パーソナルコンピューターとインターネットが私たちの生活に本格的に浸透し始めてから20有余年。もはやデジタルテクノロジー台頭以前のライフスタイルを思い出すことすらできないほど、私たちの行動様式、思考方法、さらには価値観、幸福感は大きな変容を遂げた。
同時に人々の感覚と感性の変化にともなって、社会構造や経済基盤も20世紀型の旧モデルから21世紀型の新モデルへと移行を迫られている。
そんな中、現在進行しつつある時代の地殻変動をさまざまな事例の検証やキーパーソンへのインタビューとともに描き出した編集者の菅付 雅信氏による書籍『物欲なき世界』が話題となっている。今週と来週は2回に渡り、著者の菅付氏に“物欲なき世界”がもたらすであろう社会と経済の未来像について話をうかがった。
物欲なき世界はある種のチャンス
高橋 菅付さんはこれまで『東京の編集』『編集天国』(いずれもピエブックス刊)『はじめての編集』(アルテスパブリッシング刊)と「編集」を主題にした本を書かれてきて、近著では『中身化する社会』(星海社新書刊)、そして今回の『物欲なき世界』(平凡社刊)と、今度はより大きな視点で時代の動向をテーマにされていますね。
編集者は時代の気分と対峙する仕事ですから、僕自身も菅付さんが『中身化する社会』『物欲なき世界』で語られた時代感のシフトにはとても共感します。僕も含めて確実に周囲の友人/知人の興味や関心はモノから離れてきていますからね。
ASCII.jpの連載で菅付さんと対談させていただきたいと思ったのは、この価値観と幸福感の変質の背景にはデジタルテクノロジーが大きな役割を果たしたのではないかと思ったからなんです。
菅付 やはりこの20数年の間に起こったデジタルテクノロジーの進化は僕たちのコミュニケーションを変えてしまいましたからね。技術が時代の変化をうながした最大の要因であることは確実だと思います。
でも、結論を急ぐわけではないんですが、人間の本質はそれほど変わっていないんですよ。どうしても僕らメディア側にいる人間は変わった部分だけを声高に喧伝しがちだし、そうした部分が強調されがちなんだけれども、変わってしまった部分と変わっていない部分を両方注視していくことが重要だと思います。
高橋 本当にそうですね、僕も結論を急ぐわけではないんですが(笑)、変わったと言っても決してすべてが最悪のシナリオに向かって転がり落ちているわけではないですし、『物欲なき世界』の中でも触れられている通り、デジタルテクノロジーがもたらした変化は、行き過ぎた消費主義への反省をうながす人間の本質への回帰と言える側面もかなりあるように思います。
菅付 ただ、いまだに消費主義にしがみついている人たちから見れば、その回帰はなかなか受け入れられないものなんですけどね。だから“物欲なき世界”の到来はある人にとっては歓迎すべきものであり、チャンスと言ってもいいでしょうし、別の人にとっては回避したいものであり、これ以上ない最大のピンチなんです。
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