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大規模なオンライン診療とオンライン授業の実践を現場責任者が語る、「Cisco Live! 2020」レポート

シスコ「Webex」は医療や教育の現場をどう変えたか、2つの事例

2020年07月02日 07時00分更新

文● 谷崎朋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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「1カ月で5倍増」のオンライン診療に対応 ―カナダ最大の精神医療機関

 Webexを活用し、コロナ禍のなかで業務をリモート移行した事例も複数紹介された。 いずれの事例も、一過性の取り組みで終わらせず、デジタルトランスフォーメーションのチャンスと捉えて、Webexなどのテクノロジーを活かして変革している好例だ。

 1つめは、依存症治療や精神医療に取り組むカナダ最大の専門機関、Centre for Addiction and Mental Health(CAMH)だ。

Centre for Addiction and Mental Health(CAMH)のWebサイト(camh.ca)

 CAMHでは従来からオンライン診療に取り組んできたが、対応できる臨床医は2月時点で50名程度に限られていた。しかし、コロナ禍でオンサイト診療(対面診療)が不可能になったことから、リモート移行が急務になった。そこで3月、シスコと提携してWebexを導入。併せて臨床医のトレーニングを行い、3月には400人近くの臨床医がオンライン診療に対応。診療数も、350件から1500件へ増やすことができた。

 「実は、オンライン診療への移行は患者のほうが積極的だった」。プレス向けのCIOパネルディスカッションで、CAMHのCIO兼CPOを務めるダミアン・ジャノウィッツ氏は、診療のリモート移行をめぐる反応をそう証言する。オンライン診療ならば、患者が物理的に移動する(医療機関に出向く)必要がない。その結果、患者の予約時間に柔軟さが生まれ、臨床医側も時間の余裕が生まれ、診療待ち時間も短縮と効果を説明する。

カナダCentre for Addiction and Mental HealthのCIO兼CPO(最高プライバシー責任者)、情報管理VPのダミアン・ジャノウィッツ(Damian Jankowicz)氏。同氏自身も医師である

 Webexのトレーニング内容は、シスコの協力も受けながら臨床医や法務部とともに開発した。トレーニング対象となったのは、事務職員含めて3,500人。ポイントは「小難しくならないこと」だったという。

 「忙しい医師たちは、分厚いユーザーガイドを熟読したりしないし、トレーニング動画を20分間も視聴したりもしない。むしろ15秒でトレーニングが完了するくらいでなければ、席を立って仕事に戻ってしまうだろう」。トレーニングは必要とは言えど、“本業”ではないことに時間を割くこと、また新たに覚えることは苦痛であり退屈だ。

 「その点でWebexは直感的に操作できるので、比較的簡単に使い方を習得できた」(ジャノウィッツ氏)

 ジャノウィッツ氏は、ある臨床医から「Webexはバーチャルな防護服」と言われたと明かす。互いに感染させるリスクがある中で診療することは、患者にとっても臨床医にとっても不安だからだ。

 またコロナ禍は、入院患者を見舞いたい家族や親戚などにとっても悩ましい問題を引き起こした。CAMHでは入院患者にタブレットを配布し、Webexを使って家族と“バーチャル面会”できるようにしたという。親しい家族と話すことは、症状の改善で大いに役立つ。

 オンライン診療における課題は「大きく2つある」とジャノウィッツ氏は説明する。ひとつは、セキュリティとプライバシーだ。医療分野では特に厳しく問われがちで、データがどこに保存されるのか、どんなプラットフォームを使っているのかなど、詳しく聞かれることが多いと語る。

 オンライン診療時のプライバシー問題も浮上している。特にCAMHが取り扱う依存症治療や精神医療の現場では、会話内容もセンシティブなものになりがちだ。したがって、誰にも話を聞かれない場所で診療を行うことが望ましいが、患者側が自宅内でそうした場所を必ずしも確保できない可能性がある。実際、そうした理由でオンライン診療を断る人もいるという。診療のための環境をどう作っていくかは、これからの課題だ。

 もうひとつは、職員のストレス管理だという。

 「これまでは(コロナ禍という)緊急事態で、大きな目標に向かってIT部門からのトップダウンの指示の下、医師や職員たちは徹夜も辞さずに頑張ってくれた。しかし、現実は短距離走ではなく長距離走だ。トップダウン体制で“あれもこれも禁止”と指示するような状況では、どちらにとってもストレスだ」。ジャノウィッツ氏は、リモートだからこそできるコミュニケーションのあり方を模索していきたいと述べる。

 「今後は他の医療機関との情報共有など、より良い医療を提供するための仕組みを構築していきたい。10年後に振り返ったとき、今回の取り組みはきっとオンライン診療実現に向けて大きく前進した事例になると信じている」(ジャノウィッツ氏)

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