会社再建のために部門を切り売り
プリンター部門がLexmarkとして独立
さて、IBM-PCやPOWER/PowerPCでだいぶ寄り道をしてしまったが、本来のIBM全体の話に戻りたい。連載487回で説明したとおり、1985年からCEOに就任したJohn Akers氏であるが、その1985年まで10%以上の利益率を誇っていたIBMは、1986年から利益率が10%を切るようになり、1991年にはついに赤字に転落した。この話は連載487回の表からも読み取れる。
画像の出典は、IBM
それもあってAkers氏は社員の削減や製造設備の削減などを実行したほか、実は部門の切り売りもスタートしていた。まず1988年にはXeroxに同社の複写機部門を売却する(売却金額は非公開)。次いで1989~1991年にかけて、IPD(Information Products Division)をLexmark International, Inc.としてスピンオフさせる。
IPDという事業部はそもそもスピンオフを前提に1991年に作られた部門で、タイプライター、パーソナルプリンター、キーボード、オフィスサプライ系消耗品など複数の事業部にまたがって製造されていたものを全部IPDに集約している。
このスピンオフでは、まずClayton Dubilier & Rice, LLCに推定15億ドルほどで売却され、1995年に上場している。
一時期は世界最大のプリンターメーカー(2003年に世界シェアの19%を獲得)になったものの、2015年末に赤字決算を出し、2016年にApex Technology and PAG Asia Capital(艾派克科技股份有限公司)に36億ドルで買収されている。Lexmarkの話は本題ではないのでこの程度にしておこう。
これに続いてAkers氏は、同社の研究開発部門であるIBM Researchの売却も念頭に置いていた。この当時、すでにIBM Researchのさまざまな長期的な研究分野とその成果物は業界内外で十分に知られていた。仮に売却が成立していたら結構な金額になっていたであろう反面、おそらく現在まで続くIBMはなかったと思うのだが、幸いこれはAkers氏の辞任でストップがかかった。
ちなみにこの再建事情、本家本元のChronological History of IBMを読むと「1993年、IBMの年間純損失は過去最高の80億ドルに達し、コスト管理と合理化が最大の関心事となった。そこでIBMは、各部門を別々の独立した事業に分割することを検討した」と淡々と述べているに留まるが、実際は社内で相当紛糾したことは想像に難しくない。極めて高度な政治的な抗争と化したはずだ。
とは言え80億ドルもの純損失を出すと、さすがにCEOの責任は免れない。Akers氏は1993年4月1日に、CEO職と会長職の両方を辞することになる。
この連載の記事
-
第803回
PC
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート -
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 -
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ