マイクロソフトでは、年1回、「MGX(Microsoft Global Exchange)」と呼ばれる、全世界の同社社員を対象にした社員総会が開催されている。
今年も、米国時間の2015年7月20日〜22日の3日間、米フロリダ州オーランドのオレンジカウンティ コンベンションセンターで、全世界から1万2000人の社員が参加して、このMGXが開催された。
日本マイクロソフトからも、平野拓也社長をはじめ約300人の社員が、お揃いの薄いブルーのパーカーを着用して参加した。
昨年に就き続きオーランドでの開催となったMGXだが、場所は同じでも、今年は、その内容は大きく変化した模様だ。
例年ならば、会期初日には、MGXのホスト役となるケビン・ターナーCOOが、鳴り響く音楽とともに登場し、得意のパフォーマンスで会場を最高潮に盛り上げ、このイベントをスタートさせていたが、7月7日にケビン・ターナーCOOの突然の退任が発表され、今年は、ホスト不在のままのMGXが開催されることになったのだ。
これは、本連載でも触れたように、MGX開催前週に、カナダ・トロントで開催されたパートナーを対象にした「WPC (Microsoft Worldwide Partner Conference) 2016」でも同じ。WPC 2016も、ケビン・ターナーCOOがホストを務めるイベントであったが、COO不在のまま、例年とは違う雰囲気の仲で開催された。
新たなマイクロソフトを象徴するMGXオープンニング
だが、MGXでは、新たなマイクロソフトを象徴するようなオープンニングが待っていた。
まず登壇したのは、CEOのサティア・ナデラ氏。そして、その後ろには、マイクロソフトの大きなロゴとともに、12人のシニアリーダーシップメンバーが壇上に顔を揃えたのだ。
実は、社内イベントとはいえ、サティアCEOが就任してから、シニアリーダーシップメンバーがこのような公の場所で勢揃いしてお披露目する場を設けたのは今回が初めのこと。もしかしたら、マイクロソフト史上初めてのことかもしれない。
ナデラCEOは、「これが新たなマイクロソフトである。そして、これが新たなMGXである」と宣言。参加した社員たちは、スタンディングオベーションでそれを迎え入れ、大きな拍手と歓声は、しばらくの間、鳴りやまなかったという。
退任したケビン・ターナー氏は、前CEOのスティーブ・バルマー氏の時代からCOOを務めてきた人物。2005年の入社以来、セールス、マーケティング部門を強い体質へと転換させてきた。だが、バルマーCEO時代の中核メンバーである同氏が退任したことで、2014年2月からスタートしたナデラCEO体制が、本当の意味でスタートを切ったといえるのかもしれない。
MGXでのナデラCEOの発言は、そんな印象を強く与えるオープニングであり、多くのマイクロソフト社員が、共通して、そう感じたのは容易に想像できる。
実際、ケビン・ターナー氏が退任後、COOは空席のままである。そして、ナデラCEOが、「新たなマイクロソフト」と宣言したように、シニアリーダーシップチームのメンバーひとりひとりが、これまでCOOが担っていたセールス、マーケティングの役割をそれぞれの領域で分担することになっている。
ナデラCEOは、シニアリーダーシップチームのメンバーの一人一人を、ファーストネームで呼びながら紹介。「これがOne Microsoftである」として、このシニアリーダーシップチームを中心に、全世界のマイクロソフトが連携して、新たなマイクロソフトを作り上げていくことを強調してみせた。
ナデラCEOが示した「新たなマイクロソフト」、そして、「One Microsoft」を示すシーンは、MGXの会期中いくつかのシーンで見られたようだ。
例えば、MGXの仲では、先頃発表された米FacebookがOffice 365を導入したことを紹介。1万3000人の社員が使用することで業務効率化につなげることについても説明した。このパートは、本来ならば、WPC 2016のときのようにOfficeビジネスに責任を持つ担当役員が行なうのが適任。しかし、MGXでは、CFOであるエイミー・フッド氏が紹介したのだ。CFOといえども、このビジネスについて関与。そして、CFOの立場から、マイクロソフトの財務指標と連携させながら、この事例を紹介したという点でも、新たなマイクロソフトの姿が浮かび上がってくる。
協業の精神 - アワード表彰においても変化があった
そして、MGXの目玉のひとつとなっている「TOP SUB AWARD」(世界ナンバーワン子会社)の発表をはじめとするアワード表彰においても、変化があったといえる。
舞台のしつらえや進行は例年と同じだが、子会社同士が競い合うことがこれまで前面に出ていた雰囲気は、かなり薄れた印象だったという。
これも、モバイルファースト、クラウドファーストを中心とした新たな時代の姿なのかもしれない。ライセンス販売が軸となっていた時代には、どれだけライセンスを販売したかが重視され、それをもとに子会社同士が競い合って業績を拡大してきた。だが、クラウド時代では、いかに使ってもらうかが重要であり、さらに、ひとつの部門やひとつの子会社だけで、ビジネスが完結するといったケースが減る傾向にある。つまり、いかに協業するかが鍵になる。日本マイクロソフトでも、自分の仕事の成果だけでなく、自分の組織以外の成功のために貢献できたか、あるいは自分の成功のために他の人に助けを求めたかという点を社員の評価指標の中に盛り込み始めている。こうした協業の精神が社内に浸透する中で、アワード表彰の雰囲気も自然に変化してきたといえるだろう。
そして、同様に、セッション全体を通じて、例年ならば、製品ごとの具体的な競合の名前をあげて、マイクロソフトの強みと進むべき道筋を打ち出してきたが、今年の場合は、クラウドビジネスで拮抗するAWSなどの名前は一部あがったものの、競合を前面に出して比較するというよりも、自社が目指す企業ミッションやアンビションを前面に出し、製品、サービス、テクノロジーによりも、顧客や社会のデジタルトランスフォーメーションに貢献できるかどうかということをメッセージの軸に置いた。これもモバイルファースト、クラウドファースト時代の考え方が浸透した新たなマイクロソフトの姿を象徴するものだったといえそうだ。
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