11月8日(米国時間)の米大統領選で共和党のドナルド・トランプ氏が勝利したことが、世界各国に波紋を投げかけています。
事前予想では民主党のヒラリー・クリントン氏が勝利するとみられていただけに、投票当日の「逆転」劇は英国のEU離脱(Brexit)を彷彿とさせる展開になりました。
選挙結果にアップルやフェイスブックCEOが反応
この選挙結果を受け、クリントン氏の支持が多かったとされるIT業界でもさまざまな動きが起きています。アップルCEOのティム・クック氏は従業員宛てにメッセージを送信。BuzzFeedが公開した内容によれば、大統領選でどの候補を支持したかに関係なく、多様性あるチームが一丸となって前進することを呼びかけるものになっています。
アップルとの関連では、選挙戦においてトランプ氏が「iPhoneを米国内で製造させる」と発言したことが注目を浴びました。またトランプ氏は、中国が人民元を安い水準に維持していることを非難し、中国製品に45%もの関税をかけることを公約に掲げていました。これに対して中国政府は中国国内でのiPhoneの販売を妨害することを示唆したと報じられています。
中国で製造され、米国で多く売られているiPhoneは両者の対立の象徴的存在になっていますが、これはただでさえ中国市場での売り上げ減少に悩んでいたアップルにとっては厳しい局面といえます。同様に、米国市場でのシェア拡大を狙うファーウェイのような中国企業にとっても、今後の動向が気になるところでしょう。
また、トランプ氏は勝利の理由としてソーシャルメディアの影響を挙げています。トランプ氏の陣営が運用しているTwitterやFacebookには1500万のフォロワーやいいねがついており、InstagramやYouTubeでも多数の人気を集めていることが分かります。
一方、ソーシャルメディアでは「虚偽ニュースサイト」問題が注目を浴びており、これら虚偽のニュースが多数シェアされたことが大統領選の結果に影響を与えたとの指摘も出ています。グーグルはこうしたサイトへの広告掲載の規制に乗り出しており、フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏は影響を否定しつつも、対策を講じる可能性が報じられています。
日本と関係の深い都市ではクリントン氏が優勢
このトランプ氏勝利という結果は、筆者はもちろん、米国在住など現地の状況に詳しい日本人にとっても予想外の結果だったようです。
日本と関係が深そうな米国の都市として、日本から飛行機の直行便が飛んでいる都市をリストアップし、その投票率を調べてみたところ、すべての都市でクリントン氏が上回る結果になりました。
一方で、民主党が強いとされるカリフォルニア州でもトランプ氏が優勢のエリアはあり、その逆もあります。また、選挙人を多く獲得したほうが勝ちという制度上、トランプ氏が290人の選挙人を獲得して勝利したものの、投票数の単純な合計ではクリントン氏がわずかに上回っているなど、興味深い結果に終わっています。
今後のIT業界はどうなる
トランプ氏の公約を見る限り、IT業界について明確に語った部分はなく、今後の展開は予想が難しい部分が多いのが現状です。また、勝利後のトランプ氏は選挙期間中とは主張のトーンを変えているとの指摘もあります。このままでは党や議会との対立が予想されるため、公約を文字通り実現するというよりは、現実に即した形に修正するものとみられます。
IT業界で不安が広がっているのは、就労ビザの問題です。グーグルCEOのスンダル・ピチャイ氏やマイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏がインド系であるように、IT業界では世界各国から優秀な人材が集まっているのが特徴で、それを支えてきたのが専門職向けの就労ビザ「H-1B」です。
しかしトランプ氏は自身が経営する企業でH-1Bを活用してきたことを認めつつも、それが優秀な米国人の雇用の妨げになっているとも発言しており、今後の運用が不透明になっています。
実際に、トランプ氏の勝利後は米国からの人材獲得を目指す動きが世界各国で活発になっています。また、これまで米国を目指していた移民が異なる国に目を向けることになれば、日本の楽天のように外国人従業員を積極的に採用する企業が優秀な人材を獲得する機会も増えそうです。
筆者自身も、年末にはCES取材のためロサンゼルスとラスベガスに滞在する予定があり、入国審査や街の様子に変化がないか、少し不安があります。米国は安全な場所と危険な場所のギャップが激しく、全体的に治安が悪化している点は気になっていました。トランプ氏が掲げる政策により米国の経済が良くなり、ビジネスでも観光でも安心して訪問できる国になってほしいというのが筆者の願いです。
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