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Windows 7で行なうオーバークロック 第4回

メモリモジュールオーバークロック指南

2009年12月21日 18時00分更新

文● 石井 英男

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メモリタイミングとは?

 メモリモジュールをよく見ると、クロックや容量だけでなく、「8-8-8-24」や「9-9-9-24」といった、4つの数字の組み合わせが書かれていることが多い。この数字は、メモリタイミング(またはメモリアクセスタイミング)と呼ばれ、メモリアクセスの手順に必要な時間(クロック数)を表している。4つの数字は順に「CAS# Latency」「RAS# to CAS# Delay」「RAS# Precharge」「RAS# Activate to Precharge」(マザーボードによってそれぞれの表記は異なることがある)を表しており、数字が小さいほうが、メモリアクセスを開始してから、実際にデータの転送が行なわれるまでのレイテンシ(遅延)が小さくなる。同じPC3-16000のメモリモジュールでも、メモリタイミングの数値が小さいメモリモジュールのほうがパフォーマンスは高くなるわけだが、メモリベンチマークテストでわずかな差が出る程度であり、体感できるほどの差ではない。
 メモリモジュールには、小さなEEPROMチップが実装されており、ここにメモリタイミングや動作電圧などの、メモリモジュールを正しく動作させるのに必要な情報が記録されている。この情報はSPD情報と呼ばれており、マザーボードは、電源投入時にメモリモジュールからSPD情報を読み出すことで、適切なメモリタイミングなどを設定する仕組みになっている。そのため、通常は自動設定にしておけば問題はないのだが、メモリのバスクロックを定格よりも上げると(オーバークロック)、SPD情報の設定ではアクセスタイミングが短すぎて、間に合わなくなることがある。その場合、手動でアクセスタイミングを設定して、その数を増やす(レイテンシを増やす)ことで、動作が安定する場合がある。

メモリモジュールには、メモリタイミングが書かれていることが多い。この場合だとメモリタイミングは「8-8-8-28」となる

オーバークロックに適したメモリとは?

 それでは、以上の基礎知識を基に、オーバークロックに適したメモリモジュールとは何か考えてみよう。ベースクロックを上げることで、メモリバスクロックも上がるのなら、より高いクロックでの動作が保証されているメモリモジュールを使えばいいわけだ。現在、Core i7-8xx/i5シリーズやPhenom IIシリーズでは、デュアルチャネルのDDR3-1333をサポートしているため(Core i7-9xxはトリプルチャネルのDDR3-1066)、定格で使うのならPC3-10600でいいわけだが、PC3-12800やPC3-14400といったより高いクロックで動くメモリモジュールを使えば、よりメモリのオーバークロック限界が高くなる。
 現在、メモリなどの電子部品関連標準化団体である「JEDEC」が定めたDDR3メモリの規格はDDR3-1600までであり、それ以上の製品はメモリモジュールメーカーが独自に動作を保証しているものとなる。こうしたメモリモジュールをオーバークロックメモリと呼ぶことがあるが、オーバークロックメモリを、その動作保証している最高クロックで動かすには、メモリ電圧(オーバークロックメモリはメモリ電圧が通常のメモリよりも高く設定されている)やメモリタイミングを手動で設定してやらなくてはならない。オーバークロックメモリにもSPD情報はあるが、SPD情報に記録されているのは、あくまでJEDECが策定したクロックで動作させるときの設定値であり、それを超えるクロックで動作させる際の情報は記録されていない(後述するXMP対応メモリモジュールを除く)。オーバークロックメモリは、単に装着しただけではその真価を発揮できず、適切な設定が必要になるやや玄人向けの製品である。
 PC3-14400以上のオーバークロックメモリはかなり高価だが、PC3-12800までならそれほど高価ではないので、Coir i7/i5シリーズやPhenom IIシリーズでオーバークロックをしたいのなら、PC3-12800を購入することをお勧めする。また、同じPC3-12800同士の比較なら、定格動作時のアクセスタイミングが高速な製品のほうが、オーバークロック向きである(オーバークロック時に、SPD情報のままだと動かない場合は、アクセスタイミングを遅くすればよい)。

XMPとBEMPって何?

 最近のメモリモジュール(特に高クロック品)では、XMP対応を謳った製品が増えてきている。XMPとは、Intelが定めた、SPDでは規定されていないオーバークロック動作時のメモリタイミングやメモリ電圧などの情報をマザーボードに伝えるための規格である。要するにSPD情報を拡張したものだと思えばよい。SPDで情報を記録する領域には空きがあり、XMPはその空きを利用して情報を格納する。XMP対応マザーボードにXMP対応メモリモジュールを装着して、BIOS設定画面でXMPプロファイルを選択すれば、メモリクロックやベースクロック、メモリ電圧、メモリタイミングなどが適切に設定される。ただし、XMPは最近のIntel製チップセットでしかサポートされておらず、AMDプラットフォームでは利用できない。

XMPとは、Intelが定めた、SPDでは規定されていないオーバークロック動作時のメモリタイミングやメモリ電圧などの情報をマザーボードに伝えるための規格のこと

 そこで、AMDがXMPに対抗するために開発した技術がBEMPである。BEMPは、Black Edition Memory Profilesの略で、SPDやXMPのようにメモリモジュール上のEEPROMチップに情報を格納するのではなく、インターネット経由でAMDのデータベースにアクセスを行ない、そのメモリモジュールのオーバークロック動作に関する情報を取得するというものだ。その仕組みからもわかるように、BEMPはBIOS設定画面で設定するものではなく、Windows上で専用ユーティリティを利用して設定を行なう。BEMPを利用するには、AMDが無償で提供しているオーバークロックユーティリティ「AMD OverDrive」(http://game.amd.com/us-en/drivers_overdrive.aspx)が必要になる。

AMDがXMPに対抗するために開発した技術がBEMP。インターネット経由でAMDのデータベースにアクセスを行ない、そのメモリモジュールのオーバークロック動作に関する情報を取得する

 BEMPは、AMD OverDrive 3.0以降でサポートされた新機能であるが(現時点での最新バージョンは3.1)、BEMPの利用にはいくつかの条件を満たさねばならない。一つは搭載チップセットである。現時点で、BEMPをサポートしているチップセットは、AMD 790FX/790GX/790Xのハイエンド製品のみで、もちろんBIOS側でのサポートも必要になる。さらに、CPUもSocket AM3対応のBlack Edition品でなくてはならない。具体的には、Phenom II X4 965 Black Edition、Phenom II X4 955 Black Edition、Phenom X3 720 Black Editionの3製品が対応とされている。なお、Phenom II X4 965 Black Editionには、TDP140W版(C2ステッピング)とTDP125W版(C3ステッピング)があるが、現時点では前者しかサポートされていない。
 今回のテストでは、AMD 785G搭載マザーボードとTDP125W版のPhenom II X4 965 Black Editionを利用していたため、BEMPの検証はできなかった。今後、AMD OverDriveがバージョンアップされれば、TDP125W版のPhenom II X4 965 Black EditionでもBEMPを利用できるようになると思われる。しかし、現在公開されているAMD OverDrive 3.1では、BEMPが利用できる環境においても、BEMPが有効にならないという報告もあり、BEMPが安定して利用できるようになるには、もう少しかかりそうだ。BEMP対応メモリモジュールやBEMPを利用するための環境については、先ほどのページを参照してほしい。

AMD純正オーバークロックユーティリティ「AMD OverDrive」では、メモリタイミングの詳細な設定も可能だ

(次ページへ続く)

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