【COMDEX Spring Report Vol.2】「そのうちにWindowsを抜いて、最も有名なOSになるかも」--Linus Torvalds氏講演
1999年04月20日 00時00分更新
COMDEX SpringはWindows Worldとの併催であることから、メイン会場となるサウスホールではWindows関連の展示やカンファレンスがほとんど。しかし、通路を挟んだ反対側のノースホールでは、Windowsの宿敵であるはずのLinuxについてのカンファレンス“Linux
Global Summit”が開催されている。
カリスマの登場に、全員がスタンディングオベーション
19日の午前10時30分から、Linuxの創始者であるLinus Torvalds(リーナス・トーバル)氏の講演が開催された。ビル・ゲイツ氏の基調講演からわずか30分後というスケジュールにも関わらず、さほど広くないホールに用意された400ほどの椅子は早々と埋まり、まさしく立錐の余地もないほどに多くの観客が集まった。まずは、Linuxコミュニティーではおなじみの存在であるMad Doc氏が登場し、簡単にTorvalds氏を紹介した。そのときTorvalds氏は夫人と2人の子供とともに、会場の最前列に着席。よく家族的と表現されるLinuxコミュニティーを地でいっている雰囲気だ。
Mad Doc氏にうながされてTorvalds氏が壇上に上がると、会場全体がスタンディングオベーションで拍手と歓声の嵐。まさしく、Torvalds氏はカリスマとして受け入れられていた。
“Linux, The Little OS That Could”と題されたこの講演で、Torvalds氏はまず“Special Thanks”としてMad Doc氏をはじめとするLinuxコミュニティーの面々への感謝の意を表明した。基調講演というよりは、なにかの受賞スピーチのような趣で、Linuxがコミュニティーによって支えられていることを実感させられる光景だ。
次に、Torvalds氏が学生時代に新しいUNIXを作ろうとカーネルを開発した経緯を紹介。会場にいる全員が知っているであろうエピソードではあるが、あらためて本人の口から聞くことにありがたみ味があるという按配だ。
大企業への批判、隠すことのないWindowsへの非難
続いてTorvalds氏は、“Large Vision, System Should Be”というキーワードを紹介した。OSは開発側の都合だけではなく、つねに大きなビジョンを持って開発されなければならないという持論を強調する。そのうえで、自身が開発したLinuxにおいても、自分が作ったということにこだわらず、新しいフィーチャーが欲しいというユーザーのあらゆる希望が尊重されるべきだと指摘。UNIXがもともと備えていた柔軟性は、本当にありがたいものだと述懐した。ここで、突然会場の照明が暗くなるというアクシデントが発生。そこですかさず観客のなかから「Windows2000のデモだ!」という声が上がり、会場は爆笑。期せずして、Windowsに対する反発心が露呈した。
Windowsに対する敵愾心は相当なもので、Torvalds氏の口からも“マイクロソフトは本当にどうしようもないやりかたでどうしようもないものを作っている”という言葉が飛び出すほど。
JAVAについても、プラットフォームを選ばないアーキテクチャーや、オープンな開発環境に魅力を感じていたが、サン・マイクロシステムズがJAVAを間違った方向にミスリードしていったため、今では失望してしまったと真情を吐露した。Torvalds氏によると、Linuxコミュニティーでは、サンはすっかり嫌われ者になっているとのことだ。
Linuxでは、多くのプログラマーが、仕事とは関係のないところで開発を進めていることが知られている。このことについてもTorvalds氏は、「無給のグループのほうが、大企業よりもいい仕事をしている」と語り、大企業を批判する姿勢を見せた。
Torvalds氏は、また、Linuxのユーザー数が年を追って増加していることを再確認した。開発を始めた'91年には10人足らずだったユーザーが、'93年には5000人、'95年には数十万人、'96年には100万人以上に達したことをアピール。近い将来にはWindowsを抜いてもっとも有名なOSになるかもしれないという本気ともジョークともつかない見通しを披露し、満場の喝采を浴びていた。
大原則は、Linuxの著作権はつねに1つだけ
Linuxの現状については、現行のバージョンが登場してからすでに2年半が経過していることをあげ、商業ベースのOSが頻繁なアップデートを繰り返すことを暗に非難した。また、Linuxの開発がつねに続けられており、より多くのハードウェアでLinuxが走るようになり、対応プラットフォームも増え続けている事実を指摘する。サーバー向けやデスクトップ向けだけではなく、PDA向けや埋め込み用途向けのLinuxも登場するだろうという見通しに言及した。
現在市場に出回っている商業パッケージについては、Linuxが普及する上で大事な存在であると尊重の意を示す。一方、あらゆるベンダーは、ほかのベンダーが開発したファイルを互いにコピーして利用する権利があるというルールを確認した。
そのうえで、たとえばFred氏が独自バージョンのLinuxを開発して『Fredeix』として販売しても構わないと断言した。ただし、その場合もLinuxの著作権のもとに頒布されることが絶対条件であり、ほかのLinuxに対して排他的なバージョンを作ることは許されない(その場合は、Linuxではなくなる)という鉄則を強調する。
Unixの信奉者と認識されがちのTorvalds氏だが、講演のなかでは「ワープロを使うときはワープロソフトを使いたいのであって、決してOSを走らせたいわけではない」と語り、OSだけが突出して話題にされることが必ずしも好ましくないという認識も披露した。
スパコンからPDAまでLinux?
その認識を踏まえながらも、将来的にはLinuxがスーパーコンピューターからPDAまであらゆるレベルで使われるようになって欲しいという希望を述べる。スケールアップとスケールダウンの両方が大切であると指摘した。ここでTorvalds氏は、日本でブラウザー付きの冷蔵庫が開発されたというエピソードを紹介。日本ではわりとおなじみのニュースだが、米国ではほとんど知られていないようで、興味深げに耳を傾ける観客が多かった。埋め込み型Linuxの例としてインターネット冷蔵庫を挙げたTorvalds氏だが、「でもボクには必要ないよ」とのことだ。
今回の講演では、聴衆が必ずしもプログラマーなどの技術者ばかりではなかったためか、技術的に突っ込んだ話題は出なかった。もっとも、普段はTorvalds氏に接することのない一般ユーザーが多いせいであろう、熱狂度はむしろ高い。講演終了後には観客がステージに一気に押し寄せ、次々とTorvalds氏にサインをねだるありさま。だが、何一つ嫌な顔をせず、といって決して得意がったりもせず、Torvalds氏はにこやかにサインをしていた。その姿を見て、Linuxが普及したのはTorvalds氏の人柄によるところが大きいという評判に納得した。