しばらくストレージ関連製品メーカーをご紹介してきたが、ストレージつながりということで今週はAdaptecを紹介しよう。
SCSIの需要を独占的に獲得するも
生産が追いつかず、苦境に陥る
Adaptecは1981年、Laurence Boucher氏により創業された。Boucher氏の名前は、連載369回の最後に少し出てきている。
彼はShugart AssociatesでDirector of design servicesの職にあり、ここでSASIをベースに、より高速かつ多数のストレージを接続可能なI/FとしたSCSI(Small Computer System Interface)の仕様策定に関わっている。最初のドラフトは1979年に発表され、最終的に1981年にANSIでX3T9.3として公開されている。
ちなみにこの規格書の冒頭には、L.Boucher氏が"Shugarts Associates"に所属しているとあるが、Boucher氏はこれ以前にIBMに移籍しており、1981年の4月にはそのIBMも退職して自身の会社であるAdaptecを創業した。この時Boucher氏は37歳だったそうだ。
初期のAdaptecは、さまざまな種類のSCSI I/Fカードなどを製造・販売している。下の画像はSeth Morabito氏が投稿した1983年のSCSI to MFMブリッジカードである。
画像の出典は、“Seth Morabito氏のTwitter”
AMDの8085互換チップに、三菱(現ルネサスエレクトロニクス)のM5L8156P(8085用のPIOチップ)、あとはAdaptecのカスタムチップが3つほど目立つ感じだ。
この当時は、まだホストアダプターというよりは既存のESDI/SASI対応HDDをSCSIに変換するカードとしてのニーズが多かったようで、ホストアダプターはさらに多数のチップを利用して構成されていた模様だ。
さてこのSCSIという当時としてはニッチな市場を独占的に獲得したことで、1983年の売上は600万ドルを超え、スタートアップ企業としてはまずまずの滑り出しを見せたAdaptecである。
同社はPCというよりは、ちょうど市場が立ち上がっていたUnixワークステーションの分野で評価され、注文が殺到するようになる。
悪いことに、この急激な需要の伸びは同社でハンドリングしきれなかった。1983年、需要に対応するための部材の購入や生産設備への投資、人件費などが同社の資金を急激に圧迫した。
また、主要なUnixワークステーションベンダーがAdaptecの生産能力を超える発注を行ない、ところが生産が間に合わないという返事をもらった結果、これらベンダーが発注をキャンセルすることで、いきなり売上高が半分を切るという、危険な状況に陥った。
もっともこれは、Adaptecが本来行なうべきであった生産予測や顧客の最高限度額(信用供与枠)の設定など、基本的なことを行なっていなかったのが主要因ではある。ベンチャーだけにそうした事柄まで手が回らなかった、というべきか。
幸いにも一部のクライアントやベンチャーキャピタルなどから資金調達を行なうことで、この苦境を脱することはできたが、1983年末における手元資金は13万1000ドルまで減っていたそうだ。
そこから同社は不要な在庫の売却や、何人かの経験ある人材の雇用(Sales&Mktgの副社長やCFOなど)を行なうことで、会社の経営を健全な方向に導くことができた。
Adaptecは1986年にNASDAQに株式上場を果たすが、その時点で同社は300社の顧客を有し、どの顧客も同社の売上の10%を超えることはなかった。1986年の売上は6000万ドルに達し、営業利益は倍増。在庫回転率は6.8と非常に健全な状況になっている。
ちなみにBoucher氏は株式上場のタイミングで会社を去り、後任としてIBM時代の同僚であったJohn G. Adler氏がCEOになる。
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