「2017年度は爆発的な成長が始まった」日本法人 田中社長が語る、同社の価値と戦略
「ピュア・ストレージの真価はフラッシュでなく『サービス』」
2018年03月05日 07時00分更新
「2017年度は、ピュア・ストレージ・ジャパンにとって『飛躍の年』になったと思う。爆発的に成長し始めたと感じている」。昨年(2017年)2月から同社 社長を務める田中良幸氏はインタビュー冒頭、こう切り出した。
「データセンターのオールフラッシュ化の波に乗るピュア・ストレージ」――と、筆者はおおむねそんなストーリーになることを予想しながらインタビューに臨んだ。だが田中氏は、ピュア・ストレージが提供する本質的な価値は、フラッシュではなく「先進的なサービス」にあること、それが現在のビジネスニーズに合致したからこそ市場で評価されていることを強調する。筆者の想定は的外れだったわけだ。
田中氏が言う「サービス」とは何を指すのか、またそれを求める市場背景とはどんなものか。2月から始まった同社新年度(2018年度)では、どんな戦略で展開するのか。田中氏に詳しく聞いた。(インタビュー取材日:2018年1月22日)
「『エバーグリーンストレージ』こそが評価されているポイント」
まずは2017年度、ピュア・ストレージが日本市場で「爆発的な成長」を遂げた理由を尋ねてみた。田中氏は「その要素はひとつではない」としながら、大きくまとめれば「ピュア・ストレージにとってのタイミングが来たから」だと語る。
「AI、ビッグデータ、IoTと、現在の注目キーワードを紐解くとすべて『データの重要性』につながる。こうした“超高度情報化社会”時代への流れと顧客企業における需要、テクノロジーの進化が相まって、そこにピュア・ストレージが『先進的なサービス』を提供できたことが、爆発的な伸びが生まれた理由だと理解している」(田中氏)
田中氏が「先進的なサービス」という言葉で指すものの中心には、同社独自の「エバーグリーンストレージ」モデルがある。「エバーグリーンストレージこそが、顧客に評価されているポイントだと思う」(田中氏)。
従来のストレージシステムは、たとえば5年、7年と一定期間が経過するたびに丸ごとリプレースしなければならないのが常識だった。その都度、新しいストレージの購入とチューニング、保有データのマイグレーションに大きなコストと時間がかかり、システム障害やデータ損失のリスクも抱えることになった。
エバーグリーンストレージは、こうした旧来の課題を解消すべく考えられた、SaaSライクなサブスクリプション型の所有モデルだ。容量やパフォーマンスは必要に応じて拡張できる。またソフトウェアアップグレードだけでなく、3年ごとにハードウェア(コントローラー、フラッシュアレイ)も無償でアップグレードできる。しかも、チューニングは不要であり、スケール拡張やアップグレード、データマイグレーションはダウンタイムなしで実行可能だ。
こうした仕組みにより、顧客の投資を無駄にすることなく、10年以上にわたり使い続けられるストレージ環境を提供するというのが、ピュア・ストレージの狙いだ。「エバーグリーン、つまり永続的に使えて“ずっと枯れない”データプラットフォーム、ストレージがあるべきだよねと、そういう発想から生まれた」(田中氏)。
そもそも近年、企業が抱えるデータ量は爆発的に増加しており、今後もさらに増加ペースは加速していく。他方で、データ活用は今や企業にとっての生命線であり、ストレージのダウンタイムはビジネス上の機会損失に直結する。つまり、旧来のように定期的にストレージをリプレースし、そのたびにデータを移行しなければならないのでは間に合わなくなってくる。
田中氏は、顧客企業は2020年、2025年に何が必要になるのかを考えて投資しており、そこにピュア・ストレージの考えるデータプラットフォームのあり方が合致したのだと説明した。
「ピュア・ストレージでは、8年前の創業時に、今後の社会で必要とされるデータプラットフォームのあり方を一から設計し直した。時代を先取りして『こういうものが必要になるだろう』と考え、4年間かけて作ったプラットフォームがまさに今、評価をいただいている」(田中氏)
それゆえに、ピュア・ストレージが提供する価値の本質はフラッシュのテクノロジーではなく、エバーグリーンストレージという新しい所有モデルであり、それを可能にしたデータプラットフォームのアーキテクチャである、という結論になるわけだ。
「もちろんわれわれも、今後数年間はフラッシュの時代だろうと考えている。ただし、SSDの次にNVMeが出てきたように、3年後、5年後にはもっと高性能なテクノロジーが出てくるかもしれない。だからこそ(記録)媒体を問わず、その時点で最新のテクノロジーが使えるアーキテクチャを作った。テクノロジーを更新するたびにコストがかかるのではなく、むしろコストが下がっていく方向に進化するサービス、これがピュア・ストレージの実態だ」(田中氏)
田中氏はさらに、多くのITハードウェアベンダーがオンプレミス設置/従量課金型の利用モデルを強化していることを指して、「ピュア・ストレージはオールフラッシュをリードしてきたのではなく、エバーグリーンストレージ(のようなモデル)をリードしている」とも語った。
2018年度の戦略はピュア・ストレージ自身の「爆発的な」規模拡大
それでは、2月からスタートした同社の2018年度にはどんな戦略で臨むのか。
田中氏はまず、現在の勢いに乗って「爆発的に社業を大きくしていきたい」と語る。規模を拡大することで、より多くの企業にエバーグリーンストレージの提案を広めることができると考えるからだ。
「多くの企業が、大量のデータをビジネス戦略に活用したいと考え始めている。つまりわれわれのサービスは、今まさに日本のマーケットが必要としているもの。今、このタイミングでサービスを提供することにより、顧客のビジネスに大きく貢献できるものと考えている」(田中氏)
もうひとつ、顧客の中長期的なITインフラ戦略を支援したいという思いもあるという。現在、多くの企業が、クラウド/オンプレミスの適切なバランスに頭を悩ませている。日本国内では「クラウド移行」がトレンドだが、先行する欧米市場では「オンプレミス回帰」の動きも見られる。両者にはそれぞれ一長一短があるからだ。
ここで、エバーグリーンストレージの“クラウド的な”特徴が価値を持つ。クラウドのような簡便さ、従量課金モデル、さらにクラウドとのハイブリッド連携といった特徴だ。
「将来的な動向がどうなろうとも、ピュア・ストレージが提供するものであれば、顧客の事情に応じてオンプレミス/クラウドの比率を柔軟に変えられる。企業が2025年をふまえた将来の情報戦略を策定するタイミングを考えると、今それを提案するのが最もお役に立てるだろう」(田中氏)
昨年4月に開催された2017年度の事業戦略説明会において、田中氏は日本市場におけるテーマを「CHANGE」という言葉で表現していた。日本企業のデータ戦略を変えていくために、まずはそれを提案するピュア・ストレージ自身を変えなければならないという意味だ。ハードウェア製品を提案、販売する従来のモデルから、顧客視点に立つビジネスソリューション提案への脱却だ。
「当社にはストレージ業界内から移ってきた社員も多くいるが、この1年間、これまでの業界内での常識にとらわれず、考え方や顧客企業への伝え方を変えようと言い続けてきた」「顧客企業の経営者とお話しする機会を増やし、ビジネスにおける(データプラットフォームの)重要性を訴えるようにしている」(田中氏)
こうした企業への訴求と提案をさらに早めていくためにも、ピュア・ストレージ・ジャパンとして「規模のCHANGE」が必要だと、田中氏は繰り返した。すでに西日本支店(大阪)、中部支店(名古屋)を構えるが、さらに全国への支店拡張を図り、東京本社も規模を拡大する方針だという。加えて販売パートナーについても、新規パートナーも含め「大きな展開を狙っている」と述べた。
「危機感が日本企業を変えつつある」中でデータ基盤の重要性を訴える
この1年間の体験から、田中氏は「『危機感』が日本企業を変えつつある」と指摘した。実際に、顧客企業の経営層におけるビジネス戦略の変化に伴って、数カ月の間にIT戦略が大きく変わり、以前は「導入はまだまだ先」と言っていた企業が急遽導入を決めるようなケースもあったという。
「世界で戦っている日本企業も多く、海外事例をお話しすると身を乗り出すようにして聞いていただける。また、海外視察ツアーのようなものも少し増えている」(田中氏)
田中氏はこれまでジェネシス、GXSなど、同じエンタープライズIT業界と言えどもアプリケーションレイヤーで経歴を積んできた人物だ。初めてインフラレイヤー、ストレージ業界に足を踏み入れたこの1年間で「この業界は非常に面白いと思った」と語った。
ただし、同時に「ITインフラ、ストレージに対するイメージ、認識をもっと変えていきたい」とも語る。顧客企業が持つ既成概念を塗り替えるべく、デジタル化時代のビジネスにおけるデータプラットフォームの重要性を訴え、もっと顧客企業に「オープンな」存在にしなくてはならないと考えているという。
その側面においては競合となるストレージベンダーとも協力して、「ストレージというインフラの重要性を知らしめていきたい」と田中氏は語った。
「(競合ベンダーとは)そのうえで真剣に、正しい方向で勝負したいと考えている。……僕らのような小さなベンダーが言うのは生意気だと思われるかもしれないけれども(笑)」(田中氏)