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実例に学ぶ ブログ炎上 第7回

燃えやすい話題に触れ炎上

2007年01月01日 00時00分更新

文● 伊地知晋一

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ブログが炎上しないことに理由はありませんが、炎上するブログには必ず何らかの原因があります。炎上しやすい話題に触れてしまうということも、炎上の原因として少なくありません。多くの人が不満を抱いていながらはけ口のない話題、一般的にタブー視されているような話題に専門家以外の人が触れると、批判にさらされる傾向にあります。こうした炎上しやすい話題はなるべく避けることで、日ごろから「火の用心」に心掛けましょう。

ボクシングの試合で
モーグル上村愛子選手のブログが炎上

 2006年8月2日の夜は、多くの人がテレビに釘付けになりました。

 ボクシングのWBAライトフライ級タイトルマッチで亀田興毅選手がベネズエラの選手を破りチャンピオンになったからです。しかし、この試合の判定を巡って抗議の電話がTBSに殺到したことは、まだ皆さんの記憶にも新しいことと思います。

 このとき、批判の矛先はTBSに留まらず、まったく関係のない人にも向かいました。トリノオリンピックでモーグルの日本代表だった上村愛子選手のブログ「上村愛子オフィシャルブログ」が炎上したのです。

 亀田選手の試合が終わった直後、上村選手は自身のブログで試合について「亀田興毅くんの世界タイトルマッチに興奮です(>_<)よかったねー!本当に感動しました」などとの感想を書き込みましたが、これを見た読者や、2ちゃんねるなどを通じて知った人たちから「なんであんな試合に感動したの?」「アスリートだからわかると思ったが失望した」などと批判が殺到したのです。

行き場のない不満のはけ口に

 上村選手のブログに批判的なコメントを書き込んだ人の多くは試合の判定に不満を持った人たちで、なかには以前から亀田選手の強気な言動を快く思っていなかった人もいたようです。行き場のない不満は、どこかに矛先を求めます。亀田選手の試合は、炎上しやすい話題、つまり発火点が低い話題だったのです。不満のはけ口は必ずしも上村選手のブログでなくてもよかったのですが、たまたま亀田選手の試合に感動したと書き込んだ上村さんが、格好の批判の対象となってしまいました。

 その点でこの炎上、上村選手には本当にお気の毒であったとしか言えません。亀田選手のファンのなかには、同じような内容をブログに書いた人が何人もいるはずですが、試合直後でまだ視聴者の感情が高ぶっているときに掲載されたことに加えて、上村選手が有名人であったことが影響しました。しかも若い女性なのでボクシングは詳しくないだろうと思われてしまったことも、書き込みやすくしてしまいました。仮にガッツ石松さんのような専門家が同じことを書いたのであればボクシングのプロの意見として受け入れられ、これほどの批判には晒されなかったことでしょう。

悠仁さまご誕生で乙武氏に批判集中

 発火点の低い話題としては、亀田選手の試合のような行き場のない不満のほかに、各人の信条にかかわる大きな問題でありながら意見の分かれている、それだけに議論するのはタブー視されているような話題もあります。

「五体不満足」の著書として知られる
乙武洋匡氏のオフィシャルブログ

 「OtoZone」は、2006年9月6日の秋篠宮夫妻の長男悠仁さまご誕生に対するコメントが引き金となって炎上しました。乙武氏は翌7日に「紀子さま出産」と題し、「世間は昨日から『めでたい、めでたい』と騒いでるけど……ひとつの命が誕生したことがめでたいの? それとも誕生した命が『男児だったから』めでたいの?」などと書き込み、これが親王ご誕生を喜んでいないかのように受け取られてしまったのです。

 寄せられたコメントの内容から見ると、乙武氏の論じたかったことがきちんと読者に伝わっていたのかどうかか定かではありませんが、やはり皇室や宗教、政治問題といった話題は発火点が低いので、「火気厳禁」の慎重な取り扱いが必要です。

消火作業の差がその後のブログの運命を決めた

 以上の2つの事例は、ともに発火点の低いテーマに触れたために起きた炎上ですが、鎮火への流れは明暗を分けてしまいました。2人とも炎上後すぐに謝罪のコメントを記入し消火にあたりましたが、上村選手のブログが見事に鎮火したのに対して、乙武氏のブログは「燃料投下」に近い逆効果を生んでしまいました。

 上村選手のブログは炎上翌日の夕方、「ボクシングの判定基準もぜんぜん知らないのに軽々しくコメントしてしまったんだと思って反省しています。自分の浅はかなコメントのせいでこうなってしまった事を本当に申し訳なく思います」などとフォローのコメントをしたことで一気に沈静化します。批判のコメントはほとんど影を潜め、「気にしないで頑張ってください」といった激励と「真摯で実直なコメントを記載したあなたにとても共感を覚えました」というような好意的なコメントが大半を占めるようになります。なかには批判のコメントを送ったと思われる人からの謝罪まで見られました。現在、上村さんのブログは継続されていますし、当時寄せられたコメントもほぼすべて掲載しています。

 一方、乙武氏も炎上したその日のうちに「深くお詫びします」と題し、「親王のご誕生を『めでたくない』と考えているように受け取られる文章を書いてしまったことを、深く、深く反省しています」となど謝罪しました。しかし続けて「男であろうが、女であろうが、皇室であろうが、民間人であろうが、命の重さは等しく、尊ばれるもの。そう思っていた僕には、内親王がご誕生した時よりもはるかに舞い上がった今回の慶事ムードに違和感を覚えてしまったのです」などといった、読み手からすると「言い訳」ともとれかねない内容も加わっていたため、さらなる炎上を招いてしまったのです。乙武氏のブログは結局、コメント欄が閉鎖され、ほとんど更新されない「半焼」状態となってしまいました。

 上村選手のブログが素早く鎮火したのは、問題がボクシングの試合という根深い話題でなかったことに加え、上村選手本人にファンが多かったこともプラスに繋がったのでしょう。しかしながら本質的には、謝罪であれ反論であれ、まず読者からの批判に真摯に向き合ったという姿勢を示すことがどうかが、消火作業の成果に大きく左右するのです。

 個人であれ、企業であれ、ブロガーが世論を二分するような発火点の低い話題に触れるときは細心の注意を払うべきです。どうしてもそういったテーマで記事を更新するなら、「炎上しても仕方がない」といった覚悟が必要でしょう。

著者・伊地知 晋一(いじち しんいち)プロフィール

伊地知氏

伊地知氏写真

株式会社ゼロスタートコミュニケーションズ専務取締役。 1968年生まれ。e-mailを活用したマーケティング会社を経て、2000年ライブドア(当時オン・ザ・エッジ)へ入社。執行役員として2003年「ライブドアブログ」をスタートさせ、国内最大のブログサービスに育て上げる。その後、2年半の間に「やわらか戦車」のプロデュースを行なうなど、50以上のネットサービスを手がける。著書に『CGMマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ)がある。


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