パーム コンピューティング(株)の低価格Palm機『PalmComputing m100(エム・ワンハンドレッド)』がついに発売された。Palm市場は、今夏に一足先に登場したハンドスプリング(株)の『Visor』、そして今月登場した、ソニー(株)の『CLIE』、米TRG Products社の『TRGpro』など、続々と新モデルが登場。大きな注目を集めている。m100は2万円を切る低価格を武器に、Palm市場の拡大を狙う。
『PalmComputing m100』。液晶の小ささが本体の丸みをさらに強調している |
身に付けて遊ぶ“トイ・ライク”なPalm
PalmComputing m100(以下m100)を手にすると、その大胆な曲線に目を奪われる。瓢箪(ひょうたん)のようにデフォルメされた本体の形状は、従来のPalmにはないコミカルな印象で、実用的なPDAであると同時にわくわくするような遊び心が前面に押し出されている。米国のモバイル雑誌『PenComputing』は、その独特な外観を“カーク船長のコミュニケーター”にたとえていたが、m100は持つことを楽しむ“デジタル・トイ”の一種でもあると言えるかもしれない。
本体サイズは縦118×横79×厚さ18mmで、フットプリントはPalm Vxの縦114×横78mmとほぼ同等。厚さは8mmほど厚いが、適度な丸みがあるため、手にしっかりとなじむ。重量は137gで、PalmVxより、約24g重くなっている。
本体の縦横はPalmVxやWorkPad c3とほぼ同じサイズだが、厚みが約2倍ある。液晶サイズの差に注目 |
m100の液晶サイズはPalmIIIの60%ほどだが、高精細なため見やすい |
国内PDA市場のブレイクポイントと呼ばれる3万円からさらに1万円安価な価格を設定したm100のスペックは、CPUにDragonball EZ-16MHz、容量2MBのメモリー、単4乾電池で約2ヵ月のバッテリー寿命など、米国市場向けの低価格機PalmIIIeとほぼ同等のスペック構成となっている。メモリー容量は、国内モデルの多くが8MBを搭載することを考えるとややもの足りなく感じるが、個人情報の管理なら必要十分だ。経路探索ソフトの『TRAIN』や日本語入力支援ソフトの『PBInline』など大きなデータファイルが必要なソフトを複数使用するのでない限り、メモリー不足に悩まされることはないだろう。
他のPalm機との大きな相違点としては、もうひとつ、PalmIIIなどに比べ40%以上小さな液晶のサイズが挙げられる。画面はコントラストが高く見やすいが、従来機の画面に慣れた目にはやはり窮屈に感じた。ただし、感じ方には個人差があるので、購入前に店頭でチェックするといいだろう。液晶パネルの材質は従来のガラスから、プラスチックに変更され、落下に強くなった。筆者は液晶の破損で、Palmを1台ダメにした経験があるため、これは非常に嬉しい改善点だと思った。
初心者向けにアプリケーションを一新
基本性能を割り切ったm100だが、単にコストを削っただけのPalmでないことは、触れてみてすぐに理解できる部分だろう。デザインはもちろんのこと、機能にもいくつかの独創的な試みが追加されている。
中でも注目したいのが、新機能の“クロック”と着せ替えられる“フェースプレート”だ。クロックは、m100で新たに追加されたソフトで、フリップカバーを閉じた状態で、スクロールボタンを押すと、カバー中央の透明な窓に時刻を表示する仕組みになっている。最近では腕時計を携帯せずに、携帯電話などで時刻を確認している人も多いと聞くが、同じような使い方ができるわけだ。
m100の新機能『クロック』。フリップカバーの穴からスクロールボタンを押すと、半円形の窓に時刻が表示される |
一方、m100の交換用フェースプレートには、現状で、シルバーミスト、ブルーミスト、パシフィックブルー、ルビーパール、グリーンミストの5色が用意されている。PalmIIIシリーズには、これまでもサードパーティー製の独創的な交換ボディーが用意されていたが、純正オプションが用意されたのは初めてのことだ。常に持ち歩くPDAはファッションの一部と言える。m100のフェースプレートはハメコミ式で簡単に取り外せ、その日の気分やT.P.O.に合わせて自由なデザインを選択することができる。今後サードパーティーからより斬新なデザインのフェースプレートが登場することを期待したい。
フェースプレートはオプションでカラフルに着せ替えられる |
使い易さ重視の標準ソフトとHotSyncケーブル
初心者向けを前面に押し出したm100は、標準ソフトの構成も従来と大きく異なっている。PC上の未読メールをダウンロードして参照できる“メール”、支出の記録ができる“支払いメモ”などのソフトが姿を消し、代わりに前述の“クロック”と“手書きメモ”が新たに追加された。手書きメモは、Graffitiで入力する従来のメモ帳とは異なり、スタイラスでグラフィックスとして直接書き込むメモ帳だ。絵や図も気軽に書き込めるので、より手軽に使える。
また、Graffitiエリア(手書き入力エリア)周辺部のデザイン/レイアウトにも手が加えられ、Graffitiエリアの文字入力部分がやや大きくなり、コーナーにコントラスト調整と時刻表示のボタンが追加されている。その4隅にあるアイコンのデザインも変更されたが、機能説明の文字が消えてしまったため、機能がわかりにくくなってしまったのは残念な部分だ。
GraffitiエリアのデザインやレイアウトはPalmごとに多少異なっている |
m100にはクレードルが付属せず、PCとの同期には専用のHotSyncケーブルを使用する。HotSyncケーブルはシリアル接続で、コネクター部分には、HotSyncボタンが装備されており、ワンタッチでm100内のデータとPC上のデスクトップソフトの同期ができる。クレードルがケーブルになったことで、持ち運びが容易になったが、同時に本体を立てて置く場所がなくなった。オプションでUSBまたはシリアルのクレードルが用意されているので、シリアルポートを持たないMacintoshユーザーやクレードルが必要と感じたユーザーは購入するといいだろう。
HotSyncケーブルはコネクタ部分にHotSyncボタンを装備。コネクタ部分は空洞になっている |
なお、m100のコネクタ形状は独自であるため、従来の周辺機器の流用はできない。携帯型キーボードなどがm100用に提供される予定だが、通信用のケーブルなどは今のところ用意されていないので、注意しておきたい。
アイデア重視のエントリーパーム
このようにm100は、Palmの世界にこれから足を踏み入れようとするエントリーユーザーを対象にした、低価格で個性的な機能を搭載したPalmである。時刻をすぐに確認できる“クロック”、“着せ替えられる”フェースプレートなどは、従来のPalmの持っていた“ビジネスのツール”、あるいは“マニアの玩具”といった雰囲気とはかなり異なった印象をユーザーに与えることだろう。
メモリー容量と拡張性が乏しい点から、ソニー(株)の『CLIE』のような幅広い機能の利用は難しいが、シンプルで定評のあるPalmのPIM機能(予定表、アドレス帳など)は当然利用できる。価格も現行製品で最も安価であるため、「電子手帳」の置き換えとしてPalmの世界をまず体験してみたいというユーザーにお勧めできる製品だ。
電池収納部のふたにはPalmのロゴが。ふたはやや取りにくい |
Palmデバイスで、競合となりそうなのは、約1万円高い値付けをしたハンドスプリング(株)の『Visor』である。Visorは、標準8MBのメモリーを搭載した上級機で、Springboardモジュールによる拡張性もある。この機能差と価格差をどう考えるかが選択のポイントとなるだろう。