(株)エニックスと(株)スクウェアは29日、それぞれの中間決算説明と、両社が26日付けで発表した合併による新会社“株式会社スクウェア・エニックス(仮称)”の戦略説明を都内ホテルで行なった。説明会には、新会社の会長となる福嶋康博氏(現エニックス代表取締役会長兼CEO)、同じく社長となる和田洋一氏(現スクウェア代表取締役社長兼CEO)、副社長となる本多圭司氏(現エニックス代表取締役社長兼COO)が出席した。
左から、和田社長、福嶋会長、本多副社長 |
戦略説明で挨拶に立った福嶋会長は、「デジタルエンターテインメント産業は世界規模で変革期を迎えている。環境が変化する中でエンターテインメント企業に求められるのは、多くの人々の期待を満足させ新鮮で良質なコンテンツを提供すること。世界規模でNo.1を目指すことが合併の課題。コンテンツ資産やクリエイター等の人的資源の強化/活用や、収益基盤の強化を狙う」と語った。
合併後の事業体制については、ゲームソフト制作などのコンテンツ事業、出版事業、モバイル事業とも、両社そのままの体制で1年間行なうことが決まっており、その間に互いのいい部分を見極めどのような体制がいいかを考えていくとしている。
新会社における福嶋会長、和田社長、本多副社長の役割については、福嶋会長は会社方針に変更がある場合その決定を行なうと共に、ブロードバンドコンテンツ事業等の新事業を担当する。和田社長と本多副社長はゲームソフト事業やオンラインゲーム事業、出版事業、モバイル事業のすべての権限をもって業務を行なうという。
合併効果について福嶋会長は、「売上利益は20億円近く上がる。出版事業はスクウェアとエニックスの出版を扱うので売上利益がアップする。モバイル事業はスクウェアが今までほとんどやってこなかったのでこれからやると利益が上がる。エニックスはタイトルを増やしたため質の良くないソフトも出していたがそれらをすべてなくす。海外展開についてはエニックスはアジア以外には弱い。一方スクウェアは欧米で強いので相乗効果で40億円利益がアップする。ただし合併費用に10億円~20億円かかるので、最終的には合併効果として25億円前後になるのではないか。2002年3月期での小売ベースでの売上シェアはスクウェア・エニックスが15.73%、2003年では14.93%になる見込みだ」としている。
また、戦略説明を行なった和田社長は、「合併の趣旨は“世界最高品質のデジタルコンテンツメーカーを目指す”。この1点だ。攻めの合併である。両社とも収益力の高い会社で、それぞれが最良の状態で対等合併を行なう。新会社は経常利益、経常利益率ともずば抜けた存在になる。利益率30%を死守する」
「ユーザーは大きなイノベーションを求めている。この何年間か決定的なイノベーションは起きてなかった。デジタルコンテンツのイノベーションはハードインフラのイノベーションと密接不可分。時代の先駆者になるためにはイノベーションの発信源にならなければならない。次回のイノベーションには世界のトップ企業が乱戦状態で入ってくる。誰が主役になるか分からない。プラットフォームは1社ではなく複数メーカーで構成されるものになるだろう」
「同時多発するハードインフラのイノベーションへの対抗措置として、ソフトのイノベーションを起こすには相当なことをしなくてはならない。まずは変化への適応力とR&D投資能力確保のために強靭な企業体質を確立する必要がある。業界の利益は適度に配分されなければならないが、5~6年前からこの利益配分バランスが崩れかかっている。ユーザーが支払った金がどう分配されているかというと実体的にはデベロッパーからハードメーカーに比率がシフトしており、クリエイターたちに金が回らないようになっている。コンテンツメーカーに利益が分配されなければ次のイノベーションは失敗する。そのためにも企業体質がかなりずば抜けて強くないといけない」
「もうひとつ重要なのはプレゼンスの確立。ハードイノベーションとソフトイノベーションは同時平行または化学反応するもの。コンテンツとプラットフォームはWIN-WINの関係で、それぞれのメーカーが相互に連絡を取り合って最適化していかないと市場が大きくならない。相当踏み込んだ議論をしなければならず、そのためにはハードメーカーに会話をする相手として認めてもらうことが必要。そのためのプレゼンスの確立だ。認めてもらった上で同じテーブルにつき、ユーザーに向かって何ができるか議論して市場を拡大していく」
「次に来るイノベーションがどういうものか具体的にはまだ分からないが、イメージ的には新しいコミュニケーションの場所をバーチャルでどう作るかというものだと思う。プラットフォームの変更が2005年から2006年にかけて起こる中で、新しいコミュニケーションがどう形成されるか、それに関連してハードがどう融合されるかがキーとなるだろう」と語った。
ゲームソフトメーカー各社の経常利益と経常利益率をグラフ化したもの。現状のエニックスとスクウェアは赤の部分だが、新会社は青の部分のようになるという。「実は(エニックスとスクウェア以外の)他の組み合わせではこうはいかない。規模は大きくなるが経常利益率が落ちるはずだ。今回の合併が最も効果がある」(和田社長) |
事業展開については、両社の進捗が異なる分野については、進捗の高いほうに合わせ、経営資源の稼働率を向上させるという。例えば海外展開については、スクウェアが欧米に強い輸出型、エニックスがアジアに強い現地型/土着型とスタイルの違いがあるため、互いの経験値をぶつけて相乗効果を狙うという。例えば、ドラゴンクエストの海外展開では、スクウェアのもつRPGのローカライズノウハウを利用することで稼働率を上げられるとしている。
オンライン事業も、両社のやり方は異なっている。エニックスは親しみやすくライトなMMOでアジア地域を中心とした現地型、スクウェアは基本的にはヘビーなMMOで、サーバー管理などすべて日本に集約している。和田社長は「オンライン事業の成功の鍵は業界全体でも分かっていない。1つの会社が異なった戦略を取ることは通常あり得ないがエニックススクウェアとも実績が出始めており、このノウハウの交換はおそらく合併じゃなければできないこと、2つの経験値をもち化学反応を起こせる」と説明。モバイル事業については、「スクウェアは始めたばかりだが、エニックスはすでに収益に貢献している。進行の激しいジャンルだが、エニックスの立ち位置からスクウェアの素材を利用してスタートできる」(和田社長)としている。
また、事業展開の手法が異なる分野については、条件の高いほうを新会社の条件にするという。「いいとこどりをしようということ」(和田社長)。まず販売体制だが、エニックスは直販だがスクウェアはそうではない。しかし同じような商材を同じ商圏に販売しているので、エニックスの販路にスクウェアの商材をそのまま乗せても問題はないという。「ラインナップが充実し、小売業者とのやり取りも一層有利になるだろう」(和田社長)。支払手数料や設備投資についても同様に、条件の良いほうに揃えるという。「設備投資に関しては二重投資をなくせるので大きな効果が出る」(和田社長)。
エニックスとスクウェアのダブルミリオンタイトル一覧。「グローバルでのダブルミリオンだけでこれだけある。ドラゴンクエストは日本だけの数字で、われわれが一緒になって海外展開することでさらに数字を伸ばせる」(和田社長) |
最後に新会社の事業計画が発表された。それによると連結売上高は2004年3月期で610億円、2005年3月期で800億円、2006年3月期で1000億円という。内訳は2004年3月期でパッケージ64%、オンライン14%、モバイル7%、出版15%。2005年3月期でパッケージ65%、オンライン14%、モバイル7%、出版14%。2006年3月期でパッケージ64%、オンライン15%、モバイル8%、出版13%。また、2004年3月期の連結営業利益は185億円、営業利益率30.3%。2005年3月期の連結営業利益は270億円、営業利益率は33.8%。2006年3月期の連結営業利益は350億円、営業利益率は35%の見込みという。ゲームソフトの出荷本数予測は、2004年3月期で900万本、2005年3月期で1200万本、2006年3月期で1500万本という。
新会社の売上高予測 |
新会社の営業利益予測とソフト出荷本数予測 |
和田社長は、「両社はカルチャーが違うからうまくいかないと言われるが、スクウェアもモノカルチャーではない。カルチャーは手法でなくクリエイティビティーに出てくる。マルチカルチャーの開発体制は維持し、直すべきところは直して発展させる。また、プラットフォームが複数あるためそれぞれのジャンルにある程度の技術力が必要だが、家庭用ゲームについては両社ともチャレンジングなタイトルを出しているし技術力も高い。オンラインやモバイルなど全分野網羅している。結果として数字もきちんとした物を計上できるし次の展開も大きな一歩を踏み出せるだろう。明るい話題として支援してほしい」と語った。
また福嶋会長は「3、4年前のスクウェアなら合併をOKしなかっただろう。スクウェアは変わってきた。ちゃんとした経営をしており、エニックスに似てきたなと感じて合併をOKした。30%以上の経営利益率は出ると思っている」としている。
なお両社の中間決算は、エニックスが連結ベースで売上高72億2700万円、営業利益6億3000万円、経常利益6億7300万円。スクウェアが連結ベースで売上高120億1400万円、営業利益17億7900万円、経常利益15億4400万円。