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スター総出演の教育推進用プロモーションビデオも流れるロサンゼルスの映画館――『インターネットと教育』フェスティバル2000より(前編)

2000年08月29日 10時47分更新

文● 船木万里

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8月26日、27日の2日間にわたり、早稲田大学で“『インターネットと教育』フェスティバル2000”が開催された。主催は、インターネットと教育フェスティバル実行委員会、同フォーラム実行委員会。また、早稲田大学国際会議場では“インタラクティブエデュケーション2000”が併催された。各会場では講演、セミナーやカンファレンス、展示などが行なわれた。

会場では、30社以上のソフトウェア・ハードウェアメーカーや出版社によるブース出展が行なわれた

アメリカの産学連携。新しい時代の教育に必要な要素とは?

26日、特別セッションとして、ロサンゼルス市教育委員会のEiko Moriyama氏が“アメリカの教育現場から”と題し、米国の産学連携の現状について報告した。

拙い日本語で挨拶した後、英語に切り換えたMoriyama氏は、全米でも最大の産学連携促進団体のpresidentを務めている、と自己紹介。産学の連携は、今後の人材育成に最も大きな役割を果たすべき要素であり、教育者もこれまでの考え方を払拭し、新たな教育方法を実践するときに来ている、と語った。

ロサンゼルス市教育委員会のEiko Moriyama氏。「顔は日本人ですが、日本語は得意ではありません」

新しい人材育成の成功に必要なものとして、まずMoriyama氏は、実際に学校で学ぶ内容が、実社会においても必要な情報であること、そしてそれを生徒たちに認識させることが重要であると述べた。生徒は誰でも価値のある社会人になりたいと願っているが、実社会で必要な情報と、学校での勉強がどうつながっていくのかを理解させることは難しい。実際、教室の中だけで全てを学べるわけではなく、学校から出て学ぶべきことは多い。企業が門扉を開き、ビジネスの現場を見学させたり、インターンとして実際に仕事を経験させるなどの機会を与えることによって、生徒たちは職業に対する意識を小さい頃から持つことができ、学校の勉強においてもその意味を理解できる。

ロサンゼルスの小学校では、career awarenessという授業で、今どういう仕事があるのか、また今後の数十年でどんな仕事が出てくるのか、などを学習している。さらに企業の内部を見学し、コンピューターの仕事における役割などを見て、学校での学習が社会での仕事に役だつことを理解する。また中学生になると、どういう仕事を選びたいかを考えさせ、1日その仕事に携わっている人の後について、実際の仕事の流れを見たり、インターンとして仕事に携わるという経験を通して、仕事についての理解を深めていく。仕事に対する責任感を持たせる意味で、こうした生徒たちに給金を支払ってもよいとする企業もある。こうした実地研修を経て、子供たちは職業に対する明確な意識を持ち、学校での学習が職能とどう関わっていくのかを理解できるのだ。

企業の教育現場への参加

このように、生徒たちに実地教育を行なうためには、学校と企業が密接なつながりを持たなくてはならない。

企業や地域ベースの組織、保護者組織など、新しいリソースを学校に持ち込むグループとの連携を強めることは、今後の教育においては必要不可欠な事項となってくる。しかし、パートナーシッププログラムでは、学校側は企業側に資金提供などを要求してはならない。むしろ、社内に生徒たちを受け入れてもらったり、学校に来て個人指導してもらったりなど、生徒たちに刺激を与えるマンパワーを依頼することが重要である。学校側では、社長に講演を依頼するなど、トップの人材を味方につけ、さらに、学校行事などにも招待し、年間を通じてコミュニケーションを継続していかなくてはならない。個人のネットワークが企業間のつながりをも生みだし、さらに密にコミュニケーションを取ることによって、新たな業界へと広がりを見せることもある。

新しい教育を、企業の参加によって実現していきたいと語るMoriyama氏

ロサンゼルスでは、エンターテインメント業界が特に教育、人材育成を支持しているとMoriyama氏は言う。野球チーム“Dodgers”では、たくさん本を読んだ子どもを試合に招待したり、グッズをプレゼントするなどの読書支援プログラムを行なっている。また映画会社では、映画スターに学校で講演させたり、スター総出演の教育推進用プロモーションビデオを予告編放映時に流したりしている。社内コンピューターラボを解放し、利用できるようにしたり、課外授業などのボランティアを派遣している企業もあるなど、地域に密接して、さまざまな形での教育支援が行なわれている。

現在ロサンゼルスでは、教育レベル維持のため、富裕層の個人的ネットワークを利用し、教育資金集めが行なわれている。企業側としても、企業の将来に大きく関わる問題として人材育成には大きな興味を持っている。資金は設備や教材だけではなく、よりよい教育者育成のためにも使われ、特に校長の養成には今後力を入れる方針だという。

ロサンゼルスの映画館で流れている、教育推進用プロモーションビデオ。映画スターが一言ずつ教育についてのメッセージを語る。写真はウーピー・ゴールドバーグ

Moriyama氏は「第一面に、カリフォルニア州では、奨学金として12億ドルを割り当てることが決定したと報じられている」と、飛行機内で読んだというLosAngeles Timesを広げて見せた。この奨学金は、低所得者層の子供たちに大学進学のチャンスを与えるものだという。

このように、教育問題は企業を支える問題であると同時に、地域社会全体の問題であると認識し、努力することが今後は重要であるとMoriyama氏は語り、日本には巨大企業も多く、子供たちに支援の手をさしのべることができるはずだと、今後の日本での産学提携に期待を寄せた。

「グローバルな経済の変化に対応して、しっかりした事業計画を持てる力、物事を深く考える能力を育てて行く必要がある。社会の変化に応じて新しい能力を身に付けた人材を、地域社会全体で育成していくべき」

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