パナソニックは、アグリ事業の方針を説明するとともに、同事業において重要な役割を果たす植物工場への取り組みについて紹介した。
パナソニックは、1967年から果樹用防蛾灯を発売し、施設園芸分野に参入。1987年には農畜産技研と日本グリーンハウス工業を統合し、当時の松下精工エンジニアリングにより、畜産分野にも参入。防霜ファン、農業用ヒートポンプ空調、換気扇、送風扇、浄水・排水処理、病害虫防除照明などを製品化。アグリ分野では長年の経験を持っている。
パナソニック 全社CTO室 技術戦略部 主幹の松本幸則氏は、「農業分野においては、農業従事者の減少、異常気象の頻発、耐性害虫の発生などの問題がある。一方で、安心・安全な農産物を効率的かつ安定的に生産できる新たな農業が求められている。
パナソニックは、農業分野への部材販売では50年以上の経験がある。こうした経験を生かすとともに、家電事業で培った技術で、栽培環境の最適化や安定化に取り組むことで、次世代農業を実現する」語る。
空調技術や制御技術、照明技術、センシング技術、大量生産技術なども、アグリ事業に展開。パッシブハウス型農業プラントなどによる「施設園芸」、大型植物工場プラントなどによる「植物工場」、日本クオリティを実現した野菜栽培や供給を行なう「食の海外展開」という3つの観点から、アグリ事業を展開し、食分野への貢献を図る考えだ。
パナソニックの松本氏は、「パナソニックのアグリ事業は、アプライアンス社、エコソリューションズ社、AVCネットワークス社、オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の4つのカンパニーを横断したクロスカンパニー方式で事業を推進しているのが特徴。アグリ関連機器やシステムの市場規模は2020年には国内全体で846億円、植物工場市場は196億円が見込まれており、成長分野と位置づけている」とする。
従来の植物工場は、重量歩留まりが60〜70%
パナソニックは95%を実現
パナソニックのアグリ事業において重要な役割を果たす植物工場は、「農業の工業化」を基本方針に掲げており、同社が持つ工場系モノづくり技術による農業の効率化と、工業的アプローチでデータ化。経営と勘頼りの農業を変革し、再現性のある農業への改革を進めるのが特徴だ。工業製品の生産ノウハウを農業へ応用しているともいえる。
パナソニック AVCネットワークス社 アグリ事業推進室 主幹の松葉正樹氏は、「工場でのモノづくりの考え方、ノウハウを生かした工業的アプローチを行なっているのが特徴。従来の国内植物工場は、重量歩留まりが60〜70%である。工場という観点がみれば、考えられない歩留まり率の悪さである。パナソニックは工場という観点から歩留まり率にこだわり、95%の重量歩留まり率を実現。さらに、均質に規格化された野菜を、安定的に生産できる」とする。
重量歩留まり率とは、レタスの場合を例に挙げれば、出荷が可能な80〜100gの大きさにまで、どれぐらいの比率で育つかを算出したもの。パナソニックの植物工場では、5%だけが規定重量に達しないことになるが、「これは、種に由来するもので、パナソニックでは解決できない部分」だと説明した。歩留まり率は最大化を図っているという。
福島県で植物工場を稼働
パナソニックでは、2012年度から人工光型植物工場の研究を開始。2013年8月からは、復興予算として計上された最先端農業事業化に関する補助金を活用して、福島県内での植物工場を稼働。福島県内の約30店舗のスーパーで、グリーンリーフ、フリルレタス、ほうれん草の3種類の野菜を販売している。また、植物工場そのものの販売活動は2014年4月から開始し、2014年末には第1号ユーザーを獲得。現在2件のユーザーを獲得し、海外でも商談を展開しているという。
パナソニックの福島工場では、1200m2の敷地に、高さ5m、長さ15mの栽培ラインを持ち、栽培棚は7段および9段で、これを15列で構成している。日産規模は1800株となる。播種し、発芽後、49個の育苗プレートに仮植した後に、16個の育成プレートに定植。6週間後には収穫し、ポリ袋への包装、重量検査や金属検知を経て出荷するという。面積生産性や投資効率性を考慮し、2回の植替え方式を採用しているのが特徴だ。
日産2000株規模が目安、自動化で6人による生産が可能
植物工場の提案については、レタスの場合日産2000株の規模をひとつの目安に行なっており、管理者1人を含む8人の従業員で対応できるという。また、自動化すれば6人での生産が可能としている。
自動化に関しては、30秒間に300個の種まきが可能な独自開発の「種まき簡易治具」や、高所の棚の出し入れも自動化する「栽培プレート自動投入・取り出し機」を開発済み。さらに、手間のかかる植替え作業を自動化する「自動仮植・定植機」や、清掃作業を自動化するロボットも開発する予定だという。