パナソニックの仕組みなら、
建屋さえあれば補助金なしでも黒字化
初期投資額は、日産2000株規模の工場で2億円程度になる。
「初期投資を抑えることは重要だが、それ以上に重要なのは運営コストの削減。これが黒字化の鍵になる。今は多くの植物工場が赤字だといえる。従来の植物工場は補助金頼りのところがあったが、パナソニックの仕組みを利用すれば、建屋さえあれば、補助金なしでも黒字化できる。日本全国の空き工場、空き倉庫を活用することで、北海道でも沖縄でも均一の味の安定した野菜を作ることができる」とした。
施工に関しては、パナソニック環境エンジニアリングが一括で担当。コンピュータシミュレーションによる事前検証を行ない、全国どこでも同じ品質の植物を栽培できる工場を完成できるという。「設計で2カ月、施工で4カ月。契約後、6カ月で工場を立ち上げられる」という。
他社LED工場と比べても3割以上の運用コスト削減
パナソニックの試算によると、既存の国内植物工場の約80%が赤字だという。その原因には、均一ではない栽培環境が挙げられる。
「実験室と工場では栽培結果が異なったり、低い棚と高い棚では育成スピードが異なるという問題がある。上の棚と下の棚では、4〜6度の温度差があり、なかには10度の温度差があるといった例もみられている。上の棚は夏、下の棚は春という気候の中で栽培しているのと同じであり、結果として歩留まりが悪くなる。
また、植物工場の約7割が蛍光灯を使用しており、蛍光灯から発生する熱を冷ますために、空調を稼働させなくてはならず、電気代がかかりすぎ、これが赤字の原因になっている」とする。
パナソニックの直物工場では、大型工場でも栽培環境を均質にする特殊空調技術を開発。これによって、工場の隅々まで栽培環境を均質化することに成功。野菜の重量歩留まりを95%とする一方、パナニック独自の省エネ技術を活用し、特殊空調と反射板を活用することで熱こもりを解消。あわせて、照明本数を半減でき、照明設備の初期投資額や消費電力を半減したという。
「運用コストは、多くの植物工場で使用している蛍光灯によるもの。パナソックの植物工場では、蛍光灯の工場に比べて60%の運用コストを削減。他社LED工場と比べても3割以上の運用コストの削減が可能になる。だからこそ、パナソニックの植物工場は黒字化を実現できる」という。
LEDランプの制御ノウハウを活用した「栽培レシピ」
また、「LEDランプによる適切な栽培ノウハウを持っていない企業が多く、植物工場の施工ノウハウがない業者が工場を施工している」と指摘。「LEDを使用している植物工場の多くは、白色のLEDを使用しているが、パナソニックは赤と青の組み合わせと制御技術により、栽培に適した照明を実現できる。高速栽培や、味や食感などの制御も可能になる」とする。
パナソニックでは、これらの制御ノウハウを活用して「栽培レシピ」も開発するという。
自社製のインキュベータを利用して、同時に60環境の栽培実験を可能とし、これらの結果を独自のアルゴリズムによる統計解析手法を用いることで、環境因子とコストのベストバランスを抽出。ここで導き出した標準レシピを無償で提供するほか、プレミアムレシピは有償で提供するという新たなビジネスも開始する計画だ。
「レタスの中の特定要素を制御することも可能。カリウムの含有量が少ないレタスを栽培するといったことができる。カリウムの少ない食事、カルシウムが多い食事を提供したいといった病院向けの野菜も栽培可能だ。また、甘みや苦みなどを制御し、料理人が望むものや、全国的に均一化した味の実現を可能にしたり、やせる野菜、若返る野菜といったものも長期的には提供できるようになる」という。
アグリカルチャー・ベジタブル・カンパニーを目指す
さらに、栽培ノウハウを持たない異業種からの参入を容易にする「マウスクリック栽培」を実現している点も特徴だ。
「パナソニックでは、栽培環境自動制御技術と、栽培エリア均質環境技術を用いて、高品質な野菜栽培を可能にできる。工場内での栽培では農薬を未使用にすることができ、低菌野菜の栽培が可能なため、無洗浄でも食べられる。洗浄コストも削減できる。
また、廃棄部が少なく、長期保存や通年の安定供給が可能であることに加えて、どの季節でも均質の味や大きさ・見栄えが実現でき、価格も年間を通じて変動をなくせる。
ICTを活用することで、栽培環境を常時監視しており、植物工場内の野菜の生育に課題が発生した場合には、BtoB向けのウェアラブルデバイスを用いて、画像をみながら課題を解決したり、パナソニックのサービスマンが駆けつけて解決するといったサポート体制も敷くことになる。工場運営と品質管理をサポートすることで黒字化を支援する」という。
「パナソニックは、植物工場では最後発だが、植物工場を実現するための技術はすべて持っている。AVCは、オーディオ、ビジュアル、コミュニケーションを合わせたものだが、アグリ事業においては、アグリカルチャー・ベジタブル・カンパニーを目指す」と語った。
異物混入問題など、食の安全が注目される一方、農家の高齢化、異常気象や世界的な人口増加による食糧不足の懸念が広がる中で、植物工場の取り組みはますます注目されることになりそうだ。