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月刊アスキーとPalm MagazineがPalm関連のトークイベントを開催

2000年10月25日 00時12分更新

文● 岡田 靖

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(株)アスキーが発行する、月刊アスキー編集部とPalm Magazine編集部の主催するPalmプラットフォームをテーマにしたトークイベント“PDA Talk Summit”が21日夜、東京・有明のお台場メディアージュ内のカフェ“トリプルダブリュ”において開催された。ソニースタイルドットコム・ジャパン(株)が協賛している。Palm関連のハードウェア、ソフトウェアの開発者らが“Palmの未来”をテーマに語った。

それほど広くない会場だが、場内は50人ほどの“濃い”人たちでうまり、熱気にあふれていた

さまざまな方向に拡張を進めるPalmデバイス

第1部は「ハードメーカーによる『こんなPalm端末が創りたい!』」と題したパネルディスカッション。Palmハードウェア各メーカーからの出席者が、ハードウェアや通信インフラに至るまでさまざまな話題が飛び出した。出席者は月刊アスキー編集長遠藤諭氏、パーム コンピューティング(株)社長のクレイグ・ウィル氏、日本IBM(株)の一之瀬春人氏、ハンドスプリング(株)社長の小見山茂樹氏、ソニー(株)の清水博幸氏の5名。

第1部“こんなPalm端末が創りたい!”パネルの出席者の面々。(左から)遠藤諭編集長(司会)、クレイグ・ウィル社長「m100が、おかげさまで人気です。これからも、ライフスタイルに合わせて新しい製品を出します」、一之瀬春人氏「位置づけとしては、ソニーのCLIEがVAIOなら、IBMのWorkPadはThinkPadです」、小見山茂樹社長「標準でMac用Desktopも添付しているので、Macユーザーも安心してどうぞ」、清水博幸氏「CLIEは、VAIOと同じく女性にも買ってもらいたい。『カラクリ』と『モノクリ』と覚えてください(笑)」

最初の話題は、ソニーのCLIEにおけるAV機能の拡張やメモリースティック対応に関してだった。司会の遠藤氏が「CLIEの今後は、やはりAV拡張?」と水を向けると、清水氏は「まずはパームさんと一緒に、一般的なオーディオビジュアル機能の拡張を進めようと考えている」とのこと。小見山氏が「最近は、Springboardにメモリースティックをつけたい、という要望が増えています(笑)」と茶々入れすると、クレイグ・ウィル氏は「来年にはSDメモリーカード対応を予定している」と切り返す一幕も。

ただ、質疑応答では「軽さが身上のPalmが、AV対応でどんどん重くなってゆくのが不安だ」といった声も聞かれた。一之瀬氏も「Palmには『砂時計』こそ出ないが、最近のアプリケーションではもたつきも感じられる」と、同様の懸念を示した。が、一方でカードによる機能拡張やカラー画面対応なども検討しているという。

クレイグ・ウィル氏は、個人的にBluetoothを期待しているという。続く話題は、ワイヤレス対応に移った。「Bluetoothで携帯電話と接続すれば、iモードのように小さな画面でブラウジングする必要もなくなるし、電話は電話として単体で使える」という。PHS内蔵WorkPadを企業向けに発売しているIBMでも「PHS内蔵は、使いやすさを向上させる過程で自然発生的に出てきた機能だが、PHSを内蔵したおかげで、『PCコンパニオン』でなく、『ネットワークコンパニオン』になった。PCとだけ接続するのでなく、ネットワーク主体のPalmになったのだ。個人からの問い合わせが多く、一部地域でパイロット販売を行ない、適正価格などの資料が集まれば全国販売も考えている」と、無線通信機能内蔵のメリットやニーズを強調した。

小見山氏は「米国ではGSM方式ベースの『VisorPhone』が好評で、日本でもワイヤレス通信対応を考えている。ケーブルで接続するのは最終的なスタイルではない。現状の『ブタのしっぽ』は、いかにも格好悪いし不便だ。ただ、どのキャリアー、どの通信方式にするかは未定」としている。ソニーでも社内で議論を重ねているという。ただ「Palmユーザーの大半が携帯電話も持っている。それを活かせるようなシステムがよさそうだ」としている。遠藤氏の「Palm VIIの日本語版はどうなるか」という問いに対しては「複数の通信システムへの対応を考えている。一体型も、Springboardみたいなカートリッジも両方検討している」としているが、現状では確実な形を出せない模様だ。

最後の話題は、マイクロソフトが強力に推進している“Pocket PC”など、他のPDAライバルとの比較だ。一之瀬氏は「実際に使っているが、(ヒューレット・パッカードの)Jornadaなどでは液晶がきれいで見やすい。それ自体は良くできていると評価できる」とするものの、「漢字入力がGraffityよりも使いづらい。捨てようかと思ったほど(笑)」と、全体的にPalm優位だという結論に。クレイグ・ウィル氏は「裏側ではヘビーなOSだと思う。しかも高価だ。Palmは2万円から5万円までの、低価格帯でのラインアップが強い」とし、清水氏も「PalmOSはユーザビリティーが高い」と、その優位を強調してた。

つづいて第2部は「ディベロッパーによる『こんなPalmwareが創りたい!』」と題して、ソフトウェア開発者の側から、Palmの今後が語られた。出席者はPalm Magazine編集長石坂康夫氏、Palmwareレヴューサイト“muccy.com”主宰の牟田嘉寿氏、Palmソフトウェア開発者の関根元和氏、Palm用ウェブブラウザー『PalmScape』開発者の奥一穂氏、ジャストシステム(株)の鈴木研祠氏、ソニーの高瀬昌毅氏の6名。

(左から)Palm Magazine編集長石坂康夫氏、牟田嘉寿氏「Palmwareの面白さを通じて、PalmOSを知ってもらいたい」、関根元和氏「不便だと思ったところは、自分で改良してしまう。ジョグダイヤルに関してもアイディアがあるが、コンテスト用にとっておきます(笑)」、奥一穂氏「情報を持ち運ぶ端末として最適な形。コンテンツのためのプラットフォームとしてふさわしい」、鈴木研祠氏「実は、Palm大好き人間が社内にも多い。これからも、より良い日本語入力環境を実現したい」、高瀬昌毅氏「どういうのがソニーらしいか、そういうことを考えて開発してきた」

Palmプラットフォームの優位は、ここでも引き続き語られる。関根氏は「Palmwareはオープンなのが良い。ソースコードが公開されているので、開発がしやすい」と、まず純粋にプログラマーの立場でコメントした。また、プログラマーが一番乗りを目指す傾向について触れ「だれよりも先にやりたい、ということで、ジョグダイヤルやメモリースティック対応ソフトが急に出てきた。次はVisorの16bitカラーに対応したものが出てくるだろう」と、急速なハードウェアの発展に追いつく姿を明らかにした。CLIEに関しては、牟田氏が「ソニーはジョグダイヤルの技術情報などを開発者向けに公開している。この姿勢が偉い」と評価すると、高瀬氏が「Palmはオープンで広まってきた。この伝統を生かしている」と、当然のような表情で受け流した。

その後、一般ユーザーの状況を考えた発言が続く。高瀬氏は「CLIE登場でターゲットが一般に広がっている。コンピューターを使い慣れていない人たちも増えてきた。『こういうことができるんですか?』と、実は可能なことをサポートセンターに聞いてくる人が多い。使いやすさを向上する、地道ながら、そんな改良も進めたい」と発言すると、牟田氏は「通信系やゲーム系、手書き認識など日本語入力系のPalmwareが増えてきた。これらも初心者への敷居を低くしているはず」としている。

当然、話題はATOKへと移る。鈴木氏は「ソニーの開発グループに大量のメールを送っていたが、ある程度ATOKができてくると、今度はこちらに大量のメールが送られてきた」と、開発時を振り返る。実は以前から、Palm関係メーカー何社にもジャストシステム側から話を持ちかけていたという。「ハードウェアのスペックが進化したことで、ようやく対応できた。たまたま最初に『使える』ハードウェアが出たのがソニーだった」という。今後は他のPalmメーカーにも展開してゆくのだろう。一方、ソニー側は「従来の変換システムだと、話を聞きながらメモできない。せめてそれに対応したかった。またジャストシステムのネームバリューもある」と高瀬氏。

だが、まだ初回だけに完全ではないようだ。関根氏は「レビューしていて思ったのだが『ひらがなの再変換』など、まだ機能が不足している」と指摘すると、鈴木氏は「このイベント前に、開発陣と『もっとたくさん星がもらえるように、イベントでしっかり調査してこよう』と、メールでやりとりして来ました(笑)」とか。また「郵便番号辞書や単漢字辞書があると、より使いやすいのだが」という会場からの質問に対し、鈴木氏は「今のPalmではメモリー容量不足。郵便番号辞書はWindows版で9MBもあり、非常に大きいので。メモリーだけ拡張してくれれば……。あるいはメモリースティックに入れておくとか(笑)」とかわし、水を向けられた高瀬氏は、「ATOKがメモリースティック対応になるのを待つ(笑)」とやり返す一幕も見られた。

今後ATOKは、手書きかな認識や手書き漢字認識、さらに推測変換などの発展を考えているという。パッケージ販売についても「非公式情報として」という条件つきながら「手書き認識やキーボードユーザーに配慮したものを、年末商戦に投入したい」としている。

そして、やはり最後には今後の方向性が話題となる。ハードウェア側ではインフラとして語られた携帯電話との連携も、ソフトウェア側では、使い勝手を含めたより身近なテーマとなった。牟田氏は「Palmは、今までのパソコンや携帯電話でできないところを攻めていた。でもパソコンでは(モバイル向けCPUの)Crusoeが出てきたり、携帯電話にもキーボードがついたり、それぞれの境目が曖昧になってきた。今考えているのは、携帯電話が搭載するメモリーとの連携。Palmで使えるメモリー編集ソフトを作りたい」と発言すると、関根氏は「携帯は携帯、PalmはPalmだと思う。最低限の、使いやすい日本語入力システムがあればよい。Palmの主な用途は、パソコンのデータを見るビューワーだ、と考えている」と、違う見解を示す。そして牟田氏は「日本市場には、携帯電話との連携が必須」としている。高瀬氏も「よく、『iモードとの差別化』について質問されるが、これらと競争するのでなく、共存していきたい」とし、鈴木氏も「一緒に生きていける」と同調した。

ソフトウェア側でも、さまざまな方向性が出てくるが、やはり「Palmはシンプルであるべき」というのが共通見解のようだ。Palmware開発者への、奥氏のコメントがそれを見事に表現している。「PalmScapeでは、片手で、いかに読みやすく、いかに元のコンテンツを崩さずに作るかで、非常に悩んだ。たとえば横スクロールバーは、見づらく使いづらいので採用していない。レイアウトが多少崩れてしまうが、ここは操作性を優先した結果だ。コンテンツプロバイダーのためには表現力を、エンドユーザーのためには使いやすさを。相反する条件だが、それを満たしてほしい」。

ユーザーと開発者との間で、きちんとしたコンセプトが守られている限り、Palm全体はこれからも発展を続けることが可能だろう。そんな原動力を、今回の出席者たちから感じたような気がする。

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