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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第54回

知らないと損!?偏光グラスの秘密

2017年10月24日 17時00分更新

文● 前田知洋

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 最近、やたら釣りに目覚めた、Eちゃんという友人(女性)がいます。釣り道具を大人買いしては、朝夕と仕事の合間に釣りに出かけています。

 Eちゃんは「陽射しがキツイから…」と、UVファンデーションやサングラスなどの紫外線対策はバッチリ。しかし、僕が「釣りには偏光グラスのほうがいいよ」と勧めても、サングラスとの違いがピンと来ていない様子。とりあえず、釣具店に連れて行き、偏光グラスをほぼ強引に購入させました。

 人生初の偏光グラスをかけたときのEちゃんの感想は「うぁ~なんじゃこりゃ!?」(笑)。山登りや釣りなど、アウトドアが趣味の人にはおなじみの偏光グラスですが、それ以外の人にはあまり知られていないのかもしれません。というわけで、今回のテーマは偏光グラス。じつは偏光フィルターは、最新のIT製品との関係が深く、これがなければ大画面4KテレビやiPhoneも生まれませんでした。

偏光グラスとは?

 19世紀にトルマリンの結晶を薄く切った板が特定の光を分離したり、針金を格子状に並べたフィルターが特定の光(電磁波)を分離することが発見されました。

 そして1928年、ハーバード大学の学生だったランドが、同じ効果を持つポラロイド フィルターの製造法を発見。後にランドは、 それとは別にインスタントカメラも開発。「ポラロイド社」の名前は有名になりました。しかし、もともと、この社名は「偏光(polarized light)」と世界最初の人工樹脂の「セルロイド(celluloid)」を組み合わせたものだといわれています。

 現在でも英語圏では、偏光グラスに使われるレンズを一般的に「Polaroid lens(ポラロイド レンズ)」と呼ばれています。(ただし、商標の問題で「polarized lens」と表記されることもあります)。

多くのIT関連の製品に偏光グラス(フィルター)が使われている

 偏光レンズの役目は、シンプルに説明すると、太陽光や反射光など、さまざま光が混ざった自然光から、目に見えない格子状のフィルターで特定の光だけを通過させること。なので、サングラスとして利用すると、光量を抑えるだけでなく、乱反射した光を防いで目がラクになるというわけです。

 じつは、偏光グラス(フィルター)はサングラスだけでなく、現代社会の様々な製品に使われています。デジタル時計、テレビ、PCモニター、iPhoneの画面など。近年では、3D映像用のメガネにも偏光フィルターが使われています。つまり、偏光グラスがなければ、現在のハイテク光学機器のほとんどが生まれなかったことになります。液晶と組み合わせることで、かなりすごい発明です。

偏光グラスの色々なテスト

 文で説明しても、わかりにくいかもしれません。というわけで、写真とともに偏光レンズの凄さをご覧いただきたいと存じます。筆者の仕事はマジシャンですが、写真にトリック撮影や画像合成などはありません…(笑)。

●PCモニターの偏光フィルターとの干渉

 液晶画面に偏光グラスを重ねてみると、角度によって光が透過しないことがわかります。これは、液晶画面にある偏光フィルターの格子と偏光グラスの格子が90°になることで、格子同士が光と完全に遮断するためです。2枚の窓用ブラインドを縦横に重ねると、光がまったく入らないことと同じで、偏光フィルターが細かい格子状になっていることがわかります。

偏光グラスを傾けるとPCやテレビの液晶画面が全く見えなくなります。これは、モニタに偏光フィルターが使われており、偏光グラスとの2つの偏光膜の光軸が90°になり干渉するのがその理由

● 自動車のダッシュボードの反射を取り除く

 自動車の運転席などで、ダッシュボードに置いたモノの反射が視野を妨げることがあります。偏光グラスをかけると、フロントグラスへの写り込みをほぼ無くすことができます。

左が偏光グラスなし、右は偏光グラスごしに撮影したフロングラス。左はダッシュボードに置かれたトランプが写り込んでいる。画像処理をしたわけではありません

 夜間の運転でも、雨に濡れた路面の反射や対向車のヘッドライトなどを軽減させ、視認性を向上させます。ただし、夜間の運転に使用する場合は、視感透過率75%以上の偏光グラスが推奨されていますのでご注意を。

 もし、自宅での熱帯魚の水槽、ガラス越しの水族館や高層ビルからの夜景撮影や動画配信で、ガラスへの写り込みが気になるなら、カメラのレンズに取り付ける偏光フィルターも販売されています。

● 水面の乱反射を防ぐ

 Eちゃんに偏光グラスを勧めた一番の理由がコレ。水面の乱反射を抑え、水中の様子が見えやすくなるばかりでなく、アウトドアでの目の疲れを大きく軽減することができます。

左が偏光グラス無しで撮影。右の偏光グラス越しに撮影。海底の様子や海藻の形などもよくわかります。海面の波を合成したわけではありません

偏光サングラスの注意点

 こんなに便利な偏光グラスですが、いくつか注意点があります。

偏光グラスの注意点その1 じつは消耗品

 偏光グラスには寿命があります。その理由は、見えない格子状の幕は光を吸収して化学変化を起こすため。余計な光をブロックすることでレンズも消耗しているのです。

 しかし安心できることもあります。光学製品のなかでは価格の幅が広く、有名アウトドアブランドのもので2000円以下の製品も存在します。もし、数万円代の高級偏光グラスを選ぶなら、使わないときはケースに入れ、直射日光を当てないことで寿命を延ばすことができます。熱にも弱いので炎天下の車内などに置きっぱなしにしないこと。

偏光グラスの注意点その2 偏光グラスのレンズは2タイプある

 薄い偏光フィルムが透明ガラスや樹脂にサンドイッチされたレンズと、たんにフィルムが貼られているだけのタイプがあります。前者や価格が高めで傷などに強く、後者は軽く、価格もリーズナブルです。高級なサンドイッチタイプのレンズを大事に長く使うか、フィルムタイプをカジュアルに使いこなすのか、それぞれの好みの問題かもしれません。筆者は海中に落としたり破損することを考え、4000~5000円のミドルレンジを愛用しています。

今回撮影で利用した偏光グラス。一番手前はメガネの上からかけられるオーバータイプ。ちなみにタイアップじゃありません(笑)

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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