ヤマハのネットワーク機器20周年を記念して、システムエンジニアの過酷な実態をコミカルに描く電撃文庫の異色作『なれる!SE』とコラボ! スペシャル短編を全7回にわたってお届けするぞ。楽しく読めてヤマハのことをもっと知ることができる内容になっているので、ぜひチェックしてね!
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登場人物
室見立華
実力のあるネットワーク系のSEだが十代にしか見えない少女。四六時中仕事をしているワーカホリックでツナが大好き。
桜坂工兵
知識も経験もないシステム開発会社に就職した新人社会人。教育係である室見のもとで激務に追われる日々。
橋本課長
立華たちの顧客である業平産業の課長で、仕事のできるクールなキャリアウーマン。工兵の飲み友達でもある。
「来た……ついに来てしまった」
「ここがヤマハの本社ですか。広々として働きやすそうなオフィスですね。……って、なんで桜坂さん、怯えた感じでキョロキョロしてるんですか」
「いえ、うちの家族いないよなって」
「そういえば、この近くにご実家があるんでしたっけ。真面目に仕事しているんだからいいじゃないですか。ご両親もご子息が地元の企業に出入りしているのを見たら喜ぶでしょうに」
「喜んでくれるとは思いますけど……喜びすぎて記念写真とか言いだしそうなんですよね、うちの母親。父親はそっと見守ってくれそうですけど妹はマジでやばいです。速攻LINEとかメッセとかで拡散しそうで」
「ちょっと照れますね……」
「完全に晒し者ですよ。お客様にも迷惑がかかりますし。下手するとあいつ、ネットとかにもアップしかねなくて」
「まさか。いくらなんでもそこまでは」
「あー! お兄ちゃんがなぜかヤマハ本社の前にいて、美人キャリアウーマンと室見パイセンと一緒に入館しようとしてる!? 大変だ、すぐみんなに報せなくちゃ! とりあえず【緊急】【拡散希望】【知らないでは済まない】でツイートして、まとめサイトも立ち上げる感じで!」
「おい待て、誉! てめぇいつからそこにポップしてた!? てか何スマホで入力してやがる! チャリ乗りながら写メを撮ってる! 待てー!」
(三分後)
「く、くそ、あいつマジ逃げ足速い……。すみません橋本課長……お顔がネットにアップされてしまったかもしれません……」
「まぁ、私は別に構いませんが」
「大丈夫よ、ちゃんと目線入ってるし。あんた以外は」
「!? (スマホのタイムラインを見て)仕事早! てかなんで僕だけ顔出し!? キャプションに『公私混同の出張接待! 美人OLとの恋の行方は如何に!?』とかあるし! うわ、むっちゃRTされてる!」
「(美人OL……)(ぐっと拳を握りしめる)」
「(守衛所から戻ってきて)お待たせしました。入館手続き完了しましたのでどうぞお入りください。……って、なんか桜坂さん、汗びっしょりですね。どうしたんですか?」
「き、気のせいです……とにかく中に入りましょう。一刻も早くここから離れる感じで」
(プレゼンルーム)
「気を取り直しまして。前回の話の続きです。なぜヤマハルーターはSOHO市場でシェアを伸ばしているんでしょう? ルーターを作ってるメーカーって他にもいっぱいありますよね?」
「端的に言えば中小規模の企業ユーザーに狙いを絞って、そのニーズを先取りしてきたからだと思います。他社さんの企業向け製品はきちんとした管理者がいたりサポートプログラムを購入しているのが前提だったりしますから、平たく言えば敷居が高いんですよね。設定のサンプルもあまり公開されていませんし改善要求も出しづらいのかなと。その点、我々はまず自社でハードもソフトも作っていますから、修正・改良が迅速に行えます。またユーザー同士の情報交換を気軽に行える場も作っています」
「『場』ですか?」
「rt100i-usersというMLがありまして、どなたも自由に加入できるようになっているんですよ。有志での情報交換はもちろん、最新のファーム情報の提供や改善点の議論なども行っています」
「機器保守のサポートを買っていなくてもファーム情報を提供してもらえるんですか?」
「はい。というかファーム自体、ウェブサイトから普通にダウンロードできるようになっています。しかもここでの機能追加や改善はrt100i-usersでの議論がかなりベースになっているんですよ」
「なんか企業向けの製品っぽくないですね……フリーウェアのコミュニティみたいというか」
「というより一般の企業向け製品というのが本当に大手の基幹システムを想定したものなんですよね。支店・支社のインフラにはオーバースペック気味というか、そこまで皆さんお金をかけられないでしょうという(笑) ターゲットにしているユーザーがどの程度のコスト感でどの程度のサポート・機能を求めているか、そのあたりを真面目に考え続けてきた結果が今の評価に繋がっているのだと思います」
「なるほど……いや、いや素晴らしいですね。是非そのポリシーで他のネットワーク機器も作っていただきたいです。無線LAN装置とか、あとL2スイッチとか」
(ゲシッ!)
「!? け、蹴られた? あれ、誰が? なんで?」
「……」
「ははは、実は我々、すでに無線LANアクセスポイントを作ってるんですよ。WLX202、WLX302と呼ばれる商品ですね。あとL2スイッチのSWXシリーズ、ファイアウォール装置のFWX120などもあります」
「え? そ、そうなんですか? 無線とスイッチとセキュリティ装置まであったら本当にヤマハ製品だけでネットワーク作れちゃうじゃないですか。じゃああと足りないのはセンター用の機器くらいで」
(ゲシッ!)
「痛い! 痛い! って室見さん!? なんで蹴るんですか! 僕、何かおかしなこと喋ってます!?」
「あんたねぇ、無知を晒すのもいい加減にしなさいよ! RTXシリーズの5000、3500クラスと言ったら、それぞれVPN対地で3000拠点、1000拠点収容可能なセンター装置でしょ! ちなみに名器RT300iの流れを組んでBRI・PRIモジュール(※)の搭載も可能よ。リモートアクセスの終端もできるんだから、これがセンター機器以外の何ものだっていうのよ!」
「は、はい? あーるてぃーさんびゃくあい?」
「西暦2000年の段階でサイト・ツー・サイトのVPNコンセントレーション、リモートアクセスサーバー機能を標準搭載した、当時としては野心的なモジュール型センタルーターですね。ISDN・VPNのセンター装置として結構色々なところに使われていたんですよ」
「な、なるほど、そういうすごい機械が昔からあったんですね。……で、僕はなんで室見さんに怒られてるんでしょう?」
「……」
「べ、別に怒ってないわよ。ただあんまり変なこと言って、うちの会社のリテラシーを疑われるような真似、してほしくないの。それだけよ(ぷん)」
「は、はぁ。分かりました。もう少し考えて喋るようにします。……というわけで、話を戻しますけど、色々な機械を作ってSOHOユーザーのニーズを取りこんで、なかなかすごい会社だったんですね、ヤマハって。……他にもまだ何かネットワーク装置を作ったりされてるんですか?」
「いえ、今はそのくらいですね」
「(ほっ)じゃあそろそろ次はソフトウェアの世界に進むべきじゃないですか。ハードで培った知見を元に、たとえばネットワーク管理ソフトを作ってみるとか、機械を簡単に設定できる仕組みを作ってみるとか。中小規模の企業ユーザーならきっと欲しがると思うんですよ。システム管理者がいない拠点って結構ありますし……って、うぉう!?(飛来するドライバー、危ういところで回避)」
「あんたね! 無知も過ぎれば犯罪ってものよ! というかそんな話、ヤマハの人が考えてないはずないでしょ!? ちょっと。ちょっとプロジェクタの線、貸しなさい! 一度基本的なところから説明したげるから!」
「は、はい、どうぞ……(一体何が起きてるの……)」
(※)ISDNのインタフェース種別
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