PC Jr.の惨敗で倒産しなかったのは
IBM-PCのおかげ
結果として、PC Jr.の売れ行きは壊滅的であった。1984年6月には370ドルもの割引キャンペーンまで始まったものの、それでも売れ行きが改善されるわけではなかった。ちなみに同時期に一番売れたのはApple ComputerのApple IIeだったらしい。
同年7月にはキーボードを従来のメカニカルキータイプに無償交換するなどしたが、その時点で無償交換に応じたのは6万台程度だったとされる。この中には販売店の在庫も含まれているはずで、実売はもっと少なかっただろう。
1984年後半には価格改定に加え512K RAMカートリッジの発表、さらにPC Jr.用Lotus 1-2-3を同梱したパッケージを提供といったキャンペーンも用意されて多少売れ行きは改善したが、根本的にはこうした割引がないと販売は難しい代物でしかなかった。しかもこのキャンペーンが終わると、売れ行きは以前にもまして低迷した。
総生産台数は25万台程度と推定されるが、このうち20万台はキャンペーン期間に発売されたとみられる。ちなみに日本でも、このPC Jr.を日本語化したIBM JX(IBM 5511)がまず発売され、1985年にはCPUの動作周波数を7.2MHzまで引き上げた改良版(IBM 5510)もリリースされたが、こちらも散々な売れ行きであった。
総生産台数は4万台ほどだそうだが、うち1.5万台は日本IBM社員に配ったという。IBM JXは1987年まで販売を継続したが、本家のPC Jr.は1985年3月に早々と販売終了する。
普通では、ここまで大失敗すれば経営が傾きそうなもので、いかに巨大なIBMといえどもEDSの存続に係わりそうなものだが、そうならなかったのはIBM-PCやIBM-PC/XTに加え、1984年にはIBM-PC/ATも発売され、これの売れ行きが絶好調だったためだ。(以下次回)
この連載の記事
-
第808回
PC
酸化ハフニウム(HfO2)でフィンをカバーすると性能が改善、TMD半導体の実現に近づく IEDM 2024レポート -
第807回
PC
Core Ultra 200H/U/Sをあえて組み込み向けに投入するのはあの強敵に対抗するため インテル CPUロードマップ -
第806回
PC
トランジスタ最先端! RibbonFETに最適なゲート長とフィン厚が判明 IEDM 2024レポート -
第805回
PC
1万5000以上のチップレットを数分で構築する新技法SLTは従来比で100倍以上早い! IEDM 2024レポート -
第804回
PC
AI向けシステムの課題は電力とメモリーの膨大な消費量 IEDM 2024レポート -
第803回
PC
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート -
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 -
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ