約1年前にBTO PCの組み込み向けに販売がスタートしていたコードネーム「Bristol Ridge」で知られるデスクトップ向けのAMD第7世代APU「A12-9800E」と「A10-9700E」の店頭販売が始まった。
「Bristol Ridge」は、4つのCPUコア「Excavator」と、最多で8つのRadeon R7シリーズのGPUコアを統合するSocket AM4対応のAPU。Socket AM4対応のAPUと言えば、CPUにAMD最新アーキテクチャーの“ZEN”、GPUにハイエンドグラボに採用された“Vega”を統合した「Raven Ridge」に期待が集まっているが、秋葉原のショップスタッフからは、“予想外に売れている”という声も聞こえてきている。
そんな、第7世代APUの「A12-9800E」(実売価格1万4600円前後)と「A10-9700E」(実売価格1万1700円前後)を触る機会を得られたので、各種ベンチマークを実行。そのパフォーマンスをチェックしてみた。
BTO採用が少なかったTDP35Wモデル
「A12-9800E」と「A10-9700E」は、TDP35Wの省電力モデル。標準でDDR4-2400に対応しており、同社のRyzenシリーズと同じく「AMD 300」シリーズのチップセットを搭載するSocket AM4マザーボードで利用できる。
同価格帯のGPU内蔵CPUとしては、2コア/4スレッド仕様だが、動作クロックは3.9GHzと高いIntel LGA1151 CPUの「Core i3-7100」(実売価格1万3400円前後)がある。これまでの傾向的に、1コアあたりのパフォーマンスは、Intel Core iシリーズが優位な傾向にある。
そのため、ハイパースレッディングとは言え、4スレッド対応のCore i3のほうにコスパの軍配は上がりそうだが、LGA1151プラットフォームはチップセットの刷新が迫っている。一方、Socket AM4プラットフォームは1万円前後の価格でミドルクラスのB350採用マザーボードが購入できるといったメリットがあり、買い替えるタイミングとしては優位性がある。
さらに8コア/16スレッドのRyzen 7や次世代APU「Raven Ridge」に、そのままアップグレードできる高い将来性を持っている点など、総合で考えると「A12-9800E」と「A10-9700E」のコスパはグッとアップする。
高いコストパフォーマンスで人気となっているB350チップセット採用マザーボードのASUS「PRIME B350-PLUS」(実売価格1万2000円前後)などで検証環境を構築。「A12-9800E」と「A10-9700E」を搭載して、そのパフォーマンスなどを見ていこう。
検証環境のメモリーは、DDR4-3000対応品だがDDR4-2400(CL17-17-17)に設定。また、Windows 10の電源オプションは、「バランス」を選択している。
【検証環境】 | |
---|---|
CPU | A12-9800E(4コア/4スレッド、定格3.1GHz、TC時3.8GHz)、A10-9700E(4コア/4スレッド、定格3.0GHz、TC時3.5GHz) |
マザーボード | ASUS「PRIME B350-PLUS」(AMD B350、ATX) |
メモリー | Corsair「CMK16GX4M2B3000C15」(DDR4-3000 8GB×2) |
ストレージ | ウェスタンデジタル「WDS100T2B0B」(SATA M.2) |
電源ユニット | Seasonic「SS-750KM」(750W/80PLUS GOLD) |
OS | Windows 10 Pro(64bit) |
日常用途には十分な性能
シングルとマルチスレッド性能を計測する定番の「CINEBENCH R15」や総合ベンチマークの「PCMark 8」(Home accelerated 3.0)、「PCMark 10」(Express)を行なってCPU処理能力を見てみた。
まずは「CINEBENCH R15」で計測。第7世代APUは、TDPが35Wに抑えられている分、最大4GHz前後で動作するSocketFM2+世代のA10-7800シリーズからはスコア―が下がっている。CINEBENCH R15では、シングル10%、マルチ15%程度スコアー(参考記事:http://ascii.jp/elem/000/001/022/1022454/index-2.html)はダウンしている。
システム全体のパフォーマンスを計測する「PCMark 8」のスコア―は3000台前半。OSやPCMark 8のバージョンを含め、実行環境は異なるが、「CINEBENCH R15」と同じ傾向で、A10-7800シリーズからは8%程度スコアーがダウン(参考記事:http://ascii.jp/elem/000/001/022/1022454/index-2.html)。
最新バージョンの「PCMark 10」では、総合スコアーに加え、さまざまなシチュエーションを計測。ここでは、アプリケーションの起動速度、ウェブブラウジング、ビデオチャット(エンコード処理)などを行なう「Essentials」、オープンソースのオフィスソフト「LibreOffice」を使った文書作成や表計算処理の能力をスコアー化する「Productivity」、写真や動画編集の性能を計測する「Digital Content Creation」の3つのテストグループを行なう「Express test」を実施してスコア―をまとめた。
Express testの総合スコアーは2000前半と、コア数や動作クロック、GPUのパフォーマンスが影響して、各テストグループのスコアーが、いまひとつ伸びていない。メールやウェブ、ライトなオフィスワークは快適に行なえるだろうが、動画編集などクリエイティブな作業を行なうには、性能不足といったところ。
ライトゲームなら快適にプレイ可能
続いてはグラフィック機能のRadeon R7 Graphicsのパフォーマンスを見ていこう。定番3Dベンチマークの「3DMark」は、ミドルクラスGPUを想定したDirectX11ベースの「Sky Diver」。ゲームベンチマークは定番MMORPGの「ファイナルファンタジーXIV:紅蓮のリベレーター ベンチマーク」、そしてライト級の「ドラゴンクストX ベンチマーク」を実行している。
「3DMark」の「Sky Diver」の結果は、「A12-9800E」の総合スコアーが「6032」で、テスト中フレームレートが30fpsオーバーを記録。総合スコアーは、Core iシリーズが内蔵する「Intel HD Graphics」でおよそ4000~5000台。インテル第7世代の中でも自作erに人気の高い最上位モデル「Core i7-7700K」(参考記事:http://ascii.jp/elem/000/001/412/1412738/)ですら「Sky Diver」のスコア―は「5305」なので、かなり優秀な方だ。
実ゲームのベンチマークを計測したところ描画が軽めな「ドラゴンクストX ベンチマーク」のスコア―は、最高品質のフルHD解像度で「快適」指標となる「5040」をマーク。1280×720ドットのHD画質でのスコア―は、評価が「とても快適」となる「7496」を記録。そのため、動作が軽いゲームに関しては、設定次第ではGeForceやRadeonといった外部グラフィックスボードなしでも楽しめる性能がある。少なくとも動きの少ないアドベンチャーゲームなどは、快適にプレイすることができるだろう。
一方、内蔵GPUの性能は高めとはいえ、描画が重めの「ファイナルファンタジーXIV:紅蓮のリベレーター ベンチマーク」では、ややパワー不足で、快適プレイまでには至らなかった。
システム消費電力は余裕で100Wアンダーに
最後にシステム全体の消費電力も確認してみた。OS起動後10分ほど、なにもせずに居た状態をアイドル。CPUとGPUに負荷のかかる「3DMark Sky Diver」実行中の最大消費電力を高負荷時としてまとめている。
4コアCPUながら、アイドル時は20W前半となっており、CPUとGPUに負荷のかかる高負荷時でも「A12-9800E」で72.5W、「A10-9700E」では67.9Wという結果に。ネットを見たり、メール、ネット配信動画の視聴といった日常的な用途なら、システム消費電力が30から40W程度と低く抑えられるのが良かった。
用途は限られるがエントリーPC自作には十分あり
「A12-9800E」と「A10-9700E」は、店頭売り初のSocketAM4対応APUだが、アーキテクチャーやパフォーマンスは、従来のAPUから驚くような性能向上には至っていない。しかしながら、描画性能に関しては「Core i7-7700K」(実売4万2000円前後)よりも高い数値を示している点は魅力。
Radeonなしで「Fluid Motion」を使い動画を快適に楽しめるなどのメリットもあり、ライトゲーム+動画視聴用途のPCを低予算で、今組みたい人にはオススメできる。MSI「B350M MORTAR」(実売1万3000円前後)など、DisplayPortを備えるB350マザーボードもあるので、OS込みで6万円台くらいの4K 60Hz出力PCをつくってみるのもおもしろい。
AMD APU関連では、先日Geekbenchのサイトに「Raven Ridge」こと第8世代APU「Ryzen 5 2500U」のスコアーがアップされ、そのパフォーマンスの高さに注目が集まっている。あくまでも流出データだが、「Geekbench4.4.1」のスコアーはシングルコア「3561」、マルチコア「9421」となっている。
「Geekbench4.4.1」を「A12-9800E」で試したところ、スコア―はシングルコア“2447”、マルチコア「6252」だったので、次世代APUではマルチコアが50.6%も向上する可能性がある。デスクトップ向けはまだまだ先の話で、自作PC向けに投入されるかも不明だが、今後のAPUの動向にも注目したい。
(提供:AMD)