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“バイオメカニクス”がスポーツを変えた!――『運動会で1番になる方法』著者の深代千之氏に聞く

2004年10月10日 04時08分更新

文● 編集部

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[遠藤] 『運動会で1番になる方法』で“バイオメカニクス”というコンピューターの応用分野が出てきますが、御社は、そのソフトを開発されています。どういう技術分野なのかを教えてください。
[橘] ひとことでいえば、力学を生体に応用しようという分野ですね。古くはレオナルド・ダ・ビンチまで遡るといってもよいかもしれませんが、“国際バイオメカニクス学会”が、最初に開催されたのは1974年です。“日本バイオメカニクス学会”は、それに先立って1972年から開催されています。
橘 完太氏
ジースポートの橘 完太氏
[遠藤] 御社は、どんなきっかけでこの分野に参入されたのですか?
[橘] 私どもの創業者の2名は、東大でコンピューターグラフィックス(以下CG)、その中でも人間の身体というものを中心に研究していたのですね。
[遠藤] どのようなソフトを作られているのでしょう?
[橘] 『クロップス』というビデオ映像からモーションキャプチャーをするというソフトがあります。まさに、人体のCGのアニメーションで利用することを目的にしています。それから、今回話題にしているバイオメカニクス関連のソフト『アルモ』です。
[遠藤] 『アルモ』というのはどんなソフト?
[橘] 人間の身体の動きからバイオメカニクスに基づいて、筋肉の1本1本の興奮度を求めるソフトウェアです。もう少し詳しく言うと、人間の身体の主要な関節の位置の座標データを与えて、それを元に運動方程式を解いて、関節を回すような力を求めるのですね。
[遠藤] 座標はどのくらい与えるのでしょうか?
[橘] 最低限で10個、詳しくやるときは35個ですね。時間軸では、60ヘルツで測定する装置で2~3秒くらいですから数百になりますね。
[遠藤] 時間軸ということは、ストロボ写真みたいにして撮影するのですか?
[橘] 身体に反射マーカーを付けて赤外線カメラで撮影します。三次元座標を取るために少なくとも2ヵ所から撮影して三角測量の原理でデータを取るのですね。
写真1 写真2 写真3
『アルモ』
[遠藤] 同じ動作を違う筋肉の使い方でできたりしませんか?
[橘] 筋肉の総力の和が最小になる使い方で最適化するようになっています。
[遠藤] 結果は、どんな形で見られるのですか?
[橘] 身体の骨と筋肉を“3D CGアニメーション”で表示します。筋肉に関しては表示するものしないものを選んで、赤と青でどの筋肉に力が入っているか(興奮度)が分かります。筋肉を動かす信号まで求めています。
[遠藤] アルモの利用者はどんな人たちなのですか?
[橘] 現在は、リハビリテーションのような医療の分野から、スポーツ・体育、そして、人間工学、福祉工学の分野まで幅広く“人の動き”を研究する、いわゆるバイオメカニクスの研究者に使われています。近い将来は、臨床の現場やスポーツ指導の現場での応用利用を想定しています。
[遠藤] このソフトですが普通の高校などで導入してすぐに使えるようなものなのでしょうか?
[橘] ソフト自体は、200万円程度なので、敷居が高いわけではありません。ただ、身体の座標データを求めるのに必要な、いわゆるモーションキャプチャーのシステムそして地面反力を求める床反力計という計測装置が必要となるのですが、高精度な計測装置が、非常に高価になってしまいます。しかし、そんなに精度はいらない。あくまでお勉強の中でということであれば、もっと手軽なソフトウェアもあります。また、我が社でもより安価で簡易的なモーションキャプチャーのシステムを開発することを検討しています。
モーションキャプチャーシステムの一部 計測装置2
モーションキャプチャーシステムの一部床反力計
測定機器
[遠藤] 今後は、どのような方向に行くのですか?
[橘] これを、いまは物理レベルですがネットワークレベルまで持っていくと人工知能になりますね。
[遠藤] アニメーションへの応用ってあるのではないですか?
[橘] そうですね、いまのアニメーションは力学的な制約なしに作られていますが、そこに本物と同じ力学や身体の筋肉が入ってくると面白いですね。
[遠藤] CGの世界で、フォワードキネマティクスとインバースキネマティクスというのがあるじゃないですか? あれって、理屈で考えるとフォワードのほうだ道理にかなっているんだけれど、人間が実際に手で何かを掴むような動作というのは、インバース的な意識でやっていますよね。あれはもうそういう話の入り口という感じがしますね。
[橘] いずれにしろ、この分野でまだやるべきことはたくさんありますよ。人間の動きをすべて解明するとなると無限といってもよいでしょう。

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