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“THE DIGITAL DREAMER~香港と日本、デジタルとストーリーの新たな融合~”レポートVol.2――映画『HINOKIO』の秋山貴彦監督らのトークセッション

2005年03月15日 17時38分更新

文● 千葉英寿

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埼玉・川口市のデジタル映像制作向け複合施設“SKIP(Saitama Kawaguchi Intelligent Park)シティ”で11日に行なわれた、香港と日本の映像クリエイターによるシンポジウム“THE DIGITAL DREAMER~香港と日本、デジタルとストーリーの新たな融合~”の第2部は“アジア発のエンターテイメント映画が、今面白い ~映画『カンフーハッスル』と『ヒノキオ』のメイキングから~”と題したトークセッションが行なわれた。

右から司会の大口氏、パネラーの林田氏、秋山氏、チャン氏、瀬下氏、奥澤氏
第2部はトークセッション形式で行なわれた。右から司会の大口氏、パネラーの林田氏、秋山氏、チャン氏、瀬下氏、奥澤氏と並ぶ

トークセッションでは、映像クリエイター/ジャーナリストの大口孝之氏がモデレーターとして司会進行を務めた。パネラーには、香港Centro Digital Pictures社の会長兼CEO(最高経営責任者)のジョン・チュウ(John Chu)氏とクリエイティブ・ディレクターのフランキー・チャン(Frankie Chung)氏という香港勢に対し、日本からは今夏公開予定の映画『HINOKIO(ヒノキオ)』が初監督作品となる秋山貴彦氏と、同作品の制作スタッフであるCGディレクターの(有)LiNDAの林田宏之氏、カシオエンターテイメント(株)の取締役兼COO(最高執行責任者)の瀬下寛之氏、同社チーフテクニカルディレクターの奥澤泰二氏が参加して行なわれた。実はHINOKIOチームの4氏は映画『Final Fantasy』の制作スタッフでもあった面々で、世界で最も早くフルCGアニメーション映画の制作に携わった人々と言える。

はじめにフランキー・チャン氏が、公開中の『カンフーハッスル』のメイキングを紹介した。蛇が役者にからみつくシーンでは、ひとりが蛇を、もうひとりがライティングを担当してCGを制作した。天井からの俯瞰で見た、蹴り上げた役者の足が大写しになるシーンでは、役者の“足の裏”まで緻密なCGで描き、大袈裟に見せたという。また、“カエル拳”を使うシーンでは役者の顔をCGでふくらませることでカエルっぽさを描いている。



腰から下をCGで描き、蹴り上げた足を“これでもか”というほどマンガチックに描いている カエル拳のコミカルな表情もCG
腰から下をCGで描き、蹴り上げた足を“これでもか”というほどマンガチックに描いているカエル拳のコミカルな表情もCGで作り上げた

映画『HINOKIO』に登場する“超重要人物”

続いて、今年7月に松竹系で全国公開が予定されている、ロボットを通じた少年の成長を描く映画『HINOKIO』の監督であり、原案/共同脚本/VFXも担当した秋山貴彦氏が、公開前である同作品のメインキングを披露した。同作品は、引きこもりの少年が工学博士である父親の製作した遠隔操作ロボット“HINOKIO(ヒノキオ)”を介して社会と関わり、やがて一人の少女と出会うというストーリー。

秋山氏は「HINOKIOは、違和感なく日常の空間にロボットが存在する、というビジュアルエフェクトが必要であり、(視聴者には)ロボットがCGだと思ってほしくない、というのが監督としての想いでした」と語り、メイキング映像を交えつつ、制作の手順を次のように解説した。
「まず、映画を作るにあたって、ストーリーとアニマティクス(アニメーションの原画)をかなり早い時期から制作しており、アニマティクスは女子美術大学に協力してもらって制作しました。撮影現場では、“ガイド”と呼ぶHINOKIOの背格好に近い女性が動きをその場で演じたり、グレーミラーや実際のプロップ(小道具。プロップは3Dデータから3次元プロッターを使って制作した)などをさまざまな形で撮影し、最終的にこれに合わせてモーションキャプチャーを撮り、後からCGをマッチムーブで合わせていく(動きを合成する)といった流れで制作を進めました」

CGと実写のマッチングについて、林田氏は「結局、モーションキャプチャーは(動きを)人間がやっているので、そのままだとあまりに人間っぽい動きになってしまいます。そこで『Maya』(エイリアス システムズ(株)の3DCGソフト)に取り込んだモーションキャプチャーのデータを、『MotionBuilder』(エイリアス システムズの3Dキャラクターアニメーションソフト)でキーフレーム処理し、ロボットっぽい動きを作り出しました」と語っている。

劇中のHINOKIO(ロボット)はCGとプロップで表現されており、一見してCGと実写の区別がつかないように心がけたという アニマティクスとビデオコンテの制作は美大の学生に協力を得た
劇中のHINOKIO(ロボット)はCGとプロップで表現されており、一見してCGと実写の区別がつかないように心がけたというアニマティクスとビデオコンテの制作は美大の学生に協力を得た

また、秋山氏は「劇中で、説明されないとどこかCGなのかわからないリアルな俳優が出てきます。ここは劇中の重要な“泣けるシーン”で、どんなシーンかも言えないのでお見せできないのですが、この部分をカシオエンターテイメントが担当しています」とさりげなく見所を紹介しながら、マイクを渡した。昨年設立されたカシオエンターテイメント(株)は、カシオグループのソフト開発部門が独立した会社で、これまでにもカシオ製品のCMなどを手がけている。

同社の奥澤氏はCG美少女制作の先駆けとなった人物で、本作品のそのシーンにおいても「作品の中の登場人物をフルCGで描いています。お見せすることができないのですが、実際にはどこだったかもわからないというぐらいに仕上がっています」と瀬下氏は語っている。

Centro Digital PicturesがついにフルCGアニメを!?

トークセッションの後半は、大口氏を中心にアジアのエンターテインメントビジネスにおける“香港と日本の事情”について質問する形式で進められた。

大口氏の「アジアの映画は、なかなかアメリカのマーケットに食い込めません。(最近は)それでも『少林サッカー』や『呪怨(ジュオン)』のように注目されてきています。『カンフーハッスル』は最初からアメリカ資本(米ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(Sony Pictures Entertainment)社)が入って制作されましたが(そのいきさつや結果はどうだったのか)?」という質問に対し、チュウ氏は「(ソニーピクチャーズは)いい投資になった、いいリターンがあったはずです。香港の映画制作社はなんとかアメリカのマーケットに食い込んでいこうという野望がありますが、日本もほか(他国)の市場に参入しようというメンタリティー(意気込み)があれば、いけると思います」と答えた。

次に来場者から、「Centro Digital PicturesはフルCGアニメを作る可能性はありますか?」と直球の質問が来ると、チュウ氏は「どのアニメ会社でも自社のオリジナルアニメを作りたいという夢はあると想います。我々も夢を持っています。そのためにアニメーターをいろいろな側面で訓練しています。十分な準備ができて、よいストーリーがあれば作りたいと思います。我々の次のプロジェクトは、SFXが入ったライブアクションで、独自のアニメーションの長編映画を2年後、あるいは来年ぐらいまでに出す予定でいます」と本音を語った。

さらに大口氏が、「フルCGアニメと言えば、ほとんどの作品が成功していますが、先駆けとなった『Final Fantasy』(FF)は成功とは言えない結果でした。アジアでフルCGアニメはどうなんでしょう?」と厳しい質問を投げかけると、チュウ氏は「FFはコンピュータアニメーションの業界に対して、大きなインスピレーションを与えました。これまでできなかったことがこうすればできる、ということを学びました。FFを制作した人々は、まずその勇気に対して賞賛されるべきです」と、FFが成し遂げた功績を評価しつつ、さらに次のように続けた。「ただし、ストーリーがあまりアピールされるものではなかったと思います。FFはあまりに大きなプロジェクトだったので、周囲の期待が高かったということです。長編アニメで重要なのはストーリーです。実写でできるような内容ではなく、アニメはもっとそれを超えた“夢の世界”を実現するものでなければならないと思います。“ストーリー”と“人間性”、そして“テーマ”が最も重要だと思います」と語った。

話題はここからフルCGアニメのキャラクターデザインに移り、キャラクターマトリックス(登場人物の位置づけ)を作ってキャラクター作りをする段に及んだ。秋山氏は、FFの制作に入る前にキャラクターマトリックスを作って、キャラクター選びをしたエピソードをこのように語った。
「最もカートゥーン寄りのものからリアルなものまで並べて、その中から坂口さん(監督の坂口博信氏)が“これいこうか”と言ったのがカートゥーン寄りのものだったんですが、(そのキャラクターマトリックスの中に)林田さんが作ったとてもリアルなものがあって、これを見てみんなが燃えちゃったんです。それで、坂口さんを説得して、ブキミの森に迷い込んでしまったんですね(笑)」

結局、“ヒット作を作るにはストーリーが最も重要だ”という教訓に落ち着くわけだが、もしFFのキャラクターがカートゥーン寄りのものだったら、もう少し異なる結果になっていたのかもしれない。キャラクターのデザインはCGアニメの肝とも言えるわけで、パネラーのみなさんの考えをもっともっと聞きたいと率直に思った感じた。


SKIPシティは川口駅からさらにバスで移動、という気軽に行ける場所ではない上に、当日は平日の金曜で、さらに雨も降っており、開場時間直後は広い会場に来場者が数人という状態だった。いったいどうなることか思ったが、開演時間には会場に映像業界の関係者やCGを勉強している学生をはじめ、映像に興味のあるご年配まで実にさまざまな方が数多く集まり、トークセッションでは来場者からも積極的に質問が飛び出す、“ちょっと熱い”イベントとなった。ぜひ、次回は休日の晴れた日に行なわれることを願いつつ、これからのシンポジウムを楽しみにしたいと感じた。

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