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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第94回

PCのスピードを左右するメモリーの進化を振り返る

2011年03月28日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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SDRAMの後継者は誰だ?

メモリー技術の進化とCPU/チップセットの対応表

 ここまではFP DRAM→EDO DRAM→SDRAMとおおむね順調に移行していったメモリー技術だが、SDRAMの後継ではひと悶着あった。まずNEC(現エルピーダメモリー)が、SDRAMをベースに独自のバッファ(Virtual Channel)を内部に設けた「VC SDRAM」を開発する。

 しかし、対応チップセットはVIA TechnologiesとSiS、ALiからしか出荷されず、「シェアを取れない傍流メモリー」として消え去りそうな運命だった。ところが、1999年に台湾で発生した大地震によって同地のメモリーベンダーの生産が中断。SDRAMチップの供給不足と価格高騰が発生した。特にこれはスポット市場で顕著だった。

 その一方で、VC SDRAMはこの大地震の影響をほとんど受けず、供給と価格も安定していた。その結果、急にVC SDRAMがメインメモリーとしてSDRAMに取って代わる、というちょっと面白い状況になった。もっとも、インテルのチップセットはVC SDRAMをサポートしなかったから、市場のPC全量で使えたわけではない。また、台湾の生産復活にあわせて急速にVC SDRAMのシェアも縮んでしまったので、結果としては一過性のものでしかなかったが。

 それ以上に混迷したのは、インテルが全面的に推進した「Direct RDRAM」である。まずPentium II/III向けの「Intel 820」で採用され、ついでPentium 4向けの「Intel 850」では全面的にDirect RDRAMを採用した。ところが混迷の挙句にフェイドアウトしたという話は、連載28回29回にあるとおりだ。

 インテルは同時期、ネットワーク向けの「IXP2000」シリーズという独自のプロセッサーを開発。このIXP2000シリーズにもDirect RDRAMを採用した関係で、すぐに消えたわけではなかったが、PC向けメモリーとしてはほかに追従するベンダーもなく、フェイドアウトすることになった(例外は53回で触れたSiS R658/R659程度)。

 結局SDRAMの後継は「DDR-SDRAM」が担うことになった。DDR-SDRAM対応アナウンスを最初にしたチップセット製品は、最終的に出荷されなかったVIAの「P4X266」であるが、これが市場に与えたインパクトは非常に大きかった。VIA以外の互換チップセットベンダーや、AMD/TransmetaといったCPUベンダーもDDR-SDRAMを採用したほか、インテルも結局これに続くことになった。

 このDDR-SDRAMの時代にちょっとだけ姿を現して消えたのが、「QBM」(Quad Band Memory)である。アイデアは簡単で、DDRの信号線のままDDR2相当の転送を行なうというもの。2004年には試作モジュールが展示されたこともあったが、何しろ対応チップセットがVIAの「PT880/PM880」のみ。主要なDIMMベンダーはどこも対応を表明せず、結局試作レベルで消えてしまった。まあ、こんな怪しい規格に頼らなくても、まもなくDDR2-SDRAMが登場する予定だったから、必要なかったということだろう。

2004年の「COMPUTEX TAIPEI 2004」に合わせて開催された、「VIA Technology Forum 2004」会場に展示されていたQBMモジュール

 2004年には「DDR2-SDRAM」がPC向けに登場する。当初はDDR2の帯域をフルに使いこなせる環境はなかったが、2006年頃には「DDR2-800」が普通に入手可能となり、PC側も帯域を使い切る状態となった。こうした動きを経て、2007年には「DDR3-SDRAM」が登場、現在に至るという流れとなっている。

 この先に関しては、だいぶ紆余曲折がある。かつてのプランでは、そろそろ「DDR4-SDRAM」が登場する予定になっていた。ところが「電気的に無理」という話になってしまい、当初のプランは全面的に破棄。その後もプランが2回ほど変わって、現在ではDDR4の登場は「早くて2014年頃ではないか?」と言われている。

 何が無理だったのかという話は次回以降に解説するが、その間のつなぎとして登場したのが「DDR3L-SDRAM」である。当初は「LVDDR3」といった名前で呼ばれていたが、最終的にメモリーの標準化団体である「JEDEC」で、DDR3Lとして標準化された。

 DDR3L-SDRAMとは、DDR3-SDRAMに対して信号速度の高速化と低電圧化を図ったものである。従来のDDR3-SDRAMが1.5Vで800~1600MHzの信号速度であるのに対して、DDR3L-SDRAMは1.35V/1.25Vの電圧で1866/2133MHzの信号速度となっている。実はこの「1.35Vで1866MHz」という組み合わせは、すでにモジュールも市場に登場している。また、今年発売されたSandy BridgeベースのCore i7/i5は、非公式ながらこの電圧/速度への対応を済ませている。そんなわけで、今年はDDR3-SDRAMからDDR3L-SDRAMへの移行が、ゆっくり始まってゆくと考えられる。

 もうひとつの潮流は(PC向けとは言いがたいが)、2010年に登場した「Atom Z600」シリーズでサポートされた「LPDDR1」である。LPDDRは携帯電話などの省電力機器向けに策定された規格で、DDR-SDRAMの電圧を落とすほか、省電力モードのサポートや待機電力の削減などを施したものである。

 すでに市場ではこれに続き、転送速度を引き上げた「LPDDR2 SDRAM」が実用化され、最近のスマートフォンなどに採用されている。PC分野でもAtomの将来製品や、ひょっとするとAMDの「Bobcat」ベースのSoCなどでサポートされる可能性はありそうだ。

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