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パートナー協業で業界ごとの専門的な「知見」を収集、知識ベースとして提供

IBMが各業界パートナーと「学習済みWatson」を提供する意味

2017年05月08日 06時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 日本IBMは4月27日、さまざまな業界・業種のパートナー企業と協業して提供する“学習済みWatson”のラインアップ拡充を発表した。これは、Watsonをさまざまな実業務に活用するために必須となる「知識ベース(コーパス)」を提供することで、Watsonを活用する業務システムをより短期間で導入可能にするというものだ。

 同日の「IBM Watson Summit 2017」では、IBMと各業界の新規パートナーが登壇し、この“学習済みWatson”とはどういうものなのか、またその意義や幾つかの具体的なラインアップが紹介された。

日本IBM ワトソン事業部 ワトソンプラットフォームセールス 部長の宮坂真弓氏。「IBM Watson Next Stage-業種・業界別コーパスのご紹介」と題した講演を行った

日本IBMおよびパートナー各社が提供する、幅広い業種・業界別の“学習済みWatson”。この日の追加発表で合計80種類に増えた

Watsonプラットフォーム+知見で

 講演ではまず、日本IBMの宮坂氏がWatsonプラットフォームの構成や、そこにおける知識ベースの役割などについて説明した。

 まず、Watsonを活用することで実現する「コグニティブコンピューティング」とは何なのか。宮坂氏は、日々増え続ける膨大な量のデータに対する「理解」、目的を持ってエビデンス(証拠)付きで回答する「推論」、日々追加されるデータに基づいて成長を続ける「学習」、そして人間との自然な対話を実現する「インタラクション」、という4つを実現するコンピューティングだと語る。そして、これらの機能をAPI経由で提供するのが、IBMのWatsonプラットフォームである。

 だが、実はこうした機能だけが使えても、実業務に役立つアプリケーションを開発するのは難しい。人間にたとえるならば、Watsonがまだ実業務の経験を積んでおらず、業務に関係するデータや“知見”を持っていないからだ。

 たとえば、保険会社のコールセンターで、Watsonを使った自動応答システムを構築、導入するケースを考えてみる。この場合、単に「Watsonが日本語を理解し、日本語で応答できる」だけではシステムは実現しない。保険業務に関係する専門用語、関連法令、自社の保険約款やワークフローなど、さまざまな知見を持たなければ、顧客の問い合わせにWatsonが適切な回答をすることは難しい。複雑で専門的な業務になればなるほど、知見の重要度もより高くなる。

実際にWatsonが活用されている領域の例。「日本ではコールセンター支援の事例が多いが、欧米では業務プロセス自動化の事例も増えている」(宮坂氏)

 宮坂氏は、Watsonの能力を活用する業務アプリケーションは、業界・業務ごとの知見=知識ベースと、それに基づいて各種機能を提供するWatsonプラットフォームによって支えられることを、3層の図で説明した。

 「たとえば皆さんの会社も、ビジネスや業務に関する知見を必ず持っている。Watsonは、この知見を持っているか否かで(ビジネス活用での)勝敗が決まると言える」「従来のアプリケーションのようにプログラムだけでなく、Watsonではトレーニングも必要となることを理解してほしい」(宮坂氏)

Watsonのビジネス活用は「知識ベース+Watsonプラットフォーム+業務アプリケーション」の3層で成り立つ

 さらに宮坂氏は、Watson活用の土台となる知識ベースは、大きく「データ」と「知見」の2種類に分類されると述べ、それぞれの例を挙げた。

 たとえば、米国の大手税務サービス企業であるH&R BLOCKでは、顧客がより多くの還付金を得られるように確定申告の内容をアドバイスするサービスを行っており、ここにWatsonを適用している。同社のWatsonは「7万4000ページにおよぶ米国の連邦税法、州税法、さらに同社で収集したFAQなどをすべて学習済み」だという。このように、大量の公開データや自社独自データを学習することで、「知識活用型」のサービスが構築できる。

 加えて宮坂氏は、こうした直接的なデータを持たない/活用できない業務でも「知見」を有効活用できる例はあると述べ、その例として米国のWayblazerを挙げた。同社では、旅行を検討しているユーザーがどのように情報を探し、行き先を決定するかというワークフローを知見として持っており、それをWatsonに学習させ、フレームワークとして各地の観光協会や旅行会社、ホテルチェーンなどに販売している。これを観光アプリや旅行予約サイトなどに組み込むことで、Watsonがユーザーの情報検索や旅行プラン策定をサポートする「照会応答型」のサービスが実現するわけだ。

「知識活用型」「照会応答型」それぞれのユースケースのイメージ

パートナーとの協業で業界ごとの専門的な「知見」を集める

 さて、本来ならばこうした知識ベースは、Watsonプラットフォームを利用する個々のユーザー企業が、大量のデータ(自社保有データや公開データ)をAPI経由でWatsonに与え、独自に「学習(トレーニング)」を積み重ねていくものだ。ただし、そのためにはある程度の量のデータと、学習にかける時間、労力が必要となる。

 「最近、顧客とWatsonのビジネスについてお話ししていると、よく言われるのが『ある程度トレーニングされたWatsonはないの?』ということ。Watsonをイチからトレーニングさせるのではなく、“子供のWatson”(小規模な知識ベース)の提供を受けて、そこから自社独自のWatsonに育てていきたいと考えられる顧客が多い」(宮坂氏)

 そこでIBMが新たに取り組んでいるのが、業界・業種ごとの専門的なデータを学習させた知識ベースの提供である。IBMの発表によると、すでにWatsonの活用実績がある企業、もしくは専門性の高いデータを大量に保有している企業とパートナー協業し、パートナー各社またはIBMから販売する。

 IBMの発表では、企業の信用力変化を示す英文ニュースを自動収集するための知識ベースを構築した三井住友銀行、自動車の不具合兆候把握や未然防止につながる情報や顧客の声を可視化する知識ベースを構築した三菱自動車、さまざまな業界でのコールセンター運営知見を複数の知識ベースにまとめたトランスコスモスなどが紹介されている。

 宮坂氏によると「今日現在で80種類の学習済みWatson」が提供されており、今後もさらに、幅広い業界・業種で活用できる知識ベースの構築を進めていく方針だという。

 さらに同日の講演では、金融マーケット情報の自然言語照会や「ロボFP(フィナンシャルプランナー)」に取り組むQUICK(クイック)、調剤薬局向けの在庫医薬シェアリングサービスにWatsonのチャット機能を付加したファーマクラウド、基幹システムとの連携で総務/人事/経理関連の社員向けチャットボットを提供する日本電通、プログラミング研修で受講者の質問に回答するWatsonや個々人の最適なラーニングパスを提示するWatsonを提供するアイ・ラーニング、機械電気系専門用語とスキルの体系化を図り理系学生の就職活動やキャリアパス検討を支援するコーパスを開発したフォーラムエンジニアリングの合計5社が登壇し、各社の提供する知識ベースやサービスについて説明した。

 宮坂氏は、こうした学習済みWatsonを利用するという視点だけでなく、自社が保有するデータや知見を知識ベース化し、販売するという視点からも考え、新しいビジネスチャンスを生み出してほしいと語った。

 「よく言われることだが、顧客で稼働しているITのうち、大半のデータは活用されずに捨てられている。こうしたデータがある、また顧客の頭の中にも(知見が)ある、それがうまく組み合わされていないのが現在の状況だ」「Watson、その他のテクノロジーも組み合わせて、(保有するデータの)価値を出していってほしい」(宮坂氏)

宮坂氏が挙げた「Watsonビジネス成功のポイント」

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