい」(アランダー氏)

 一方のIT部門も、業務方法を変革しながらニューノーマルへの対応を進めているという。たとえば、これまではサービスデスクを挟んでティア2、ティア3のサポート担当が対応する方式だったが、リモートでのタイムラグはなるべく減らしたいという考えから、今は複雑なトラブルシューティング案件は直接サポート担当に投げる方式に変えたという。

 同時に、ただサポートするのではなく、どのようなビジネスソリューションを提供できるかという発想に転換し、それに応じたスキルセットも習得していくことが今後は必要だとアランダー氏は言う。「その意味で、いまは常にトレーニングを実施しているような状態だ」。

 業務で意識しているもうひとつのポイントは、「なるべく日常と変わらない環境を作り出す」ことだ。朝はWebexで同僚と「おはよう」の挨拶をして、夜は夕食の動画をシェアする。プライベートな部分に干渉し過ぎない範囲で、うまくバランスをとってコミュニケーションをとることが大切で、WebexやJabber、メールなどが役立っているという。

 「オンサイトでは自分の見える範囲でしか相手を見ないので、落ち込んでいたとしても気付かず通り過ぎてしまうことがある。でも、Webexではそれぞれの表情がしっかり確認でき、声のトーンから体調や感情を感じとることができ、声がけしやすくなった」。そう話すアランダー氏は、「夕方最後のミーティングでは、重い課題や宿題は出さず、短く済ませる」といった工夫を紹介した。

 今後について、アランダー氏は他の教育機関と情報共有しながら、ニューノーマル時代における教育のあり方について考えていきたいと述べた。

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