「日本市場ではvSphereはもう伸びていない」2016年度の国内事業戦略も発表
AWS含むマルチクラウドへの対応戦略、ヴイエムウェアCEOが語る
2016年05月23日 07時00分更新
ヴイエムウェア日本法人は5月20日、パット・ゲルシンガーCEOの来日に合わせ、2016年度の事業戦略説明会を開催した。ゲルシンガー氏は「マルチクラウド」をキーワードとしたSDDC戦略以後の新たな戦略を、また日本法人社長のロバートソン氏は新たな注力プロダクトを説明した。
マルチクラウド時代の「サイロ化」を防ぐ、単一の制御プレーンを提供
ゲルシンガー氏は、顧客企業が自らのデジタル化=「デジタルエンタープライズ」を実現していくうえで、ヴイエムウェアがそれをどのように支援できるのか、その役割について語った。
多くの企業がクラウドインフラへの移行、クラウド利用を推進する動きの中で、「企業が利用するのは『マルチクラウド』環境である、ということが非常にはっきりしてきた」と、ゲルシンガー氏は述べる。
ヴイエムウェアでは、これまで世界4200社のvCloud Air Network(vCAN)パートナーとともに、VMwareテクノロジーベースのマネージドクラウドを展開し、VMwareベースのプライベートクラウドとの連携によるハイブリッドクラウド戦略を推進してきた。しかし顧客企業側の現実としては、AWSやMicrosoft Azureといった(非VMwareベースの)パブリッククラウドも多く利用している。
そこでヴイエムウェアは、これまで同社が展開してきた「SDDC(Software-Defined DataCenter)」戦略、「vCANパートナー」戦略の延長線上にある、新たな「マルチクラウド」の戦略へと歩を進めている。
ゲルシンガー氏は、このマルチクラウド環境において顧客が最も懸念するのは「サイロ化」だと指摘する。社内の異なるチームが個別ばらばらにシステムを構築し、異なる管理ツール、異なるセキュリティとコンプライアンスの状態が生み出される。かつてのデータセンターで生じていたサイロ化という問題が、マルチクラウドの時代にも繰り返されかねない。
この課題を解消するため、ヴイエムウェアでは新たな「単一の制御プレーン」を顧客に提供し、マルチクラウド間で管理/ネットワーク/セキュリティを統合していくという。これにより、それぞれのクラウドリソースが持つ優位性を生かしつつ、サイロ化を抑止し、VMwareのスキルセットを用いて管理と運用の効率化を図る狙いだ。ゲルシンガー氏は、この「制御プレーン」について今年度中には何らかの成果を出すことを示唆した。
そのほか、SDDCの構築をより効率化するハイパーコンバージドインフラ製品、マルチデバイス間で同じID、同じアプリケーションを利用可能にする「VMware Workspace ONE」、デバイスとアプリケーションがさまざまな場所に分散する環境下でセキュリティを確保する“強力な解”としての「VMware NSX」、オープンソーステクノロジーの活用を進めるコンテナ基盤「Photon Platform」や「Pivotal Cloud Foundry」を紹介した。
「これまで、ヴイエムウェアは仮想化のレイヤーにおいて大きな実績を上げてきた。数分間で仮想マシンのプロビジョニングを可能にし、自動化でデータセンターを変革した。そして将来は、マルチクラウド環境に対応した制御プレーンを実現することで、あらゆるクラウドを同じセキュリティ、同じ手法で管理できる環境にしていく」(ゲルシンガー氏)
市場成熟した日本「サーバー仮想化のvSphereはもう伸びていない」
続いて日本法人 代表取締役社長のジョン・ロバートソン氏が、日本市場における2016年度(2016年1~12月期)の事業戦略を説明した。
ヴイエムウェアは日本法人単独の業績を公表していないが、ロバートソン氏は、2015年度のビジネスは「おかげさまで非常に好調」だったと語る。「グローバルの売上は、前年比で12%の伸び率だった。そして日本の伸びは、これを2倍以上上回っている」(ロバートソン氏)。これにより、国別売上高はドイツを抜いて3位にランクアップし、米国本社からの日本市場への投資も拡大しているという。
ただし、この好調な業績の裏側で、サーバー仮想化製品のVMware vSphereは「もう伸びていない」とロバートソン氏は明かした。日本国内の仮想化製品市場はすでに成熟しているうえ、vSphereは80%の高い市場シェアを確保しているからだ。
その代わりに伸びているのが、エンドユーザーコンピューティング(EUC)やモビリティといった新しい領域の製品だ。「AirWatch、MDM、Horizonといった製品が、世界各国市場の中で初めてvSphereの売上を超えた」(ロバートソン氏)。またNSXについても、発売後1年半ほどで110社に導入されていると報告した。日本では特に「インターネット分離」など、セキュリティ文脈での導入意向が強い。
2016年度の事業戦略は「ある意味で、去年とそれほど変わらない」という。顧客のデジタルエンタープライズ化の動きに対応し、SDDCや仮想ネットワーク、ビジネスモビリティのプロダクトを提供していく。
3領域の中で、最も大きな成長が期待できるのはネットワーク&セキュリティ、つまりNSXだ。「まだ始まったばかりの分野だが、来年、再来年と成長していく。ネットワークトポロジーは過去30年間変化がなかったので、社内のエンジニアは『将来的にはESXを超える動きになるかもしれない』と言っている」(ロバートソン氏)。また、売上面で最大になるのはビジネスモビリティ領域だと語った。
「昨年までのキーワードは『ハイブリッド』だったが、今年度からは『マルチ』に変わった。マルチソリューション、マルチパートナー、マルチクラウド、マルチタレント(人材)――こういう会社だ」(ロバートソン氏)