最新ユーザー事例探求 第49回
「何かおもろいことをやれ!(ただし低予算で)」の企業文化が育てるイノベーション
おもろい航空会社、Peachが挑む“片手間でのAI活用”とは
2017年10月16日 07時00分更新
おもろいことは「いいんじゃない?」と受け止める企業風土
前野氏が率いるイノベーション統括部は11名のスタッフで構成されている。そのうち「プログラムを作れるスタッフが数名、AIを作れるのは2名」(前野氏)だ。では、その社内的なミッションは何なのか。
前野氏は、一方で社内のITリソース(PCやネットワーク、サーバーなど)を調達/管理する情シス的な役割も担いつつ、“イノベーション”の名を冠する部門として「プロアクティブ(能動的)に、新しい技術で社内外に刺激を与えるのがミッション」だと説明する。
「CEOからは『何かおもろいことをやれ!』とずっと言われている。なので、われわれがシステムを作る際のポリシーは『はやい・やすい・おもろい』。早い、安いならどこにでもあるが、『おもろい』が加わることで差別化になっていると思う」
Peach自体が当初から「おもろい」会社、他社と同じことはしないLCCを目指してきた。たとえば2年前(2015年)には世界で初めて、外装が段ボールでできたチェックイン機を空港に設置し、国内だけでなく海外でも話題を呼んだ。たとえ国内LCC市場では先発組であっても、世界的に見れば最後発グループでしかない。「ふつうにLCCをやっても他社のまねにしかならず、淘汰されてしまう。ならば、差別化要素のひとつとして『おもろい』を」という発想だ。
そうした考えは企業風土として社内全体に根付いており、イノベーション統括部の取り組みに対しても極めて寛容だという。たとえば前野氏が、上述の段ボール製チェックイン機のアイデアを社内に提案したところ、上司も広報部長も「いいんじゃない?」とすぐに理解を示し、CEOに至っては「おぅ、どんどん行け!」と後押ししてくれたそうだ。
「そういう企業風土があるからこそ、『おもろいこと』をやらせてもらえているのかなと思う。AI電話番を実装した際も、お金がないので(AI学習用の)データを買ってくることはせず、バックオフィスのスタッフに音声を録音させてとお願いして回った(笑)。ただ、みんなボランタリーに協力してくれて、結果として短期間で必要なデータが集まった。そのおかげで、認識精度も早期に90%の目標を達成できた」
* * *
講演の中で前野氏は、「イノベーションは必ずしも新しい技術だけでなく、たとえば段ボールのようなものでもイノベーティブなことはできる」と語った。
クラウドサービスを通じて誰でもAIを活用できるようになった(なりつつある)ことは、間違いなくすばらしいことだ。だが、決して「AIを導入すること」そのものがイノベーティブな行為というわけではない。あくまでも現場視点でビジネス課題を見極め、そのうえで、より自由な発想を可能にするクラウドサービス(やその他のテクノロジー)の力も借りること。前野氏があえて「片手間で」と強調する背景には、そうした思いもあるのではないだろうか。
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