ITともっともほど遠い漁業とクラウドが結びついたFishTech事例
指タップで魚市場の鮮魚が買える「UOICHI」が面白すぎた
2018年03月30日 07時00分更新
第2回のX-Tech JAWSの後半、GameTech、HR Tech、MamaTechに続いたのは、FishTechということでなんと漁業×ITがテーマ。SIエージェンシーの木原真さんが、地方の鮮魚を全国に届ける「UOICHI(ウオイチ)」の舞台裏を披露。斬新なユーザーインターフェイスや割り切ったサービスコンセプトで参加者の関心を大いに惹いた。
欲しい鮮魚が最短翌日届く「UOICHI」のインパクト
都内の受託開発会社であるSIエージェンシーを率いる木原真さんは、自身のコンピューターとの関わりから紹介。ファミコンか、パソコンかという選択で、斉藤由貴がCMをしていたPC-8801を選んだ結果、「おばあちゃんの年金の何ヶ月か分」にあたるPC-9801を買ってもらったなつかし話を披露し、年齢高めな聴衆のハートを一気に引き寄せる。ちょっとずるい。
その後、木原さんはMacintoshやGateway 2000などのパソコンを経て、社会人になってSIerに就職。住民基本台帳システムやデジタルフォトプリント端末、カード決済可能なECサイトの開発などを手がけた後、2003年にSIエージェンシーを設立した。以来、さまざまな開発案件を経て、現在は15人でObjective-Cを中心とするモバイルアプリやWebサイトを開発しているという。
そんな木原さんが最近手がけているUOICHIは、注文したら鮮魚が最短で翌日には届くというB2C型の鮮魚ECサービス。ユニークなのはライブコマース風なユーザーインターフェイスで、アプリの画面一面に広がった魚の写真をタップするだけで購入が完了する。小さい商品写真をクリックし、カートに入れるというECサイトと異なり、まさに指1本で魚をホイホイ買い付けるという体験型ショッピングが楽しめる。
その他、三枚おろし、五枚おろし、皮むき、ウロコ内臓処理などの加工も可能。「魚の加工が得意な方ってたぶんそんなに多くない。こうした作業をするだけで売り上げが大きく上がります」と木原さんはアピールする。購入した魚は当日発送され、翌日到着。ユーザーは新鮮なうちに魚を楽しめるというわけだ。
時限コマース、クレジットカードオンリー、徹底的な自動化
ここまででも十分面白いが、システムはさらに面白い。現在、このUOICHIでシステム運用しているのは、木原さんの地元でもある鳥取市・賀露港の「かろいち」という魚市場だ。
かろいちでは朝8時に競りが始まり、10時に商品が届く。そのため、出品側の事務方は届いた商品の写真を撮り、写真に対して商品を設定する。こうすることで12時に注文が開始され、13時半までアプリからの注文を受け付ける。つまり、90分の時限コマースというわけだ。「1時半までに時間を切っているのは、夕方5時のヤマト便に載せなければ翌日届かないから。この3時間半に人員を集中し、魚市場のおばちゃんたちがフル稼働します」(木原さん)。
勝負となる3時間半のオペレーションは、iPadとQRコード、紙を使うアナログ・デジタルのハイブリッド設計。注文は備え付けのプリンターに出力され、魚市場のおばちゃんはこの注文書を見ながら、商品をピックアップし、加工を行なう。最後、箱に貼られたQRコードをiPad・iPhoneで読み込み、梱包作業や個数の確定を確定。クレジットカードで決済が完了し、翌日に商品が届くというフローになる。
導入側のメリットは大きい。注文書の印刷や決済、通知など多くのフローが自動化されているため、ITリテラシがなくても作業できるほか、「エンジニアが揃っているので、導入・説明からSNS対応、紙が詰まったという話まで過保護サポートを提供している」(木原さん)という。また、クレジットカード扱いのみに絞ることで、集金や返品の手間、リスクを最低限抑えた。なにより、明日・あさってになると売れない鮮魚という生ものを、ネットで遠方にまで売れるのが出品側の大きな魅力。出店料も無料で、販売数に応じた従量課金なのでフェアな値付けだ。
シンプルなAWSの利用形態、今後は機械学習で魚も自動登録?
UOICHIの標準パッケージは、クラウドサービスとアプリ入りの管理用iPad、初期設定・月額保守料で構成されており、管理用PC、プリンター、Wi-Fiのアクセスポイントなどは既設のものを共用できるという。
システムはもちろんAWSで、決済システムと連携するAmazon EC2、データを格納するS3、RDSなどが用いられているほか、プッシュ通知のためにAmazon SNSも活用されている。また、格安SIMのユーザーでもきちんと写真が送れるよう、画像圧縮APIのTinyJPEGを採用しているとのこと。AWSを採用した理由は短時間のアクセスに耐えうるスケーラビリティ、帯域やコストを気にしないでよいデータ配信、重要なプッシュ配信対応などだが、機械学習への期待もある。「なにしろ魚の名前と画像は大量に登録されているので、これを自動で認識できるようにして、商品データの登録できるのではないか」(木原氏)と考えているという。
JAWS-UGの勉強会とは言え、今回はシステムの話も刺身のつま(FishTechだけに)。早々にAWSの話を切りあげた木原さんは、最後にUOICHIを企画した背景を披露した。きっかけは地元に戻ったときに鮮魚をシェアすると、反応にかなり手応えがあったこと。調べてみるとB2B向けECは多いものの、B2C向けの鮮魚ECは意外となかった。また、「詰め合わせ、とれ次第配送」というサービスも多かったため、「今日とれた魚をなるべく早く、必要な魚だけ食べたい」というニーズに答えるUOICHIを構築したという。
X-Tech JAWSの参加者からはとかく絶賛されたサービスだが、ITリテラシが高くない漁業の世界ではまだ理解してもらえないのも実態。「でも、関係者に話をしてみると、出会いや縁、信頼が生まれるのを感じている」(木原さん)とのことで、スピードよりも信頼感を重視し、長い目で事業を進めていきたいという。UOICHIのユーザーインターフェイスや割り切ったサービスコンセプトが面白く、イベント終了後は参加者からも「UOICHIダウンロードした!」という声が挙がっていた。
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