イヤモニ黎明期における、意外な人間関係
さて、Shureイヤモニ製品の嚆矢は、1997年のShure「E1」にさかのぼる。興味深いことだが、この製品はWestoneの「音のゴッドファーザー」であるカートライト兄弟との共同開発によるものだ。ダイナミック型ドライバーを使用するイヤモニは当時も存在していたが、ダイナミック型の場合、シェルの外部に空気を開放するベント穴が必要であるため、カートライト兄弟はその必要のないBA型ドライバーを用い、クローズド・シェル(完全閉鎖型)のイヤモニを試作していた。この時に協力をしていた音楽エンジニアがジェリー・ハービーだ。言うまでもなくUE(Ultimate Ears)の創始者であり、現在のJH Audioの主宰者だ。
このように当時は、現在のイヤモニ界隈で重鎮と呼ばれる人たちが、みな一体となって開発をしていた。とはいえ、当時はイヤモニの市場規模も限定されており、製品として販売されたのはShure「E1」が初となる。ちなみに、「Shure掛け」と呼ばれる耳の後ろにケーブルを取り回す装着方法も、発案はWestoneのカートライト兄弟である。またE1はのちにWestoneからもほぼ同形の「UM1」として販売されている。
Shureではその後、E2cやE5cなどの製品が主力をなすようになった。やがてEtymotic Researchの「ER4S」などがコンシューマー市場で人気の高性能イヤホンとなるが、これらは先に述べたようなプロ用のイヤモニが元祖である(武骨なデザインや、ポータブル機器向けでないため、ハイインピーダンスで音量が取りにくいなど鳴らしにくい面もあった)。iPod人気に乗じて、コンシューマー向けに考えられた高性能イヤホンは、やはりSureでは2005年のE4cが初めてとなると思う。
その翌年となる2006年のCESの話題をさらったのがE5cを越えるトリプルドライバー搭載のShure「E500」である。これに影響されたのか、その年には、のちに日本でも“テンプロ”という愛称で大人気となるUltimate Ears(ジェリー・ハービー開発)の「Triple.fi 10 pro」が発売される。そして、この動きにWestoneも応じて、トリプルドライバーにして初の3ウェイ構成の「Westone3」が発表となる。
この2006年の“トリプルドライバー戦争”とも言える大手各社の競争が、その後の高性能イヤホン時代へと繋がっていくのである。さらに翌年の「UE11 pro」から、コンシューマー市場でもカスタムイヤフォンの熱が盛り上がっていった。結果、UEからジェリー・ハービーがスピンアウトしてJH Audioを設立することになるのだが、これはまた別の話、別の機会にするべきだろう。
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