コンカーが9月15日、オープンプラットフォーム戦略を発表した。出張・経費精算サービス「Concur Expense」の基盤をパートナーに公開し、協業を通じて「経費精算の完全自動化」を目指すという。発表会にはパートナー数社も登壇し、それぞれの連携サービスが紹介された。
「経費精算の完全自動化」を目指して
コンカーは、出張・経費精算サービス「Concur Expense」を提供する企業。領収書をスマホで撮影することで電子化し、精算処理を効率化できる。鉄道の経路案内から交通費を自動計算することも可能なほか、航空券予約やホテル予約との連携も実現している。
ただ、経費はそれ以外にもタクシーや駐車場の利用、外部サイトでのホテル予約など、さまざまなシーンで発生する。経費精算プロセスも企業によってさまざまで、課題も当然異なる。コンカー 代表取締役社長の三村真宗氏曰く「コンカー1社でこれらすべてのニーズに応えるのは難しい」。
加えて、日本では法律も壁となる。現状のe文書法では、出張・経費精算の電子化は「3万円未満」および「据置機によるスキャン」に限られる。つまり、金額に上限があり、スマホによる電子化も正式に認められていないのだ。
ただ、この件については規制緩和が現実味を帯びた。コンカーも関係省庁に働きかけてきたそうだが、その甲斐もあってか、「改正e文書法」によって2015年10月に金額上限が撤廃されることが決定し、2016年には追加改正案として、スマホカメラでの電子化も解禁されるかもしれないという。
その期待効果は、従業員の省力化で6000億円(コンカー試算)、紙の保管・運送費の削減で3000億円(経団連試算)、税務効率化で1000億円で、総額1兆円と試算されている。
この流れも見据えて描くのが、今回の「オープンプラットフォーム戦略」だ。コンカーのサービス基盤を他社に公開し協業を促進することで、コンカー1社では難しい、出張・経費精算に関するさまざまな課題を解決する。発表会ではパートナーも数社登壇し、連携の一例が紹介されたが、三村氏は「日本の生産性改善に直結するもの」と強い期待をにじませる。
目標は「経費精算の完全自動化」あるいは「パーフェクトエクスペンス」とのことだ。では、これにより、経費精算はどう効率化されるのだろうか。
今回の戦略は、一般社員の「もっと労力をなくしたい」という声に応えるための「全自動化の追求」(For Me)と、財務・経理部門の「経理データをもっと活用したい」という声に応えるための「ガバナンスと可視化の徹底」(For My Business)という二本軸で進められる。
基本的な考え方は、APIを通じて「あたかも外部サービスをコンカーの一部として、あるいはコンカーを外部サービスの一部として利用できる」双方向の連携を実現すること。
2015年9月17日に公開される「Concur App Center」というポータルに連携サービスが掲載され、ユーザーが好きなサービスを選んで使えるようになる。
タクシー配車も一層便利に
その一例が、日本交通の配車アプリ「全国タクシー」との連携だ。スマホからタクシーを呼べるサービスとして、これまでは「配車依頼」「乗車後の支払い(決済機能)」が可能だった。しかしながら領収書は紙のままで、精算処理の面倒さは残ったままだった。今回の連携で、支払いと同時に電子領収書がConcurに送られ、経費明細が自動登録されるようになる。
実は日本交通も同様のことを実現しようと過去に取り組んだことがあるそうだが、その時は数社との個別対応にとどまり、汎用的な解決には至らなかったという。「その時できなかったことが実現できるかもしれない」と、今回の協業に喜びをにじませる日本交通 代表取締役社長の川鍋一朗氏。今後は全国のタクシー会社との連携する考えものぞかせている。
また、領収書の電子化サービス「STREAMED」を提供するクラビスとも連携する。STREAMEDは、OCRで読み取った領収書データを、ベトナムのスタッフが手入力するというもの。
従来のOCRはどうしてもデータ化の精度に限界があるが、STREAMEDは「手入力」と「多段階の目視チェック(日本人含む)」による正確さが売りで、「会計事務所でも利用されるなど、厳格な業務での実績がある」(クラビス 代表取締役社長の菅藤達也氏)という。今回の連携で、その正確な入力データをそのままConcurに登録することが可能となる。
経費削減や不正防止のための分析も
以上は一般社員向けのものだが、同時に財務・経理部門のためのサービスもいくつか紹介された。
同部門では大量の経費精算を管理し、その申請が正当なものかを判断しつつ、適切に支払い処理を進めなければならない。その負担を減らすべく提供するのが、「ガバナンスと可視化の徹底」だ。経費の適正化や不正防止を促進するもので、代表例が「経費データの分析」となる。
例えばアビームは、Concurの経費データに、分析目的に応じた情報を付加し多次元解析することで、これまで発見しにくかった隠れた傾向を明らかにする。付加する情報は「従業員の営業成績」「支払いまでの期間」「データ不備ケース」などで、「例えば、できる営業マンはどう経費を使っているのか、あるいはどんな取引・経費で不備が多いかなどが分かるようになる」(アビーム シニアマネージャーの山田将生氏)という。
併せて「システム連携」も推進する。富士ソフトは、Salesforceや人事・会計システムとのデータ連携を自動化するほか、全銀ファイル変換のための仕組みを提供する。富士ソフト自身、Concurユーザーであり、「ユーザー視点でパートナーとしても取り組むことになる」と、富士ソフト 代表取締役社長の坂下智保氏は語る。
珍しいところでは、VAT(付加価値税)還付の手続き代行サービスも紹介された。
VAT還付は、海外で支払ったVATを現地の税務当局から払い戻し(還付)してもらう制度で、欧州の一部や韓国で施行されている。10億円の経費に対して4000万円が還付された例もあるそうだが、いかんせん手続きが煩雑で、ほとんどの企業が諦めているのが現状という。
その手続を代行するTaxbackと協業し、Concurから必要な経費データを抽出し、手続きに活用することで、日本企業のVAT還付も支援するという。
コンカーはこれまでも他社との協業を発表してきた。しかし、オープンプラットフォーム戦略はその「幅広さ」で一線を画す。今後、2015年末までに20パートナー、2016年末までに50パートナー、2017年末までに100パートナーに増やすとのことで、複合機メーカー、各種インターネットサービス、国内ホテルチェーン、国内交通機関、国内旅行会社などとの連携がすでに予定されているという。これまでよりも柔軟な協業が可能になった印象だ。こうして見ていると「経費精算の完全自動化」もあながち不可能ではないとも思えてくる。
初来日のConcur社長が登壇
今回が初来日となったConcur Presidentのエレナ・ドニオ氏は「最も重要なことは、事務処理を肩代わりすることで、イノベーションとして企業が最重要視していることに注力してもらうこと。精算管理を通してコストコントロールを可能にすること。そうすればすべての人生が楽になる」と語る。
Concur上では一日に、700万の経費精算レポートが発行され、1億8000万のレコードが記録されている。出張手配数は170万、銀行送金額は1億1100万ドルにも上る。
そんな同社にとって、日本は非常に重要な市場だ。成長率はグローバルが18.5%なのに対し、日本は95.5%。国内導入社数は509社(2015年7月現在)で、ERP市場で53%の売上シェアを達成した。導入企業も野村、三井物産、LIXIL、ベネッセをはじめ、有名企業がずらりと並ぶ。日本は独特な商習慣がある分、経費精算に苦労している人も多いのだろう。
ドニオ氏は「オープンプラットフォーム戦略ですべてのものがコンカーで連携する世界を考えている。そのためにパートナーとも付加価値を作り続けたい。日本市場向けの製品イノベーションや機能開発を進めていく」として、今後も日本にコミットメントしていく姿勢を見せた。