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“JAXAの真田ぁ~ず”に総力インタビュー! 第5回

祝帰還!「はやぶさ」7年50億kmのミッション完全解説【その5】

「はやぶさ」は浦島太郎!? 宇宙経由の輸出入大作戦

2010年06月16日 12時00分更新

文● 秋山文野 撮影●小林伸ほか イラスト●shigezoh 協力●JAXA/ジャンプトゥスペース

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帰還に向けて。イオンエンジン最後の活躍――2010年3月

 2010年3月27日、イオンエンジン連続運転、第二期軌道制御が終了する。これによってイオンエンジンでの当初予定はすべてクリアしたことになる。

川口 去年夏くらいからエンジンはだいぶ調子が悪くて、どうやったら生き延びられるかということばっかり考えていました。結局あまり保たず、11月に寿命が来てしまったわけですね。実は夏ごろから現在のスペアタイヤ運転というか、クロス運転について意見としてはだいぶ話をしてたんですよ。

 ただ、生きて動いているエンジンがある以上はそれが優先なので、新しい運転方法というのは「“それ”が起きてから最後の手段だね」とは言っていた。最終的には“それ”が来てしまいましたけど。“あとわずか”と“実際にたどり着けた”というのは、決定的な違いだと僕は思うんです。だから、たどり着くということにこだわらなければいけない。


國中 イオンエンジンとしてやらなければならないことはやったので、大変誇らしいと思ってます。ひと区切りとしては、僕らとしてはやったかなと。


はやぶさの成功で世界中が小惑星探査ブームに

プロジェクトマネージャ 川口淳一郎教授

川口 基本的にイオンエンジンって手間かかりますねえ。これはまだまだ開発途上だという気がします。

 本格的に使うには、手放しで運転できるようになってないとね。まだまだ実用には……と言ったら國中さんには怒られるかもしれないけど。

 でも最初だからいいんです。今まで、イオンエンジンはずっと開発されてきましたけれど、補助エンジンで使っているだけでした。惑星間の航行に使うのがふさわしいのだということを今回「はやぶさ」が示したわけです。

 そういうことに気付かせたというのはいいな、と僕は思っているんです。「エンジンを使って航行している」という気がするでしょ? ほんの少ししか軌道は変わってないんだけど(笑)、エンジンを使って航行しているというのはやっぱり違いますよ。そういう意味では、世界中に影響を与えていると思います。

 NASAだって今、有人の小惑星探査を提案しています。「はやぶさ」が飛ぶ前は、有人小惑星探査なんて誰も言ってなかったことを考えると、結局影響を与えているんですよね。小惑星に対する宇宙探査、それに火をつけているのは「はやぶさ」ですよ。


ついにここまで……「はやぶさ」、再突入へ――2010年4月

化学エンジンのスラスタは本体各所に計12基付いている。精密誘導にはこれを用いるはずだった(提供:JAXA)

 2010年4月、オーストラリア政府は「はやぶさ」再突入カプセルのウーメラ制限地域への進入を了承。「はやぶさ」は時速1万8000kmという高速で地球へ接近しながら、イオンエンジンを使った最終段階の精密誘導を開始した。当初予定では、この誘導(TCM)は化学エンジンを使って行なわれるはずのものだった。


的川 イオンエンジンを使って精密誘導をやるというのも、本来は鉈でヒゲを剃るようなものなんですけどね。


國中 ケミカル(化学エンジン)が使えないのでイオンエンジンで精密に誘導しなければならない。この先も大変だなとは思います。ここからは、エクストラ、エクストラ、エクストラサクセスですから、まあがんばってやるしかないですね。


カプセル再突入は、分の悪い勝負

川口 カプセルの再突入ってそんなに簡単じゃないんです。カプセルの再突入自体が当初計画(4年間)で五分五分の勝負。実際はもう3年余分に飛んでますから、いろんなところが動かないかもしれない。カプセル切り離しの部分ひとつとっても、ちゃんと動いてくれるかどうか。

 だから、カプセル全体が再突入して回収できるとなったら、どういうかたちであれ大成功だと僕は思います。ちゃんと試料回収を……という人がいるかもしれませんが、それは高望みですよね。実力をよく考えてみればわかる。まあ4:6、3:7くらいでだめかもしれない。それぐらい大きなジャンプなんですよ「はやぶさ」は。

 再突入の技術もそうですが、今後サンプルリターンをやるにしろ、先の将来……もっと大型の探査機を打ち上げたり、宇宙船が太陽系を動くようになってきたときに必ず要る技術なんですよね。どこかで開発しなければならないので、これをやっているわけです。

 こだわっているのは、新しいこと。地球を回る軌道から降りてくる、なんてのは全然興味ない。「はやぶさ」が目指してるのはもっと高速の再突入です。


國中 再突入まで残り200時間弱、全体の航程からみれば0.5%程度ですが、大変難しいオペレーションです。累計4万時間くらい運転してきて、各スラスターもだいぶエンドオブライフと言いますか、寿命が切れつつある。本当にどうなるかわからない。

 これまでのオペレーションでは、最後につじつまを合わせればいい、何かエラーがあっても次の1ヵ月でまた修正すればいいので、サイクルが非常にゆったりしていて比較的アバウトな軌道修正でも特に問題ありませんでした。ノルマはノルマですが、それほど厳しい要求ではなかった。

 でも今回の場合は、もうお尻が6月13日と決まっていますから、1時間単位で推力コントロールをしていく必要がある。積分値の軌道変換量、デルタVを管理して運転していかないといけない。かなり厳しい、難しい運用です。

4基のイオンエンジンを擁する「はやぶさ」だが、現在はAとBのクロス運転で航行中だ


「はやぶさ」は、帆掛け舟+モーターボート状態

川口 それに重病人というか……精密な姿勢制御をするためのリアクションホイールが3台のうち2台壊れている。化学エンジンはもう動いていない。今はなんというか、帆掛け舟みたいなものですね。

 太陽の光で片側のバランスを取っている。イオンエンジンを使って姿勢を制御してるのですが……ちょうどモーターボートの舵は壊れてるんだけど、スクリューは回っていて、どっちの方向に向けるかというのを、モーターボートのエンジンを上げたり下げたりして調整しているようなもの。

 それから、帆掛け舟として風の代わりに光を使っている。光そのものは一定の強さですから、バランスをとるのは難しくありません。そしてモーターボートのエンジンのように、向く方向と加速する方向を両方制御している。しかし片側に傾いているので、太陽の風を使って起こしながら飛んでいるという感じですかね。それなりに安定した飛行ではあるんですよ。難しいバランスですけど、それなりには飛んでいる。


的川 昨年の時点で、満身創痍の「はやぶさ」でも帰ってこれるようにコマンドを全部書き換えていますから、理論的には大丈夫なはずです。健全な身体であれば、成功の確率は高いだろうけど、いかんせんかなりボロボロになってますから、プログラム通りに身体が動くかどうかという懸念は大きい。みなさん、ほかにすることがないので祈るような気持ちですね。

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