アドビシステムズ(株)は17日、法務省が商業登記規則に基づいて登記所に提出する書類の電磁記録方式としてPDFファイルおよびPDFの電子署名の仕様を正式に指定したことを発表するとともに米国アドビシテムズ社が電子フォームによるウェブソリューションを有するカナダのアクセリオ(Accelio)社の買収を完了したと発表した。同日、これらの発表に関連し、同社の電子政府への取り組みに関する記者発表会を行なった。発表会には、米アドビシステムズ社よりePaperソリューションビジネスユニットのバイスプレジデント、ジョー・エシュバック(Joe Eschbach)氏が同席し、次期Adobe Acrobatに関してもコメントした。
法務省がPDFを商業登記における正式ファイルに指定
平成12年(2000年)5月の第147国会で“電子署名及び認証業務に関する法律”=電子署名法が成立して1年、政府の電子政府化推進にともない電子文書のスタンダードとしてのPDFの認知が進んでいる。しかし、具体的に導入が本格化するのはこれから、というところだ。先だって総務省は「電子認証ビジネス市場規模調査」をアクセンチュア(株)に委託して実施し、12日にその結果として電子認証ビジネス市場は平成18年(2006年)度に約419億5000万円になるとの予測を公表している。いよいよ電子署名関連市場が走りはじめたという状況といえる。
そんな中、ひとつの区切りとして、3月7日付けの官報(号外第40号)に、商業登記規則に基づいて登記所に提出する書類の電磁記録方式としてPDFファイルおよびPDFの電子署名の仕様を正式に指定したことを示す“法務省告示第百一号”が森山眞弓法務大臣名義で掲載された。これにより、4月1日から登記所への会社関係書類の提出には、電子署名付きのPDFファイルでの電子提出を行なうことが可能となった。これまでのPDFを使った電子文書の扱いは電子文書を入手にとどまっており、これが提出(申請)という双方向の動きへと進んだことは、電子化への大きな一歩と言えよう。
PDF+PKIで現実のものとなる電子認証
こうした動きを受けて、アドビシステムズでは法務省告示についてリリースするとともに、これらの動きを解説する記者発表会を行なった。
米アドビシステムズ社のジョー・エシュバック氏。Adobe Acrobatの製品管理およびプロダクトチームを統括、ePaper戦略の陣頭指揮を執っている |
冒頭、エシュバック氏は電子政府の課題として、フォーマットやネットワークの信頼性、総合性、セキュリティーやプライバシー、アクセサビリティー、パブリックスタンダードであること、納税者にとって低コストである必要性、といった5つの点を挙げた。
そしてその状況について「政府のITへの投資は150億ドル(約1兆9500億円)を超えているが、使われている技術は情報へのアクセスが主で、G2C、G2G、そしてG2Bといったことはまだなされていない。怒濤のような変化がおきつつある段間にあると言える」とした。さらに「そうした中にあって我々、アドビの役割は、電子政府のソリューションにおいて技術的なリーダーシップをとることであり、電子政府のい課題を解決する技術としてPDF、Acrobatがある」と語った。
続いて、同社代表取締役副社長の石井幹氏があいさつし、今回の発表内容について説明するとともにPDF技術を使った電子認証技術に関する説明を行なった。
PDFは文書の原本性を保ちつつ、改ざんを防ぐための制限や文書ファイルそのものにセキュリティーを施すことが可能であり、そのため、万一書類が流出しても、文書の内容そのものの流出を防ぐことができる。また、通常、書類に押印やサインをするように、本人のものであることを証明する電子署名を付けることも可能だ。複数のPKI(電子認証基盤)システムとの連携でさまざまな認証局の認証を受け、申請者の身元を確認しつつ申請を受け付けることができる。
商業登記に基づく電子認証の流れ |
続いて、この電子認証における具体的なソリューションを提供する日本認証サービス(株)の電子認証技術とそのサービスについて、同社企画担当部長の町田陽氏が説明とデモを行なった。
日本認証サービスは(株)日立製作所などが中心になって設立した会社で、電子署名法で定められた国の認定を取得して実行される認証業務および“認定認証業務”に関するサービス、いわゆるPKI(Public Key Infrastructure)ソリューションである“AccreditedSignパブリックサービス”を提供している。Adobe Acrobat 5.0で電子署名を可能とするプラグインソフトウェアには、日立製作所が提供する『商業登記署名プラグイン』がある。
電子署名は、AccreditedSignで提供する電子証明書の中にある公開鍵と対となる秘密鍵を用いて行なわれた署名者による秘密鍵の適切な管理などを条件として、その証明書の所有者本人により行われたものであると推定される。これにより、従来の手書署名および押印に相当するものとして電子署名が法的効力を持つことになる。
日本認証サービスの町田陽氏。電子認証は将来は水道の水と同じように提供されなければならない、と語った |
次期Acrobatはサーバーベースに!?
さらに同時に米アドビシステムズの動向として、カナダのアクセリオ(Accelio)社の買収が完了したこともあわせて報告された。アクセリオは顧客の電子フォームに基づいたビジネスプロセス管理をサポートするウェブベースソリューションを提供する代表的な企業であり、同社の買収により、この電子フォームソリューションとAdobe AcrobatおよびPDF技術を統合することで、同社のePaper戦略ならびにeGouvernment対応を強固なものとすることが推察できる。
さらに、同社CEOのブルース・チゼン(Bruce Chizen)氏は、3月にワシントンで行なわれた電子政府関連のイベント“FOSE”の基調講演において、次期Adobe Acrobatの方向性について話しており、これについてエシュバック氏よりコメントがあった。
エシュバック氏は「アクセリオの買収によって、Acrobatがどのように変化するかについては、まだ情報開示できる段階ではない。製品計画についても順次発表していく。Acrobatはこれまでクライアント中心だったが、アクセリオの技術はサーバーベースだということだ」と語った。さらにエシュバック氏は詳しくはFOSEのウェブサイトで公開している同氏の講演をご覧いただきたい、としつつも「ブルースは、講演で『サーバー技術がAcrobat Readerをコントロールしていく』と語っている」とし、次期Acrobatがサーバーベースのソリューションへと変化する可能性を示唆した。