
今回のことば
「日本の地図情報だけでなく、欧米の地図情報も同一のプラットフォームで利用できる。ひとつアプリで全世界のデジタル地図情報を利用できるようになる」(パイオニア・小谷進代表取締役兼社長執行役員)
パイオニアが、オランダの地図および位置情報サービスのHERE Technologies(以下、HERE)と提携した。
HEREは、カーナビ向けデジタル地図情報では欧米市場において8割のシェアを持つ企業。主要なクルマのほとんどが、HEREの地図情報をナビゲーションシステムなどに利用しているというわけだ。実際HEREには、Audi、BMW、Daimlerといった自動車メーカーが出資。さらに、インテルやNVIDIAなどのIT企業も出資しているほか、Facebook、Amazon、Microsoftなど、自動車業界以外の企業との連携している。
今回パイオニアとの提携では、パイオニアの子会社であるインクリメント・ピーが持つデジタル地図情報と、HEREが持つデジタル地図情報を、グローバルで提供することで協業。共通フォーマット化し、これを利用したアプリの共通利用などを促進するという。
具体的な活用としては、テレマティクス保険市場向けに地図情報を活用した事故リスク予測プラットフォームと、ADASソリューションの開発などを進めることになる。また、共同で自動運転車両メーカー向けに高精度地図情報の提供を目指す。
さらに、HEREがパイオニアの株式を3%取得し、パイオニアはHEREの株式を1%未満取得する資本提携も盛り込んだ。
これまでにも両社は、協業をしてきた経緯がある。
目指すはグローバルな位置情報プラットフォーム
2015年9月から自動運転で利用可能な技術に関する協議を開始。2016年5月には、自動運転向け地図情報の効率的な更新、運用を可能にする「データエコシステム」の開発に、パイオニアの3D-LiDARセンサーを活用する実証実験で合意した。また、2017年2月にはグローバルな地図ソリューションを活用した次世代位置情報サービスを、自動車業界をはじめとして、様々な業界向けに向けて提供することで提携している。
さらに2017年6月には、インクリメント・ピーとHEREが自動運転時代に向けたグローバルな地図ソリューションの実現に向けた協業を発表している。
今回の業務および資本提携によって、これらの協業にも弾みがつくことになる。
パイオニアの小谷進社長は、「HEREのデジタル地図情報に、パイオニアの技術、製品、サービスを組み合わせることでシナジー効果を最大限に発揮できる。両社が取り組んできた地図、クラウド、ナビゲーション、自動運転の強みを生かし、自動運転およびIoT時代のオープンなグローバル位置情報プラットフォームの構築を目指す。共通プラットフォームにより、HEREが持つ欧米の地図情報と、インクリメント・ピーが持つ日本の地図情報が同じフォーマットで提供されることから、ひとつのアプリで全世界のデジタル地図情報を利用できるようになる。大きなメリットを提供できる」とする。
そして「まずはテレマティクス保険に向けたサービスソリューション連携を計画しており、事故リスク予測プラットフォームとして2018年には商用サービスを予定している。これ以外にも、両社で検討している案件は多い。自動車業界以外にも成果を広げていきたいと考えており、スピード感を持って協業を進めていく」と語った。
事故リスク予測プラットフォームは、地図および位置情報技術を活用し、自動車の速度や交通情報、天候、災害情報などの情報から、ドライブ時の事故リスクを予測することができるという。まずは、保険業界がターゲットになる。
グーグルとは基本姿勢が違う
一方、HERE TechnologiesのEdzard Overbeek CEOは「自動車業界向け地図情報のリーダー企業であるHEREがパイオニアとの協業を深めることにより、日本だけでなく、世界に対して3D化したHDマッピングソリューション提供の土台ができる。これは屋内でも、屋外でも、オンラインでも、オフラインでも利用できるものであり、自動車業界だけに留まらず、様々な業界に対して、位置情報サービスのためのグローバルでオープンなプラットフォームを提供できる」と話した。
ここでは自動運転に積極的な投資をしているグーグルを引き合いに出しながら、「グーグルは、デジタル地図情報を生成する上でパートナーの参加を呼びかけているが、それは自分たちのためだけの地図情報に生かすものであり、クローズドシステムだ。対して我々の取り組みはオープンシステムであり、パートナーが参加して、そのプラットフォームの上で自分たちのサービスとして広げることができる」と、基本姿勢に大きな差があることを強調した。
さらにOverbeek CEOは、2050年には全世界の人口が100億人になること、その多くが都市部に住むことになるとの予測に触れる一方、近未来には接続される端末が230億台になり、コネクテッドカーは2億5000万台に増加。データ転送の速度は50倍以上になることなどにも触れ、「都市部ではモビリティーや運輸、輸送が複雑になる。それを解決していくことが必要である。クルマやドローン、ロボットをはじめ、すべてのものが接続されることで、自動化が進展。これが市民生活のなかに組み込まれていく。効率的な物流、交通を実現するためにも、デジタル地図情報はますます重要視されることになる」などと予測する。
多くのものがつながる世界が訪れ、あらゆる分野で自動化が進んでいくことになると、デジタル地図情報の重要性は高まることになる。

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