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スマホの最新技術VoLTEに糸電話で挑む!

VoLTEに対抗!? 最強の糸電話を本気で追求した!

2014年12月24日 11時00分更新

文● じまP(アスキースマホ総研

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最も音のよいコップと糸の組み合わせを
マッドな人に探ってもらおう

マッドサイエンティスト(風)ライターの藤山哲人氏が協力してくれた(※わけのわからない絵面ですが、糸電話製作の様子です)

 糸電話でVoLTEに挑むと宣言した前ページで、おそらく読者のほとんどは「あ、これ負けたわ」と思っただろう。しかし、それは早計というものではないだろうか。今回はASCII.jpにも寄稿されているマッドサイエンティスト(!?)ライター、藤山哲人氏に協力を仰ぎ、真の最強の糸電話はどれかを詳しく分析していくことにした。

藤山氏近影。「USB扇風機で体と頭を冷やせば、心もクールになる」という実験のために、34度の気温の中でUSB扇風機6台に囲まれながら仕事をするというすさまじい光景である。しかも「やっぱり暑いじゃねーか!」ということで、ドライアイスを利用してマイナス43度もの冷気が吹き出す「USBエアコン」を制作していた

 藤山氏は「スマホのバイブ機能は男子力をパワーアップさせる」なるアヤシげな名目でスマホの振動の強さを調べまくったり、USB接続する扇風機の風力に満足できずマイナス43度の冷気が吹き出す「USBエアコン」を自作してしまったり、蚊取り線香より効くグッズを求めて薬局でしか購入できない殺虫プレートを入手し、実験場所であるキャンプ場の生態系が崩壊しそうなほど虫を駆除するなど、ASCII.jp上でさまざまな伝説を残してきた人物だ。

「スマホのバイブ力を調べる」という珍実験であっても、編集部員がドン引きするぐらいしっかりした装置を作って臨む姿勢は高い評価を得ている

 今回も糸電話の製作と実験を依頼したところ、「隣の部屋からのアダルトな音声がよく聞こえるための糸電話」や「亀の甲羅に似た妙にマニアックな縛り方で糸をくくりつけた糸電話」などマッドなアイデアを多数いただいたが、断腸の思いでお断りし、サイエンティストとしてご協力いただけるよう、紳士に……もとい真摯にお願いした。

 そう、あくまで基本は糸電話。コップと糸だけを使って、正々堂々と勝負したい。というわけで、さまざまなコップと糸を用意してそれらを組み合わせ、最も音が明瞭に聞こえるものは何かを調査してもらったのだ。

コップ部分と糸部分を用意して、最適な組み合わせを探していくわけだ

スピーカーに糸電話の片方を繋ぎ、もう片方にマイクを突っ込んで計測する。紙コップ、プラコップ、金属(アルミ)コップ……それぞれの周波数特性の違い(スペアナ)を測る。回線も音声を左右するので、糸も色々と変えてみる

 と依頼をして、しばらくしてから藤山氏から送られてきたレポートの内容はというと、「コップは500mlの紙コップ。糸は凧糸」。えっ、超普通の結論……。まあそれが正しいとしても見栄えが……いやいや、それはそれ。我々はガチで最強糸電話を作るのが目的だったので、気を取り直して、藤山氏から送られてきた調査レポートをもとに解説していこう。

コップはやっぱりド定番の紙コップが最高

コップの違いによる、周波数特性

 上の画像は、コップの違いによる周波数特性をあらわしたグラフになる。縦軸は音圧レベル(dB)。一番上がオーディオのVUメータの0dB相当で最も大きい状態で、下に下がるほど音が小さいことを意味する。横軸は一番左が20Hz(人の可聴範囲の下限)で、右側が20kHz(人の可聴範囲の上限)。目盛りは対数になっており、20Hz、100Hz、1kHz、10kHzと数字が打ってある。対数になっているので、横の目盛りの幅が一定ではないことに注意だ。

 簡単に言えば、人間の会話時の周波数(およそ300~1kHz)が良く聞こえる(グラフの線が上の位置にある)ものが糸電話向き、ということになる。

 さて、グラフを見てわかるのは、普通の紙コップが良好な結果を出しているということ(黄色と緑の線が上の方にある)。

 では大きさはどうだろうか? 200mlと500mlとで調査してみたところ、前者の普通サイズは女性の声が聞きやすく、後者は男性の声が聞きやすかった。グラフの声の周波数の右側で高い値を示す緑色(200ml)と、左側で高い値を示す黄色(500ml)の音の違いが、実験結果にも出ていることがわかる。

紙コップ(200ml)。糸電話によく使われるだけあって良好な結果

こちらは紙コップ(500ml)。200mlと比べると、特に低音域が聞き取りやすい

 特大のポップコーンカップならもっといい音が出るかも? と130オンス(直径185mm×高さ195mm)のカップを使って調査してみたが、200~500Hzではよい感じに音が出るが、600Hz以上から極端に再生できない(赤色の線が極端に落ちるところに注目)。ビートが利いたダンスミュージックにはよさげだが、音声通話には巨大な紙コップは向いていない。つまり、VoLTEに対抗するには不向きだ。

 ところで、白いグラフのプラカップも、グラフ上はいい音に見える。しかし、実際の音声を聞いてみるとビビリ(ビリビリ)音が発生してしまうという致命的な弱点があり、明瞭さに欠けるということで不採用となった。

ポップコーンカップ。大きいことはいいことだ……というわけにもいかず、高い音が聞き取りにくいという弱点が

プラスチックカップ。データ上はよく見えるのだが、実はビリビリ音が発生してしまう

 なお、金属ではどうかと鉄製のプリンを作るカップでも試してみたところ、素材が硬すぎて音量が小さく、相手の声が聞き取れない(水色の線を見ればわかるが、極端に低い)。ただし高音域の特性は非常によく、テクノポップや管楽器の再生には向いていると思われる、とは藤山氏の弁である。

プリンカップ(鉄製)。とにかく音が小さい。高音部は結構聴こえるが、糸電話としてはちょっと不合格

糸はバランスのよい凧糸に軍配
クリスマスの夜のガールズトークならナイロンだ!

糸の違いによる、特定周波数の音の大きさ(音圧)グラフ

 こちらは糸の違いによる、特定周波数の音の大きさ(音圧)グラフだ。グラフの見方はコップのものと同じである。

 グラフを見ると、凧糸(白い線)が安定していることがわかる。実際に使用してみても、適度に声以外のノイズが抑制され、マイルドでとても聞きやすかった。よい意味で非常に平均点的な感じで、藤山氏によれば「工作では紙コップ+凧糸を使う理由はここにあるのでは」とのことだ。

 ポリエステル製の硬い糸は、男性の声がよく通る。この点に関しては凧糸よりも明瞭だ。ただしグラフの黄色の線に出ているように、600Hz以上になると音が小さくなるので、女性の声は通りづらい。

凧糸。データで見ても安定している

ポリエステル線。男性の声はよいものの、高い女性の声にやや難あり

 一方、ナイロン製の柔らかな糸は、ポリエステルとは逆に女性の声がはっきり聞こえる。グラフで見ると男性の声も(低い周波数)も聞こえているように見えるが、実際の音声を聞くとやや聞き取りにくい印象も受けた。バランスの良さを加味すれば、凧糸に軍配が上がるといってよい……とのこと。

 なお、グラフを見れば一目瞭然、エナメル線(水色の線)は使い物にならないレベル。特に男性の声は絶望的に聞こえない。しかも、カラオケマイクのエコーをマックスでかけたように、ヒュンヒュンとした金属音に変わってしまう。ある意味ボイスチェンジャーやボコーダー的に使えるが、これではVoLTEに対抗できるとは言いがたい。

ナイロン線。高い声がよく聞こえるので、女性同士ならこれを選ぶのもアリだろう

エナメル線。低い音は聞こえないわ、(グラフではわからないが)金属音になってしまうわでいいとこなし


 さて、「データはわかるけど、実際に聞いてみたいな」という人のために、糸電話の受信側でどのように聞こえたか、実験中に収録した音声をまとめた動画を用意した。聞き比べてみれば、「こんなにも違うのか」と驚かれることだろう。

最強の糸電話はシンプルイズベストだった!
ところがメンバー凍死寸前の悲劇が

用意したのは3つの糸電話。かなり基本に忠実なデザインのものが残ったが、やはり原点回帰なのであった。なお写真は糸電話だとわかりやすいよう、色付きの糸を使用しているが、読者の皆さんは普通の白い凧糸を使えばよいだろう

 というわけで、VoLTEに立ち向かえる(かもしれない)糸電話は、500mlの紙コップと凧糸によって作られた糸電話である。思った以上に普通な結果ではあるが、シンプル・イズ・ベスト、昔から糸電話がこういうカタチに作られているのは理由があるんだな……と思わされた。

 ただし藤山氏によれば、「ガールズトークメインなら、キャリアをナイロンにすると、凧糸より明瞭な音声になる。男同士の会話ならポリエステルもあり」とのこと。今回は平均的によく聞こえる凧糸を採用したが、クリスマスに傷をなめあいたい女の子同士の場合はナイロンを選ぶなど、目的に合わせて糸を変更すると、さらに糸電話のグレードが上がるだろう。

500mlの紙コップと凧糸の糸電話は音質がよい。距離があっても問題なく聞こえる。やっぱりVoLTE、100メートル離れても大丈夫

 実際に作成した「コップは500mlの紙コップ、糸は凧糸」の糸電話でしゃべってみると、確かに音質がいい! やはり最適な組み合わせだということが実感できた。ちなみに、巨大コップは音量がより大きく聞こえるので、興味があったら作ってみてほしい。ただ、低音が強く出るので、いささか明瞭性に欠ける。大きくても500ml程度が最適のようだ。

巨大コップは音量が大きくなるが、やや明瞭性に欠ける。低音は響くが高音にメリハリがない印象を受ける。端から見ると、意味のわからない光景かもしれないが

 ところが、ここで悲劇のトラブル発生。真冬の12月、しかも潮風吹きすさぶ海辺での撮影は、想像以上に過酷だった。簡単に言うと、メチャクチャ寒かった。あまりの寒さにメンバーがガタガタ震えだしたのはもちろんのこと、撮影をお願いしたカメラマンから「今までのロケで1、2を争うほど過酷」「そもそも広い場所ならどこでもいいのになぜ冬の海なのか」と激怒される始末。

「別に冬の海を実験場所にする必要はなかったのでは?」と突っ込まれ、何も言い返せないカリーさん。しかもこの瞬間さえ、(静止画ゆえ伝わらないが)寒すぎて小刻みに震えている

実験の過程で、LANケーブルを接続できるようにした「糸BASE-T」も作ったりしてみたが、いかんせん糸電話としてはまったく機能しなかった。当たり前である

 海辺の実験にまで付き合ってくださった藤山氏からも「これ以上いると凍死するかも……」と泣きが入り、急遽予定になかった屋内での休憩を挟むことに。休憩中もカメラマンから「今回の撮影で糸電話は見るのも嫌になった。たとえVoLTEに勝ったとしても自分は認めない」などとガミガミ言われ、我々の心はポッキリ折れた。この場を借りてお詫びします。本当に申し訳ありませんでした。

 しかし、(カメラマンの刺すような視線から目を背けつつ)実験はまだまだ続く。音質が良いだけではVoLTEに対抗できているとはいえない。なぜか? VoLTEを使った「データ+音声のシンクロ」機能と勝負していないからだ。それについては次ページに戦いの舞台を移そう。


VoLTEについて真面目に解説、その2
「VoLTEってどうして高音質なの?」

 LTEスマホでも、VoLTE以前では音声通話を利用する際は3Gに接続を切り替えている。3Gの登場はもう10年以上前なので、その間に音声圧縮技術も大きく向上したのだ。具体的には従来の携帯電話では300Hz~3.4kHzだった周波数帯域が、VoLTEでは50Hz~7kHzに拡大。低音も高音もよりクリアに音声が伝えられるようになっている。

ドコモの発表会の資料より。VoLTEでは周波数帯域が拡大している


(次ページでは、「糸電話で画像も位置情報も送れることを実証する」)

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