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男子育休に入る 第26回

児童虐待なぜ起きる 親として知れてよかった話

2017年09月27日 07時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita) 編集● 家電ASCII編集部

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About Article

34歳の男が家事育児をしながら思うこと。いわゆるパパの教科書には出てこない失敗や感動をできるだけ正直につづる育休コラム。

新幹線で新幹線と戯れる赤ちゃん

 家電アスキーの盛田 諒(34)です、おはようございます。水曜の育児コラム「男子育休に入る」の時間です。2月に赤ちゃんが生まれて2ヵ月間の育休を取ってから、毎日がカーニバルという日々がつづいています。赤ちゃんは最近、手でものをつかんで床にガンガンぶつけるというドラミング技術をおぼえました。ヒトの育児はすごいです。

 親としての知識を勉強していく「親勉」コーナー、第1回の保育園問題につづき、第2回のテーマは児童虐待です。

 厚労省によれば、2016年度、全国の児童相談所が対応した児童虐待件数は12万2578件。統計をとりはじめた1990年度に比べるとじつに100倍以上の数値です。

 以前までは、虐待のニュースを見るたび「ひどい親だな」「なぜそんなことができるのか信じられない」などと感じていたのですが、いざ自分が親になると、自分にかぎって虐待をするわけがない」と言いきれるかという不安が大きくなってきました。

 以前、チャイルドシートの装着が面倒くさすぎて「一瞬だけなら」という悪魔のささやきが聞こえたという話をしましたが、赤ちゃんの事故や事件はつねに紙一重のところにあると感じます。児童虐待はなぜ増えるのか、なぜ起きるのか、未然に防ぐにはどうすればいいのか、東京都児童相談センターの宿岩雅弘さんにお話を伺いました。


●虐待が増える3つの理由

 児童虐待対応件数が増える理由は大きく3つ。

・親に余裕がなくなっている
・見えなかった虐待が見えてきた
・虐待の定義がひろがっている

1. 親に余裕がなくなっている

 まず「余裕のなさ」というのは、わかりやすいところでいえば、貧しさの問題です。お金がなく、生活が苦しく、ふさわしい相談相手も見つけられずに、行く先のない焦りや怒り、恐れが、虐待という形で子どもにぶつけられてしまう。

 しかし、お金があれば余裕があるかというとそうではなく、「ワンオペ育児」という言葉が象徴するように、時間・体力・精神力ともに余裕がなくなり、やはり相談相手が見つからないことで、虐待にいたってしまうケースもあるそうです。

 むかしは、三世代同居や隣近所に助けてもらいながら、集団で子育てをしていましたが、核家族化が進み、地域のつながりが希薄になったことで、家庭での子育てが孤立しやすくなっている面があるのではないか、というお話でした。

 つまり、収入の格差が広がり、共働き世帯が増えるなど、社会構造の変化によって余裕のない家庭が増えたことが、虐待が増える一因になっているということでした。まさに自分そのものなのでゾッとさせられるところがありました。

2. 見えなかった虐待が見えてきた

 つぎが、虐待の顕在化。見えなかった虐待が見えてきたことで対応件数が増えたというもの。

 悲惨な事件が報道されるなど児童虐待に対する社会的感心が高まったことで、表にあらわれることのなかった虐待が相談の形であらわれるようになってきた側面がある、ということでした。

 東京都では現在、相談(通告)の約3割が警察から。警察からの相談は最近毎年増加しているそうで、今まで見つけられなかった虐待に対応できるようになってきた証拠でもあるとのこと。

3. 虐待の定義がひろがっている

 最後は、虐待の定義がひろがっていること。

 たとえば、兄弟のひとりが虐待を受けているとき、虐待を見せられているほかの子どもも、成長や発達に悪い影響が生じる可能性があるとして、虐待を受けているものとみなされます。

 激しい夫婦げんかで子どもが怯えたときも、いまの定義では虐待です。児童相談所が配布しているパンフレットに「たかが夫婦げんかと思っていませんか?」とあり、胸が痛みました。

【東京都(平成28年度)統計データ】
身体的虐待 24.7%
心理的虐待 55.0%
ネグレクト 19.4%
性的虐待 0.9%

 東京都では虐待相談対応状況の約半数が心理的虐待です。心理的虐待が多いのは、配偶者への暴力(DV)や夫婦げんかを含んでいることが一因です。ちなみに性的虐待の割合は低い数値ですが、性的虐待は発見がされづらいため、潜在的な虐待は相当数残っているものと思われます。

 ただし虐待の背景には、一概にこうと言いきれない複雑な事情がからんでいます。

 「保護者の性格、経済、就労、夫婦関係、住居、近隣関係、医療的課題、子どもの特性等々、実に多様な問題が複合、連鎖的に作用し、構造的背景を伴っているという理解が大切である。したがって、単なる一時的な助言や注意、あるいは経過観察だけでは改善が望みにくいということを常に意識しておかなければならない。放置すれば循環的に事態が悪化、膠着するのが通常であり、積極的介入型の援助を展開していくことが重要との認識が必要である」(厚労省)

 児童虐待の報道に対しては、SNSで親の人格を否定するような意見を見かけることもありますが、虐待というのは、ある家庭が置かれている特殊な状況が、事件という形をとってあらわれてしまった結果なのだと感じます。子どもを保護すべき立場にある親が子どもをおびやかすなどあってはならないことなのですが、事件を起こすまでに追いつめられてしまった事情は、家族によって異なる社会的課題をもっているものだと思いました。

 では、わたしたちが子どもを虐待から守るにはどうすればいいのか。第三者として、そして自分自身が加害者にならないためにはどうすればいいのでしょう。


●児童福祉司さんが子どもを守る

 まずは児童相談所(東京都児童相談センター)が日ごろどんな活動をして子どもたちを虐待から守っているのか、確認してみます。

■虐待対応の流れ
1. 通告(相談)
2. 緊急受理会議
3. 調査(情報収集)
4. 一時保護
5. 診断
6. 援助方針会議
7. 対応決定

 まずは近隣、家族、保育園、警察、病院などから、児童相談所に「近所で泣き声や怒鳴り声が聞こえた」「公園に1人で泣いている子がいた」といった形で相談が入ります。

 つぎに児童相談所は緊急受理会議をひらいたあと、虐待の有無・対応について調査を開始。家庭訪問や面接を通じ、「ここで生活を続けるのは危ない」「子どもがここで生活したくないといっている」などという場合、子どもを一時保護します。

 そして一時保護中、子どもの家庭調査・心理検査・医学的検査・行動観察などから診断し、どう対応するのが最善か、援助方針会議で決定。「家庭で生活を続けることが適当でない」と決定された場合、子どもは養育家庭や児童養護施設などで生活し、ケアを受けることになります。児童養護施設等への入所に保護者が同意しない場合は、家庭裁判所の承認を得て、入所することになります。

 ここまでが児童相談所の対応です。かなり人手がかかっています。

 児童相談所で働いているのは児童福祉司(ソーシャルワーカー)さん。児童心理司、医師なども働いていますが、主に対応にあたるのは児童福祉司さんです。

 東京都の虐待対応件数は今年度1万2000件程度。東京都の児童福祉司さんは250人ほどで、1人で50人近くに対応している計算です。これは新規受入件数なので、継続的に支援をしている子どもを含めると、ひとりあたりの対応人数はさらに増えます。国は児童福祉法を改正して児童福祉司の人数を増やしていますが、現場ではまだまだ足りていないのが現状だそうです。

 児童福祉司の人数を増やしても、研修などの教育をするには時間とお金がかかります。自治体の財源にも限りがあるため、財政支援が必要になります。他県ではNPOと協力するなど民間活用で職員の負担を軽減する工夫をしている児童相談所もあるそうです。


●不安があったら迷わず相談

 虐待を防ぐためわたしたちにできる最初の一歩は、少しでも早く児童福祉司さんに調査を開始してもらうため、児童相談所に相談(通告)をすることです。

 まず、第三者として。虐待の疑いがあったときは、最寄りの児童相談所に電話をかける。近隣からの通報で人間関係が悪化するかもしれないという不安もありますが、通告者の情報は当然ながら秘匿扱いです。疑いがあればためらわずに相談をしたほうがよいとのことでした。

 次に、自分自身が加害者にならないために。悩みや不安を抱えたときは、抱えこまず、あきらめず、積極的に相談をする。相談先は配偶者、両親、近隣の市町村、保健センターなど。NPOが運営する「いのちと暮らしの相談ナビ」などで相談先を見つけても良いと思います。

 余談ですが、「生活 苦しい」などでGoogle検索すると、Q&Aサイトのろくでもない回答や、検索エンジンに最適化させた広告記事などが出てきてしまうのが微妙な気持ちになりました。一定の要件を満たす検索ワードには公共機関の相談窓口を優先的に案内するなど、ウェブに寄せられるSOSにこたえてほしいと感じました。

 冒頭述べたように、児童虐待といっても、原因が子供にあるとは限りません。

 お金がない、時間がない、体力がないなど、生活から余裕が失われることも虐待につながってしまいます。少しでも苦しいと感じたときは、がまんしたり、抱えこむことなく、誰かに相談をすることが、自分の子どもを守ることにつながります。

 ひどい児童虐待のケースでは「なぜ警察や児童相談所は動かなかったのか」とマスコミに児童相談所が非難されることがあります。しかし、相談(通告)がなければ虐待は見つかりません。わたしたちがちょっとでも「おかしいな」と思ったときに電話で相談することが、苦しんでいる子どもちの代わりにSOSを出すことになるのですね。

 わたし自身、育児をしながら幸せと地獄を一度に経験しています。

 育児はきらきらした楽しいことばかりではなく、妻(配偶者)とぶつかったり、寝不足で体力がなくなったり、子育てでうまくいかず自信がなくなったり、ちょっとしたことで負の感情に襲われ、子どもをおびえさせるような行動をとりがちです。

 そういう悩みを誰かに相談することも親としての責任なのだと感じました。自分の恥ずかしい部分を見せるようで抵抗もありますが、子どもの幸せを考えるなら、適切な相談先を知っておくことがセーフティネットの役割を果たすのだと思います。今回は相談所目線のお話でしたが、本当に相談できる環境になっているのか、相談者目線の現実も知りたくなりました。

 以上で本日の「親勉」は終了です。シリアスなテーマがつづくと大変なので、次回はもうちょっとカジュアルな話題を探してみようと思います。また来週!


●悩みがあったらまずは相談

●児童相談所全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」
 虐待かもと思った時などに、すぐに児童相談所に通告・相談ができる全国共通の電話番号です。お近くの児童相談所につながります。
Tel:189

●東京都における子育てに関する電話相談「4152(よいこに)電話相談室」
 子育ての悩みや子ども本人の悩みなど、子どもに関する様々な相談をうけています。
Tel:03-3366-4152

●いのちと暮らしの相談ナビ
 NPO法人 自殺対策支援センター ライフリンクが運営する「生きる支援の総合検索サイト」。「生きるのがつらい」「生活・お金の悩み」など悩みを相談できる窓口が見つかります。
http://lifelink-db.org/common/




書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、家事が趣味。0歳児の父をやっています。Facebookでおたより募集中

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