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【HCDP2000展Vol.1】触って知覚できる“タンジブル・ビット”

2000年09月11日 18時40分更新

文● 船木万里

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世田谷文化生活情報センター“生活工房(キャロットタワー)”において、9月7日より“HCDP2000展コミュニティの未来デザイン”が開催されている。8日、このプロジェクトの基調講演・基調シンポジウムが行なわれた。

講演は、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ教授の石井裕氏。基調シンポジウムは、石井氏に加え、武蔵野美術大学教授の柏木博氏、名古屋市立大学教授の川崎和男氏を迎えて行なわれた。生活工房内の情報プラザ、ワークショップルームでは、引き続き10月1日までプレゼンテーション展示が行なわれている。本稿では石井裕氏の講演を中心に報告する。

マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ教授の石井裕氏

思考のプロセスとしての視線――クリアボードの可能性

石井氏はMITメディアラボにおいて、デジタル情報を触覚で探知できるインターフェースについて研究している。人間の五感に訴えかける物理的な実体をデジタル情報に与えること、すなわち“タンジブル・ビット(触って知覚できるビット)”を考え続けてきた。

「人とデジタル情報、物理的な世界の間をつなぐ、シームレスなインターフェースをつくっていきたい」と語る石井氏

最初に紹介された“クリアボード”は、“遠く離れた空間をつなぐ空間拡張のデザイン”として、'91年ごろに石井氏がNTTヒューマンインターフェース研究所で設計したもの。

自分と相手の描いた線、相手の顔が見え、ガラス越しに話しているような感覚を持てる“クリアボード”

“水森亜土”的にガラス板をへだてて話しながら、両側から絵を描くというコンセプトのもとにつくられたもので、スクリーンには描いた絵と相手の上半身映像が映し出され、離れていても、スクリーンのすぐ裏側にいる相手と話しているような状況を作り出している。この装置において、相手がどこを見ているのか、というアイ・コンタクトが可能であることは非常に重要だと石井氏は言う。視線は思考のプロセスとして動くため、その視線を捉えることで、言葉によらない微妙なコミュニケーションが可能になるのである。

ものにデジタルの意味を与えるということ

次に石井氏が手にしたのは、“そろばん”。「そろばんは、玉をフィジカルにさわって計算できる計算機。非常にシンプルで、透明性が体で感じられる構造になっている。こういう道具は、単機能ではあるが持っていて楽しく、愛着がわく。手の中に握れる“道具”によって、これまで人間はアクティブにものを創造し、表現を行なってきたのだ」と語った。物理世界のもつこうした側面をデジタルインターフェースに与えることにより、人のもつ生産性やスキルをデジタルの世界に広げていく方法を考えてきた。

現代建築は無機質だが、自然界には人間の五感で捉え得るさまざまな情報がある。このような光や影、空気の流れ、温度などの情報を詩的にデジタル表示できないかと考えられたのが“かざぐるま”。研究室に取り付けられているかざぐるまは、ナスダックの証券取引活動の数値を変換しながら回っているという。風という“インビジブルな気配”を感じとる、人間の周辺感覚を利用したインターフェースとして設計されたものである。

証券取引の数値を表しながら回る“かざぐるま”

同様に、遠くにいる人の気配を、触覚によって感じとれるものとして作られたのが“インタッチ”。同一の2個のローラー装置が通信回線によって接続され、一方のローラーを手で回すと、もうひとつも全く同じように回転するというもの。ローラーに加えられた力を感じとることで、距離を超え、同じものを共有しているような感覚をもつことができる。

石井氏は机にあったエビアンのボトルを持つと、「これはただのボトル。でも、誰もさわらないのにすっと動いたら、そこに幽霊の存在を感じるはず。これまでコミュニケーションメディアは、リアルな映像などで表現するバーチャルリアリティーを目指してきたが、やはり人間の五感は騙せない。やればやるほど嘘っぽさが際だってしまう」。

そこでメディアの方向性を全く逆に捉え、相手の肉体を表現するのではなく想起させることを目指した結果、インタッチは手のひらの鋭敏な触覚を介して、これまでにない豊かな感情を伝達しあえるフィジカルなメディアとなった。

手で回すと、もう一方も同じ動きをする“インタッチ”の試作品

さらに、モノに新たなデジタルの意味付けを行なうための“電球”として“I/Oバルブ”がつくられた。これはデジタルな光と影を計算し、テーブルや紙箱に投影することによって、空間的なアレンジを与えられるもの。“時計”をセットすることで、時間毎の建築物の影をテーブルに描いたり、ビル風の状態や光の反射などをシミュレーションすることができる。コンピューターのモニターではなくテーブルを囲んで、複数の人々が自分で建築物のモデルを直接動かしながら検証することが可能となった。

建築物の影や風の流れなどを投影する電球“I/Oバルブ”。テーブルの表面がそのままインターフェースとなる

人のもつ完成を生かしたインタラクションによる楽しみ

こうした考えをさらに推し進め、抽象的な形状に自由に違った意味を与えるものとして石井氏が作り出したのは、マグネットで連結する三角形の積み木“トライアングル”だ。それぞれにマイクロプロセッサーが内蔵されており、連結による構造の変化に応じてデジタル情報も連結され、それがホストコンピューターに報告されるというもの。

卓球台の表面にデジタルの波を起こすという“ピンポンプラス”は、石井氏が最も得意とするスポーツによって、学生の尊敬の念を勝ち取ろう!? という思いから生まれたものらしい。卓球のボールが当たった部分に波紋が起こったり、色が付いたり、魚が逃げていくという映像を天井から投影することで、新たな楽しさを卓球というスポーツに与えている。

“ピンポンプラス”。ボールの動きに応じて、プロジェクタから、卓球台の表面にさまざまな映像が投影される
 

“カーリーボット”は子どものための教育的おもちゃ。つかんで動かすと、そのジェスチャーを細部まで記憶し、同じ動作を繰り返す。イマジネーションを想起させるため、デザインを抽象的な形にとどめている。このおもちゃは、手でつかんで動作を教え込むということにより、愛着が生まれる。子供たちは、自分のパーソナリティーを投影させて物語をつくるという、予期しなかった遊び方をつくりだしているという。

教えた通りの動きを繰り返す“カーリーボット”。シンプルなデザインだがかわいらしさも感じられる

音楽のつまった小瓶をイメージした“ミュージックボトル”は、栓を開けると音楽が鳴り出し、栓をすれば鳴り止む。この仕組みは、瓶に電磁センサーを組み込み、磁界の変化で瓶の開閉を検出するというもの。

石井氏が母のために考えた、栓をあけて小鳥の声がすれば明日は晴れ、という“天気予報の小びん”のアイデアを元に実現した。“ジャズ”、“テクノ”、“クラシック”のびんがある。落とせば割れる危うさ、透明な美しさなど、ガラスという材質の持つ情緒的な感覚を楽しみながら「どんなものを入れようか」という想像を誘う、デジタルアート作品に仕上がっている。

ふたを開けると音楽が流れ出す“ミュージックボトル”。3つのびんにそれぞれ、ピアニストやドラマーが入っているようなイマジネーションを誘う

これらの作品すべてに共通するのは、石井氏が子供時代に楽しんだものであるということ。

お絵かきや積み木遊びが好きでそろばんを習い、卓球が得意な石井氏が開発した研究作品はどれも、フィジカルな感覚にデジタル情報を付加する。石井氏は、人間のもつ豊かな五感や、これまで積み上げてきたスキルを生かしながら、どのようにデジタルなインタラクションとして表現するか、ということをいつも考えながら研究を続けてきたという。

今後も、多機能を誇るPDAなどとは違う方向で、周囲にとけ込んで見えなくなっていくような、デジタル世界と物理世界をシームレスにつなぐテクノロジーを開発していきたい、と石井氏は結んだ。

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